インバウンドでタイ人を集客! 事例多数で万全の用意 [PR]
ナムジャイブログ

2023年04月03日

壊れていく友人たち

 壊れている……という表現をはじめて耳にしたのは、そう、10年ほど前だったろうか。大学時代の友達が、電車に飛び込み、自ら命を絶った。それから数週間がたったときだったと思う。彼の奥さんと一緒に何人かの友人で酒を飲むことになった。彼の奥さんも同じ大学だったような気がする。いってみれば、大学のサークルのメンバーが集まった「お別れ会」のような雰囲気もあった。僕らは大学で新聞を発行するサークルに所属していた。そのとき、奥さんはこういった。
「最後のほうは、もうだいぶ壊れていたから……」
「壊れる?」
 心が壊れている。
 心が折れるという意味ではない。
 そういう使い方をはじめて知った。
 その伝でいえば、いま、僕の周りには、心が壊れかけている友人が3人いる。
 そのひとりAさんの後輩から急に連絡が入った。
「Aさんと昨日、酒を飲んだんですけど、かなり壊れかけてますね」
 そんな内容だった。壊れるという表現は普通に使われているようだった。
 3人とも65歳前後である。僕より2、3歳若い。男性の更年期というものなのかと思ったが、それはもう少し若いようだ。ネットでみると40歳から60歳代前半に罹ることが多いらしい。知人たちは皆、更年期を越えて壊れはじめたということだろうか。
 Aさんは60歳まで企業で働いていた。再雇用を受けず、フリーランスになった。あとのふたりは、僕と同じようにフリーランスの身だ。僕の周りにいる人たちだから、なんらかの形で、文章を書く仕事にかかわっている。
 壊れていく兆候は、メールや電話でだいたいわかる。壊れかけてくると、周囲が見えなくなり、独善的になっていく。ただ完全に壊れたわけではないから、普通の内容の連絡がくる。しかし電話は深夜、固定電話にかかってきたりする。
「下川さんの携帯電話の番号がスマホから消えてしまって。ちょっと不安になったものだから」
 普段は携帯電話にかけても、まず出ない友人であるしかし翌朝になって、こんなメールが届く。
──昨夜は失礼しました。スマホに下川さんの携帯番号は入っていました。
 別の知人は深夜、いくら読んでも終わらないような長文のメールを送ってくる。これを書くために、いったい何時間かかったのだろうかと考え込んでしまう。文章が乱れているわけではない。しかしなぜ、このタイミングで、長いメールを書かなくてはいけないのかがわからない。
 昼間、返事をするのが疲れてしまうほどの長い電話がかかってくることもある。
 皆、生活は楽ではないと思う。一時はかなり売れっ子だった人もいる。しかし時代は流れ、存在感が薄れてきていることがわかる。思うようにいかないのだ。
 壊れかけている知人は、着実に老人への階段をのぼっているのかもしれない。心は壊れかけているが、首の皮一枚つながって、自ら命を絶たず、脂気のない無我の境地に辿り着けばいいのかもしれない。老いるということは意外に難しい。
 人のことをいえる状態ではないが、壊れかける時期にコロナ禍に遭遇し、うろうろしているうちに68歳になってしまった。僕にできることは、彼らと酒を一緒に飲むことぐらいしかない。

■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji




Posted by 下川裕治 at 14:15│Comments(0)
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。