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ナムジャイブログ

2022年06月06日

密航者の街の「国境」

 3月にタイのメーソートを訪ねた。ミャンマーとの国境に近い街だ。
 ミャンマーでクーデターを起こした軍の弾圧を逃れ、1日300人ものミャンマー人がタイに逃れてきている。その何割かはメーソートで息をひそめるように暮らしている。
 メーソートから国境まで行ってみた。途中にチェックポイントはなかった。つまり国境の川をこっそり渡ったミャンマー人は、メーソートまでは辿り着くことができる。
 しかしここからバンコクに行くのは難しいという。何重のもチェック体制が敷かれているのだ。
 これがタイの国境管理術だった。ミャンマーとタイの間の国境は長い。そこを管理するのはなかなか大変だ。そこでタイの中心部に行く道でブロックするわけだ。このほうが効率がいい。
 メーソートの街で密航者が多いエリアを歩いた。密入国だから立場は不安定だが、表情は暗くない。この街にいる限り命は危険に晒されることはない。
「そういうことか」
 アジア式国境の知恵に気づいた。いまさらながら。一方の国で争乱や弾圧が起きると、人々は越境し、その先の街に潜む。軍は越境してまでは攻め込まない。そこには対外的に認められた国境がある。そこを越えると、国と国という問題に発展してしまう。そのへんを巧みに使う。こうして民間人に犠牲者が出ることを防いできた。
 ウクライナに侵攻したロシアが起きした戦争は、領土戦争である。プーチンの頭のなかにあるのは、かつて強大だったロシアの地図だという。それをロシア人のナショナリズムに結びつけ、強引な領土拡大への支持に転化している。
 ロシアがしかけたものは領土戦争だから、アジア式国境感とは異質だが、そこにあるのは国境というものへの硬直感である。アジアのように表向きの国境と、その周辺に暮らす人々への柔軟さがない。
 かつての強大だったロシアの復権は、現代と過去の衝突である。ロシア人のなかにはソ連崩壊という屈辱感が流れている。しかしソ連から独立していった国々は、いまを生きようとしている。その焦点は国境というものになる。
 中国にも似た発想がある。一部の中国人の頭のなかには、清がいちばん強大だった地図が描かれているという。それをあてはめていくと、台湾は当然、中国のものになる。それどころは、韓国や北朝鮮、ベトナムやタイ、マレーシア、そしてカザフスタンなども中国の領土になるのだという。
 中国も清の時代の中盤から、ヨーロッパの列強に圧力に晒され、屈辱をなめてきた。それをとり戻していくことはナショナリズムをより強いものにする。香港返還後にみせた中国の強硬策は、中国の復権がベースにある。
 国境とは厄介なものだ。突き詰めると、人間の本質にぶつかってしまう。
「国境がなくなればどんなに平和になるでしょう」
 という発想もあれば、
「人は人を差別しないと生きていけない」
 という言葉もある。
 しかし、メーソートの越境者には笑顔がある。足場は限りなく危ういが。

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Posted by 下川裕治 at 15:17│Comments(0)
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