2024年11月25日
勝手なひとりクルーズ
いま(11月24日夕方)、新潟港のフェリーターミナルにいる。これから敦賀に向かうフェリーに乗る。
昨夜、小樽からフェリーに乗った。今日の11時頃に新潟港に着いた。予定より2時間近く遅れた。海が荒れたのだ。
冬の日本海である。海は鈍色で、大きくうねり、ときに白波がたつ。低気圧の通過はしかたない。
小樽港を出航すると、船長の案内が流れてきた。
「就航から数時間は3メートルから3・5メートルの波の報告がきております」
「3・5メートルか……」
急いで売店に酔い止め薬を買いに走った。
揺れる船は苦手だ。これまでも何回もひどい目に遭っている。胃液が食道をのぼってくるのか、吐き気なのか、口のなかに酸っぱいにおいが広がる。食べることもできず、ただ横になるしかない。そのトラウマに包まれてしまう。
新聞をみると、よくクルーズの広告が出ている。日本各地に寄港し、韓国の釜山にちょっと寄るようなタイプが多い。
そんな旅は苦手だ。なぜなのかは知らないが、クルーズには、シニアの夫婦旅のイメージがついている。きらきらとした船内、豪華な食事、デッキチェアーに座る仲のよさそうな夫婦の姿……。別に僕は夫婦仲が悪いわけではないが、そんなクルーズはしっくりこない。どういう顔をして船内レストランのテーブルに座るのだろう、などと考えてしまう。
若い頃から勝手な旅をしすぎたのかもしれない。クルーズというのはツアーとの相性がいいのもいけないのだろうか。どこか旅に自由さがない。
自分勝手なクルーズ──。そこで考えたのがこの旅だった。クルーズ船というより、トラックの運転手や交通費を浮かせたい人たちが乗る生活の足のようなフェリーに乗って旅をしてみようと思った。
豪華な夕食などいらない。好きなものを買って、ビールを飲みながら、ぼんやり海を眺めながら旅をしようと思った。
小樽から敦賀までの航路は、北前船のルートである。江戸時代というより明治時代に入ってから最盛期を迎えた。北海道からニシンを運び、関西から東北や北海道に生活物資を輸送する。酒田、新潟などの街が一気に活気を帯びていった。太平洋より日本海の方がはるかに航行が楽だったからだという。その後の陸上交通の発達で、一気に勢いを失ってしまったが。
小樽、新潟、敦賀……寄港する街では北前船の名残を訪ねてみようかとも思った。
小樽の駅横の三角市場で、「焼貝ひも」というつまみを買った。そしてサッポロビール。船旅はそんなスタートを切るはずだったのだが……。
だが、揺れるのである。低気圧が通過し、波は3・5メートルにもなる。「通路を歩くときは気をつけるように」という船内放送がしつこいぐらいに流れる。
小樽港を出航し、ビールの栓を切る。しかし穏やかに飲めたのは最初の5分だった。船体は左右に傾きはじめ、手すりにつかまらないと歩くのも大変になる。一気にかつて苦しんだ船酔い旅が蘇ってくる。急いでビールを飲み、ベッドに横になった。もう耐えるしかないと目を閉じる。
夜中の1時頃、目が覚めた。不思議なもので、荒れた海の船旅は、揺れがおさまると目が覚める。窓から海を眺めると月明かりが見える。低気圧を抜けたようだった。もう半日早く低気圧が移動してくれたら、優雅な船旅になっていた。勝手なひとりクルーズは、なかなかうまくいかない。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
昨夜、小樽からフェリーに乗った。今日の11時頃に新潟港に着いた。予定より2時間近く遅れた。海が荒れたのだ。
冬の日本海である。海は鈍色で、大きくうねり、ときに白波がたつ。低気圧の通過はしかたない。
小樽港を出航すると、船長の案内が流れてきた。
「就航から数時間は3メートルから3・5メートルの波の報告がきております」
「3・5メートルか……」
急いで売店に酔い止め薬を買いに走った。
揺れる船は苦手だ。これまでも何回もひどい目に遭っている。胃液が食道をのぼってくるのか、吐き気なのか、口のなかに酸っぱいにおいが広がる。食べることもできず、ただ横になるしかない。そのトラウマに包まれてしまう。
