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ナムジャイブログ

2021年08月02日

気温差1度の空気の動き

 僕は布団で寝ている。ベッドではない。理由は、寝る場所を簡単に移動できるからだ。
 東京も暑くなってきた。こういう時期のための布団という気もしなくはない。
 暑い夜、僕はベランダに出る窓際に布団を敷く。頭はベランダ側。ベランダとの間には網戸が1枚。
 冷房があまり得意ではない。できればエアコンのスイッチを入れずに寝たい。ベランダ側に枕を置き、そこに頭をのせる。そして目を閉じる。
 涼しい風が窓から吹き込むというわけではない。しずかに空気が流れ込んでくるのがわかる。部屋のなかと、室外の気温差は1度もない気がする。しかしその温度差で空気は動く。
 風と呼べるほどの強さはない。冷気でもない。わずかな空気の動き。あえていえば涼気だろうか。そこに身を横にしていると、ちょっと幸せな気分になる。涼気は優しい夢を誘ってくれそうな気になる。
 そんなとき、思いだす夜がある。カンボジアのプノンペン郊外。そこに日本人の老夫婦が暮らしていた。彼らが建てた家だった。目に前は蛇行するメコン川の支流がつくった湖があった。
 この家に何回か泊めさせてもらった。はじめの頃は電気も通っていなかった。プロパンガスを使った自家発電機が頼りだった。もちろんエアコンはない。
 夕飯をご馳走になり、暗い湖を眺めながら免税店で買ったウイスキーをちびちび飲む。老夫婦とのアジア話がとろとろと続く。
 聞こえてくるのは、カエルや虫の鳴き声だけだ。
「そろそろ寝ましょうか」
 夜も11時をすぎた頃、どちらからともなく声がかかり、僕は用意してくれた部屋に向かう。
 家はカンボジア流の高床式だ。土台はコンクリート製だが、居住部分は完全な木づくりである。部屋は簡素だ。ベッドが窓と直角の向きに置かれている。
 つまり枕に頭を置くと、すぐ先に網戸という位置になる。そのベッド体を横たえる。音もなく涼気が流れ込んでくる。風とはいえない空気の動き。それを顔や肌が察知する。
 家があるのは、プノンペンからそう遠くない。車に乗れば1時間ほどだ。夜になると、プノンペンの方角の空が明るく見える。
 しかしここまでくると、コンクリートの道は姿を消す。畑と湖と赤土の道。そしてこんもりとした森が続く。
 こんな世界には熱がこもらない。アスファルトやコンクリートからの放射熱がない。日が落ちると、地面はしだいに温度をさげ、それが空気に伝わっていく。わずかな温度の違いで、人は簡単に幸せな睡眠に向かう。
 オリンピックで東京にやってきた選手は、その暑さに舌を巻いているというが、本当に暑い夜にはなっていない。まだ涼気が流れ込んでくる。室内より外の方が暑い……それが熱帯夜と僕流に解釈している。

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Posted by 下川裕治 at 17:49│Comments(0)
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