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ナムジャイブログ

2021年08月23日

僕がいる場所

『アジアがある場所』(光文社)が発売になる。日本のなかのアジアの物語である。その場所に足を運んでいるから、旅の本でもあるのだが、僕の場合は、そこにいるアジア人に会いにいく旅の色合いが強い。
 日本のなかのアジアという話になると、エスニックタウンが登場し、店やそこで味わえるアジア料理を発想する人が多い。しかし、この本には、店や料理があまり登場してこない。ミャンマー人の店は寿司屋である。しかしそこにアジアが顔をのぞかせる。どこかのんびりとしたアジア顔で。ときに雨やにおいといった抽象的なアジアもある。そんなアジアの本だ。
 アジア人とのつきあいは長い。僕がアジアを歩きはじめた頃、日本は好景気が続いていた。不法就労という形で日本にやってくるアジア人が跡を絶たない時代だった。
 彼らと頻繁に会ったのはエスニックタウンだった。目の前には悩むアジア人がいるわけで、料理より人に傾いていくことはしかたなかった。ときに彼らの人生がずっしりと肩に乗ってくる。命にもかかわった話になってくる。だから、自分でいうのもなんなのだが、僕の日本でのアジア話は、重くなってしまうのだ。ラープを口に運んで、「辛い」など無邪気に楽しんではいられないアジアである。
 必要なのは、彼らとの信頼関係だった。ときに金も絡んでくる。そういう人間関係を築くとき、いちばん重要になってくるのは互いに対等だ、という意識のように思う。
 日本人のなかには、アジア人を見くだすような態度に出る人が少なくない。シニア層だけではない。最近の若者のなかにも、意外に多い。使う言葉の端々から、彼らはそのあたりを敏感に察知する。それは日本人も同じだと思う。海外に出ると、相手の態度や言葉に敏感になる。
 たとえば税金の話になる。
「日本では税理士に依頼して節税するから」
 と日本人が口を開き、その先に続ける言葉で、アジア人の反応は変わる。
「あなたの国にはそんないいシステムはないでしょ」
 などというと、アジア人との関係は崩れていく。ところが、
「あなたの国にもいい税理士っている?」
 などというと話は和やかに進む。互いの信頼関係は、その積み重ねの先にある。
 そういうことだと思う。僕が意図して、そういう言葉を選んでいるわけではない。日本にあるものはだいたいアジアにはあると思っているからだ。それが旅の経験ということなのかもしれないが、実感でもある。
 そして皆、同じように飲む水には気を遣っている。野菜に残った農薬も気になる。そういうことはまったく同じ……その前提に立って話すと、彼らの視線は落ち着き、僕との信頼関係は強くなっていく。そこには言葉はあまり関係がない。
 こうしてできあがった関係はときに鬱陶しい。面倒でもある。しかし僕が困ったとき、支えてくれるのも彼らという気がする。そしてその関係があるから、穏やかな心境になれる、彼らがいる場所に足が向く。『アジアがある場所』は、僕がいる場所である。そして心が休まる場所。
 そんな話をまとめた本だ。僕は気に入っている。

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Posted by 下川裕治 at 10:28│Comments(0)
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