新聞をみると、よくクルーズの広告が出ている。日本各地に寄港し、韓国の釜山にちょっと寄るようなタイプが多い。
そんな旅は苦手だ。なぜなのかは知らないが、クルーズには、シニアの夫婦旅のイメージがついている。きらきらとした船内、豪華な食事、デッキチェアーに座る仲のよさそうな夫婦の姿……。別に僕は夫婦仲が悪いわけではないが、そんなクルーズはしっくりこない。どういう顔をして船内レストランのテーブルに座るのだろう、などと考えてしまう。
若い頃から勝手な旅をしすぎたのかもしれない。クルーズというのはツアーとの相性がいいのもいけないのだろうか。どこか旅に自由さがない。
自分勝手なクルーズ──。そこで考えたのがこの旅だった。クルーズ船というより、トラックの運転手や交通費を浮かせたい人たちが乗る生活の足のようなフェリーに乗って旅をしてみようと思った。
豪華な夕食などいらない。好きなものを買って、ビールを飲みながら、ぼんやり海を眺めながら旅をしようと思った。
小樽から敦賀までの航路は、北前船のルートである。江戸時代というより明治時代に入ってから最盛期を迎えた。北海道からニシンを運び、関西から東北や北海道に生活物資を輸送する。酒田、新潟などの街が一気に活気を帯びていった。太平洋より日本海の方がはるかに航行が楽だったからだという。その後の陸上交通の発達で、一気に勢いを失ってしまったが。
小樽、新潟、敦賀……寄港する街では北前船の名残を訪ねてみようかとも思った。
小樽の駅横の三角市場で、「焼貝ひも」というつまみを買った。そしてサッポロビール。船旅はそんなスタートを切るはずだったのだが……。
だが、揺れるのである。低気圧が通過し、波は3・5メートルにもなる。「通路を歩くときは気をつけるように」という船内放送がしつこいぐらいに流れる。
小樽港を出航し、ビールの栓を切る。しかし穏やかに飲めたのは最初の5分だった。船体は左右に傾きはじめ、手すりにつかまらないと歩くのも大変になる。一気にかつて苦しんだ船酔い旅が蘇ってくる。急いでビールを飲み、ベッドに横になった。もう耐えるしかないと目を閉じる。
夜中の1時頃、目が覚めた。不思議なもので、荒れた海の船旅は、揺れがおさまると目が覚める。窓から海を眺めると月明かりが見える。低気圧を抜けたようだった。もう半日早く低気圧が移動してくれたら、優雅な船旅になっていた。勝手なひとりクルーズは、なかなかうまくいかない。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
Posted by 下川裕治 at 12:28│Comments(2)
この記事へのコメント
若い頃から下川さんの本が好きです。これからもお体に気をつけてがむばってください。
Posted by へのへの at 2024年11月25日 18:48
山で育った私には、海は恐怖の対象でしかない気がします。海の「うねり」は命の危険であり、手に負えない巨大な力を感じてしまうのです。クルーズなんて気が知れないと言ってしまいます。ごめんなさい。
ところで、今私は、バンコクで数日の休暇を楽しんでおります。ドンムアンに着き驚いたのですが、あの整理券を取って順番待ちをするタクシー乗り場が閑散としていたのです。もしかして、タクシーの配車アプリの浸透のせいかもと考えてしまいました。タクシーのドライバーとの駆け引きが無くなってしまうのでしょうか。「アジアの旅のらしさ」が損なわれてしまうと危惧してしまう私なのでありました。
ところで、今私は、バンコクで数日の休暇を楽しんでおります。ドンムアンに着き驚いたのですが、あの整理券を取って順番待ちをするタクシー乗り場が閑散としていたのです。もしかして、タクシーの配車アプリの浸透のせいかもと考えてしまいました。タクシーのドライバーとの駆け引きが無くなってしまうのでしょうか。「アジアの旅のらしさ」が損なわれてしまうと危惧してしまう私なのでありました。
Posted by SATOSHI at 2024年12月22日 21:18
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