2023年01月16日
雑駁ロシアの自販機物語
最近、しばしば西川口に行く。西川口といえば、いまや中国人色が強い街として知られているが、中国の料理を食べることが目的ではない。単純に仕事の打ち合わせである。駅とコーヒーショップを往復しているようなものだが、その間にも中国は目に入ってくる。路上を歩くと、大陸からやってきた人特有の強い巻き舌音の中国語が耳に届く。
中国料理店が多いと聞くと、横浜や神戸の中華街を想像するかもしれないが、西川口は少し違う。1ヵ所に店が集まるというより、日本社会に染み込むように広がっいている。現代中国が日本に根を張っていく感覚。なにげなく入ったラーメン店で、周囲を見ると、皆、蘭州麺を啜っている。そんな浸透といったらいいだろうか。
かつては池袋にこの雰囲気があった。いまはそれほど目立たない。西川口がそこを引き継いだということだろうか。首都圏の中国人の街は、確実に北上している。
西川口らしい自販機もみつけた。一見、普通の自販機だが、そこに入っている飲料が違う。並ぶ飲料には、「王老吉」、「〇紅茶(〇は冫に水。氷の意味)、「八寶粥」……といった文字が躍る。そう、中国から直接もってきた飲料なのだ。このあたりが西川口らしいかもしれない。
ふと思い、日本の自販機に並ぶ飲料を眺めてみる。意外と英語表記が少ない。大陸から来た人向けの簡体字はまったくない。日本は自販機大国だと思うが、日本にやってきた外国人は、自販機の前でかなり悩むのかもしれない。頼りになるのは、文字よりも、パッケージの果物の写真や飲料の色だろうか。そこから想像力を膨らましてボタンを押しているのだろう。
日本に暮らす外国人のなかには、日本語がうまい人がかなりいる。しかし日常会話とは違い、自販機前での悩みは文字。多くがデザイン化されているから、漢字を勉強している外国人にとっても、かなりの難度になる。
アジアのなかでは、台湾や韓国に比較的、自販機が多い気がする。僕もそこで買うことはあるが、想像した味と違うことは珍しくない。飲みたいものと違う……それはある種の旅のストレスだが、僕はさして気にしないタイプだ。だから旅がつづけられるのかもしれないが。
以前、モスクワの地下鉄駅の出口で出合った自販機で悩んでしまったことがある。機械には「DyOo」という文字があった。日本の中古自販機だった。こういう機械はアジアでもときどき見かかる。しかしそこに並ぶ飲み物を目にして、固まってしまった。日本の街角に並ぶ自販機とまったく同じなのだ。「ゆずれもん」「さらっとしぼったオレンジ」「アイスココア」……。つまり街角自販機をそのまま船に積み込んで、モスクワの地下鉄出口に置いたようなものなのだ。
そこでまた悩む。補充はどうしているのだろう。商品名ではなく、容器の形や色、デザインで判断しているのだろうか。
自販機を前に立ち尽くしてしまったが、間もなくそこをどかなくてはならなかった。客が次々に現れるのだ。皆、少し悩むが、すっと50ルーブルや10ルーブル硬貨を投入している。旅先でよくわからい飲み物を買うのとは違うのだ。ここはモスクワで、彼らはロシア人……。
「なんて雑駁な人たちなんだ」
氷点下の風が舞うモスクワで、つい呟いてしまった。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
中国料理店が多いと聞くと、横浜や神戸の中華街を想像するかもしれないが、西川口は少し違う。1ヵ所に店が集まるというより、日本社会に染み込むように広がっいている。現代中国が日本に根を張っていく感覚。なにげなく入ったラーメン店で、周囲を見ると、皆、蘭州麺を啜っている。そんな浸透といったらいいだろうか。
かつては池袋にこの雰囲気があった。いまはそれほど目立たない。西川口がそこを引き継いだということだろうか。首都圏の中国人の街は、確実に北上している。
西川口らしい自販機もみつけた。一見、普通の自販機だが、そこに入っている飲料が違う。並ぶ飲料には、「王老吉」、「〇紅茶(〇は冫に水。氷の意味)、「八寶粥」……といった文字が躍る。そう、中国から直接もってきた飲料なのだ。このあたりが西川口らしいかもしれない。
ふと思い、日本の自販機に並ぶ飲料を眺めてみる。意外と英語表記が少ない。大陸から来た人向けの簡体字はまったくない。日本は自販機大国だと思うが、日本にやってきた外国人は、自販機の前でかなり悩むのかもしれない。頼りになるのは、文字よりも、パッケージの果物の写真や飲料の色だろうか。そこから想像力を膨らましてボタンを押しているのだろう。
日本に暮らす外国人のなかには、日本語がうまい人がかなりいる。しかし日常会話とは違い、自販機前での悩みは文字。多くがデザイン化されているから、漢字を勉強している外国人にとっても、かなりの難度になる。
アジアのなかでは、台湾や韓国に比較的、自販機が多い気がする。僕もそこで買うことはあるが、想像した味と違うことは珍しくない。飲みたいものと違う……それはある種の旅のストレスだが、僕はさして気にしないタイプだ。だから旅がつづけられるのかもしれないが。
以前、モスクワの地下鉄駅の出口で出合った自販機で悩んでしまったことがある。機械には「DyOo」という文字があった。日本の中古自販機だった。こういう機械はアジアでもときどき見かかる。しかしそこに並ぶ飲み物を目にして、固まってしまった。日本の街角に並ぶ自販機とまったく同じなのだ。「ゆずれもん」「さらっとしぼったオレンジ」「アイスココア」……。つまり街角自販機をそのまま船に積み込んで、モスクワの地下鉄出口に置いたようなものなのだ。
そこでまた悩む。補充はどうしているのだろう。商品名ではなく、容器の形や色、デザインで判断しているのだろうか。
自販機を前に立ち尽くしてしまったが、間もなくそこをどかなくてはならなかった。客が次々に現れるのだ。皆、少し悩むが、すっと50ルーブルや10ルーブル硬貨を投入している。旅先でよくわからい飲み物を買うのとは違うのだ。ここはモスクワで、彼らはロシア人……。
「なんて雑駁な人たちなんだ」
氷点下の風が舞うモスクワで、つい呟いてしまった。
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Posted by 下川裕治 at 14:38│Comments(0)
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