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ナムジャイブログ

2022年11月14日

ブランドと詐欺が錯綜する美術館

 先月、河野元昭館長に招待されて、東京の丸の内にオープンした静嘉堂文庫美術館を訪ねた。見たいものがあった。そこに展示されている「唐物茄子茶入 付藻茄子」である。 付藻茄子は「つくもなす」と読む。ナスの形をした陶磁器の茶入れだ。茶入れは茶道具のひとつで、そこに抹茶の粉を入れた。
 もともとは足利義満がもっていた茶入れだという。それが転々とし、戦国時代の武将、松永久秀の手に渡る。松永はこれを織田信長に献上し、大和の国をわけ与えられている。ひとつの茶器が一国の価値をもつ。付藻茄子は一躍、有名になった。
 織田信長は茶会でいつもこの茶入れを使った。本能寺の変で焼失したと思われたが、なぜか豊臣秀吉の手に。最後は大坂夏の陣で割れてしまうが、徳川家康は当時の塗師に命じて、焼け跡のなかからそのかけらを拾い集めて修復させた。
 それが静嘉堂文庫美術館に展示されているのだ。館内に入り、真っ先に付藻茄子に向かう。その前に立った。
「これッ?」
 あまりに質素な陶器だった。専門家はバランスのいい形状や釉薬の美しさを評価するのだが、僕の目には、普通の茶入れにしか映らなかった。横に置かれていた棗のほうがはるかに立派に見えた。
 そういうことなのか。改めてあの時代に思いを馳せる。
 お茶というのは不思議な力をもっている。単なる飲み物では語れない世界を簡単につくりだしてしまう。台湾に行くと茶芸館という世界があり、中国茶に詳しい茶芸師という資格まである。日本でも、飲んだ茶を当てる闘茶が南北朝時代に流行し、それが茶会に発展していったともいわれる。
 日本の場合は、茶の世界は武将のステータスに絡んでくる。その世界は、千利休が完成させた「わび茶」と結びつき、政治に利用されていくわけだ。茶道具はとんでもない価値を生み、豊臣秀吉は「茶の湯御政道」という言葉まで残している。つまり茶の世界をブランド化して、都合のいいように使っていくのだ。
 しかし視点を変えれば、それは大嘘にも映る。戦国時代、流した血への見返りを架空世界で価値を高めた茶器で支払っていく。いくつかの状況が重ならないと成立はしないが、冷静になって考えれば詐欺に限りなく近い。ブランドというものは、どこかそういう要素をもっていて、ルイビトンのバッグの価値を誰も数値では表せない。
 旧統一教会である世界平和統一家庭連合の壺にしても、外から見れば詐欺に映っても、信者にしたらブランドである。
 付藻茄子を前に悩みつづける。詐欺とブランドはどう違うのか。付藻茄子が背負った歴史は、人間がもつ虚栄を越え、貴重なコレクションになった。その実物が目の前にある。美術館は奥深い世界である。

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Posted by 下川裕治 at 14:54│Comments(0)
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