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ナムジャイブログ

2022年08月01日

汚れっちまったコロナ禍に

 今日、4回目のワクチンを接種した。接種会場の椅子に座りながら、中原中也の「汚れっちまった悲しみに……」という詩を思い出していた。
「汚れっちまった悲しみに
なすところもなく日が暮れる……」
 その一文をもじれば、
「汚れっちまったコロナ禍に
なすところもなく日が暮れる……」
 そんな心境だろうか。
 これから接種した場所が少し腫れ、どのくらいなのか熱が出る。そして市販の解熱剤を飲んでという経緯も織り込まれている。もう4回目なのだ。
 はじめてワクチンを接種したのは去年の5月だった。そのときは、社会に緊張感が漂っていた。どこなら早く接種できる……という情報が乱れ飛び、そのなかで接種した人は得意げな面もちだった。
 僕も家人から大手町の大規模接種センターのほうが早いといわれ、予約を入れた。接種会場は、大学を卒業して勤めた新聞社の近くで、少し懐かしかった記憶がある。
 僕の接種した日は、予約システムにトラブルが生まれ、会場の外に長い列ができた。テレビ局がその様子を撮影していた。
 1回目の接種後に6月の2回目の予約を入れた。2回目も大手町だった。
 あの頃、ワクチンはウイルスから体を守る救世主のように崇められていた……といったら少しオーバーだろうか。
 僕は海外に住む知人が多いから、しきりと連絡が入った。なかなかワクチンが接種できない国や、接種できても中国製という国が多く、なんとか日本でモデルナかファイザーのワクチンが接種できないか、という問い合わせだった。その文面からは焦りも伝わってきた。ワクチンを早く接種しないと、ウイルスに感染して死んでしまうといった思いが、メールの行間に漂っていた。
 去年の秋、日本はワクチン接種をめぐってのドタバタがつづいていたが、ウイルスは変異を繰り返し、デルタ株が猛威をふるい、結局僕は今年の1月、3回目の接種を受けることになる。海外に出向くときも、このワクチン接種証明は必須書類になっていく。ヨーロッパを訪ねたときは、まるで水戸黄門の印籠のように、さまざまな場所で差し出すことになった。
 そして今年の6月、僕はしっかりと新型コロナウイルスに感染してしまう。ワクチンがつくる抗体はそれほど長つづきしないのか、変異種はその間をかいくぐるのか……原因もわからないまま自宅待機を強いられてしまった。
 この1年の間に、ワクチンへの期待は少しずつ薄れていった。しかし人間は、さまざまな手法でウイルスと闘った。そこに沈めば沈むほど、その過去は浮き立ってくる。だから失敗などではなく、「汚れっちまった……」感が募ってくる。
 これからも何回かワクチンを接種していく気がする。そのたびに、「汚れっちまった悲しみに……」と繰り返すのだろうか。


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Posted by 下川裕治 at 14:10│Comments(0)
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