2024年10月07日
混ぜ混ぜ刺身丼
卵かけご飯が苦手だ。どうしてご飯に卵をかけてしまうのだろうと思う。できれば、卵とご飯は別々にしてほしい。それなら別々に食べることができる。
僕の好みに強引に引き寄せるわけではないが、それぞれの料理を混ぜない……これは日本の料理のひとつのコンセプトだと思っている。白いご飯があり、おかずがある。それを別々に食べる。それは日本料理の王道でもある。
先月、韓国のソウルで刺身丼を食べた。韓国には、さまざまな日本料理が入り込んでいる。若干の韓国風アレンジが加えられていることが多い。とんかつは肉を薄く平らにのばして揚げる。見た目は日本のとんかつよりかなり大きい。しかし味は日本のとんかつに近い。うどんは韓国でも「うどん」と呼ぶ。スープの味は観光風だが、食感は日本のうどんに似ている。漬物のたくあんは韓国人の好物でもある。
その流れで刺身丼を考えていた。しかし出てきた料理に少し戸惑った。丼がふたつ。ひとつには白いご飯。もうひとつの丼には、キャベツの千切りを入れ、その上にマグロの刺身と海苔が載っていた。
「マグロはわさびを載せ、醤油をつけてご飯と一緒に食べる。キャベツはサラダのように食べるのか」
僕は勝手に食べ方を想像した。そのときは韓国人の知人と一緒だった。彼はボトルに入ったコチュジャンを手にとると、マグロの上からかけてしまった。そしてマグロ、海苔、キャベツ全体を混ぜはじめてしまった。
「ま、待ってください。そんなに混ぜちゃったら、マグロの味がわからないでしょ」
知人は僕の疑問など意に介さないといった表情でこういった。
「コチュジャンは酢が入っていて、とってもおいしいんです」
いや、そういうことではない。
彼はある程度混ぜると、あろうことか、そこに丼のご飯を投入してしまったのだ。そして再び、丹念に混ぜはじめた。途中で味を確認し、味を整えるかのようにコチュジャンやゴマ油を足した。これはビビンバと同じではないか。具が違うだけだ。僕はあ然と彼の手許を見つめていた。
彼はその後も混ぜつづけた。おそらく自分好みの味に仕あがったのだろう。彼のなかで完成した刺身丼をもりもりとスプーンで食べはじめたのだった。
僕は固まってしまった。手が動かない。察した知人がこういった。
「知ってますよ。日本人は混ぜないで、刺身と野菜やご飯を別々に食べるでしょ。でも一度、こうして食べてみてください。せっかくソウルにいるんだから。このほうがはるかにおいしいから」
僕は彼に押し切られ、彼の指導で、混ぜ混ぜ刺身丼をつくった。口に運んでみた。
「ん? なんだ、これは」
マグロの刺身という発想で食べると……かなりまずい。というより、刺身ではない。ではなにか、といわれると混ぜ混ぜ刺身丼というしかない。
韓国人は混ぜる料理が大好きだ。その代表格がビビンバである。しかしマグロの刺身をビビンバ風に混ぜてしまっていいのか。加えて僕は、卵かけご飯すら嫌いなタイプだ。
しかたなく混ぜ混ぜ刺身丼を食べ続けた。よく混ぜたから味は均一。同じ味がつづく。半分ほど食べると飽きてくる。ふと見ると、テーブルにはキムチの小皿。これで飽きを防ぐのか……。
僕は日本人と韓国人の間に横たわる舌の溝を思い知らされていた。この溝はかなり深そうだ。
■YouTub「下川裕治のアジアチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
僕の好みに強引に引き寄せるわけではないが、それぞれの料理を混ぜない……これは日本の料理のひとつのコンセプトだと思っている。白いご飯があり、おかずがある。それを別々に食べる。それは日本料理の王道でもある。
先月、韓国のソウルで刺身丼を食べた。韓国には、さまざまな日本料理が入り込んでいる。若干の韓国風アレンジが加えられていることが多い。とんかつは肉を薄く平らにのばして揚げる。見た目は日本のとんかつよりかなり大きい。しかし味は日本のとんかつに近い。うどんは韓国でも「うどん」と呼ぶ。スープの味は観光風だが、食感は日本のうどんに似ている。漬物のたくあんは韓国人の好物でもある。
その流れで刺身丼を考えていた。しかし出てきた料理に少し戸惑った。丼がふたつ。ひとつには白いご飯。もうひとつの丼には、キャベツの千切りを入れ、その上にマグロの刺身と海苔が載っていた。
「マグロはわさびを載せ、醤油をつけてご飯と一緒に食べる。キャベツはサラダのように食べるのか」
僕は勝手に食べ方を想像した。そのときは韓国人の知人と一緒だった。彼はボトルに入ったコチュジャンを手にとると、マグロの上からかけてしまった。そしてマグロ、海苔、キャベツ全体を混ぜはじめてしまった。
「ま、待ってください。そんなに混ぜちゃったら、マグロの味がわからないでしょ」
知人は僕の疑問など意に介さないといった表情でこういった。
「コチュジャンは酢が入っていて、とってもおいしいんです」
いや、そういうことではない。
彼はある程度混ぜると、あろうことか、そこに丼のご飯を投入してしまったのだ。そして再び、丹念に混ぜはじめた。途中で味を確認し、味を整えるかのようにコチュジャンやゴマ油を足した。これはビビンバと同じではないか。具が違うだけだ。僕はあ然と彼の手許を見つめていた。
彼はその後も混ぜつづけた。おそらく自分好みの味に仕あがったのだろう。彼のなかで完成した刺身丼をもりもりとスプーンで食べはじめたのだった。
僕は固まってしまった。手が動かない。察した知人がこういった。
「知ってますよ。日本人は混ぜないで、刺身と野菜やご飯を別々に食べるでしょ。でも一度、こうして食べてみてください。せっかくソウルにいるんだから。このほうがはるかにおいしいから」
僕は彼に押し切られ、彼の指導で、混ぜ混ぜ刺身丼をつくった。口に運んでみた。
「ん? なんだ、これは」
マグロの刺身という発想で食べると……かなりまずい。というより、刺身ではない。ではなにか、といわれると混ぜ混ぜ刺身丼というしかない。
韓国人は混ぜる料理が大好きだ。その代表格がビビンバである。しかしマグロの刺身をビビンバ風に混ぜてしまっていいのか。加えて僕は、卵かけご飯すら嫌いなタイプだ。
しかたなく混ぜ混ぜ刺身丼を食べ続けた。よく混ぜたから味は均一。同じ味がつづく。半分ほど食べると飽きてくる。ふと見ると、テーブルにはキムチの小皿。これで飽きを防ぐのか……。
僕は日本人と韓国人の間に横たわる舌の溝を思い知らされていた。この溝はかなり深そうだ。
■YouTub「下川裕治のアジアチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
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■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
Posted by 下川裕治 at 13:38│Comments(1)
この記事へのコメント
下川先生の、食にまつわるお話、旅先での食文化の違い、といった話題はとても楽しいし勉強になります(^_^)
Posted by マロンクリーム at 2024年10月15日 14:55
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