2024年05月13日
豊かだった国の残影
月に1、2回は東京出入国在留管理局に出向く。略して東京入管。品川からバスに10分ほど乗る。
出向く理由は単純だ。問い合わせ電話が通じないからだ。ホームページを開くと、「外国人在留総合インフォメーションセンター」に問い合わせるように書かれ、そこに電話番号が記されている。そこに電話をかけると、こういうテープが流れる。
「お客様がおかけになった電話番号は現在、使われておりません。または通話ができない状態になっています」
そしてすぐにお話し中のトーンに変わる。
こういった返答テープが流れる役所はそう多くない気がする。電話が混みあっているということのように思うが……。
しかし何回かけても、つながったことがない。これで問題にならないのは、ほとんどの人が電話をかけないからだろう。
問い合わせたい内容はビザ申請の書類の書き方である。僕は最近、ミャンマー人のつきあいが多く、ビザの取得や更新などを手伝うことが多い。そろえる書類でわからないことは多い。
こんなことがあった。ミャンマー人の僧侶のビザを取得する必要があった。僧侶が来日する目的は、寺の内部のレイアウトを決めることだった。必要書類をチェックっすると、寺の内部の写真が必要だった。そしてこう書かれていた。
「撮影日時がわかる写真」
提出する写真はプリントしたものだ。そこにどうやって日時がわかるようにする?
多くの外国人が取得するビザなら訊く人も多いが、とろうとしていたビザのカテゴリーは「宗教」。相談相手も少ない。電話は通じないないから出向くことになる。
窓口で番号札を受けとり、早くて3時間。長いと半日を費やすことになる。手つづきにやってくる外国人は、よく我慢していると思う。
「なんとかならないのだろうか」
窓口で番号札をもらうときまでの思いは、職員の働きぶりを見ていると霧散していく。やってくる外国人の日本語の理解力は高いわけではない。そんな人たちに職員は丁寧に説明する。大変な仕事だと思う。
おそらくこれは、日本という国の制度矛盾のように思う。海外の国々の入管も、基本的にこの傾向があるが、日本の場合はどこかがずれている。
30年以上前、日本に不法就労が急増したとき、取材にかけずりまわっていたことがあった。入管、そして法務省……。そこから伝わってきたことは、外国人、とくにアジア人のほとんどは日本の法律を破って不法に働こうとする人たち……という色眼鏡をかけて眺める視線だった。たしかに当時、日本の経済力は頭抜けていた。そこに対応する役所は、まるで警察だった。使う隠語も警察のそれだった。あらゆる方法で抜け道をつぶしていく発想だった。
それから30数年……。日本経済は衰退し、賃金はあがらず、円安が追い打ちをかける。条件が違うので比較は難しいが、日本人の技能実習生の賃金は韓国の半分ほどだ。
しかし日本の出入国管理は、日本が経済大国だった時代のままだ。実情に合わせれば、入管業務はもっと簡素化する。一時期、日本のホスピタリティで話題になったことがあった。しかし「おもてなし」は表面的な話だ。滞在資格というハード面での日本のホスピタリティはまだ薄い。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
出向く理由は単純だ。問い合わせ電話が通じないからだ。ホームページを開くと、「外国人在留総合インフォメーションセンター」に問い合わせるように書かれ、そこに電話番号が記されている。そこに電話をかけると、こういうテープが流れる。
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そしてすぐにお話し中のトーンに変わる。
こういった返答テープが流れる役所はそう多くない気がする。電話が混みあっているということのように思うが……。
しかし何回かけても、つながったことがない。これで問題にならないのは、ほとんどの人が電話をかけないからだろう。
問い合わせたい内容はビザ申請の書類の書き方である。僕は最近、ミャンマー人のつきあいが多く、ビザの取得や更新などを手伝うことが多い。そろえる書類でわからないことは多い。
こんなことがあった。ミャンマー人の僧侶のビザを取得する必要があった。僧侶が来日する目的は、寺の内部のレイアウトを決めることだった。必要書類をチェックっすると、寺の内部の写真が必要だった。そしてこう書かれていた。
「撮影日時がわかる写真」
提出する写真はプリントしたものだ。そこにどうやって日時がわかるようにする?
多くの外国人が取得するビザなら訊く人も多いが、とろうとしていたビザのカテゴリーは「宗教」。相談相手も少ない。電話は通じないないから出向くことになる。
窓口で番号札を受けとり、早くて3時間。長いと半日を費やすことになる。手つづきにやってくる外国人は、よく我慢していると思う。
「なんとかならないのだろうか」
窓口で番号札をもらうときまでの思いは、職員の働きぶりを見ていると霧散していく。やってくる外国人の日本語の理解力は高いわけではない。そんな人たちに職員は丁寧に説明する。大変な仕事だと思う。
おそらくこれは、日本という国の制度矛盾のように思う。海外の国々の入管も、基本的にこの傾向があるが、日本の場合はどこかがずれている。
30年以上前、日本に不法就労が急増したとき、取材にかけずりまわっていたことがあった。入管、そして法務省……。そこから伝わってきたことは、外国人、とくにアジア人のほとんどは日本の法律を破って不法に働こうとする人たち……という色眼鏡をかけて眺める視線だった。たしかに当時、日本の経済力は頭抜けていた。そこに対応する役所は、まるで警察だった。使う隠語も警察のそれだった。あらゆる方法で抜け道をつぶしていく発想だった。
それから30数年……。日本経済は衰退し、賃金はあがらず、円安が追い打ちをかける。条件が違うので比較は難しいが、日本人の技能実習生の賃金は韓国の半分ほどだ。
しかし日本の出入国管理は、日本が経済大国だった時代のままだ。実情に合わせれば、入管業務はもっと簡素化する。一時期、日本のホスピタリティで話題になったことがあった。しかし「おもてなし」は表面的な話だ。滞在資格というハード面での日本のホスピタリティはまだ薄い。
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Posted by 下川裕治 at 11:52│Comments(0)
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