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ナムジャイブログ

2024年12月09日

東京の銀杏紅葉

 本を書くためなのだが、国内旅がつづいている。2週間前は京都にいた。昨日は東京の街を歩いた。
 どこへいっても人が多い。紅葉を見に行くという人だという。京都駅前で溜め息が出てしまった。金閣寺行きのバスを待つ列がくねくねと300メートル以上。バスも増発しているようだが、そのバス同士で詰まっているらしい。
 駅周辺には外国人が多いが、金閣寺行きのバスを待つ人のほとんどは日本人。京都はインバウンド客が引き起こすオーバーツーリズムが問題になっているが、紅葉の時期は日本人のオーバーツーリズムが起きていた。
 昨日は東京を歩いたが、新宿御苑に沿ったカフェはどこも長い列。テラス席に座って紅葉を眺めながら……ということらしい。列をつくる人の大半は日本人だ。
 日本人は紅葉好きの民族ということなのだろうか。
 紅葉はひとつの色に染まったものほど人気が高い。庭園を埋める赤い紅葉……。街路を染める銀杏の黄……。しかし自然界の節理からいうと、それは不自然なことだ。同じ品種ばかりになると、伝染病などのトラブルが起き、やがては枯れていくという。
 世界には油をとったり、ゴムをとるためのプランテーションというものがある。しかしそれができるのは、油ヤシやゴムの木のように限られたものしかないという。さまざまな木が混じるように形づくられる森のほうが自然な状態なのだという。
 その伝でいえば、人気の紅葉スポットは人工の世界なのだ。さまざまな色が混じった紅葉は自然に近いが、人々は評価しようとはしない。
 それは桜にも通じるものがある。公園や川沿いに並ぶように植えられた桜の木々が一斉に花をつける。その様は圧巻で、木々のなかに桜の木が点在するより絵になりやすい。それが日本の桜の美しさになっていく。
 河川の土手で一斉に咲く桜並木には、土手を強くする役割もあったという。桜並木を見ようと多くの人が集まってくる。そんな人たちによって、土手はより強く踏み固められていくという算段である。そのためには、美しい桜並木でなくてはならない。人間の知恵でもあるのだろうが、そう考えると、桜の美しさとはなんなのかと悩んでしまう。
 それは秋の紅葉にもいえることなのだ。
 東京はいま、銀杏紅葉の季節である。道に沿って植えられた銀杏の木々は黄に色づき、そこを小春日が照らす。ビルという人工的な建造物に、つくられた美しさの銀杏並木がフィットする。
 銀杏並木の美しさは、アジアからやってきた観光客を魅了する。何年か前、タイからやってきた知人一行を神宮の銀杏並木に案内した。そのグループの何人かは日本の桜も知っていたが、「春の桜より、秋の銀杏のほうが好き」だと、さかんにシャッターを切っていた。
 沖縄の知人からこんな話も聞いた。
「沖縄の学校は修学旅行で本土に行く。秋に行った学校の生徒は、紅葉に感動するんですよ。沖縄にはあんな紅葉はないから。私もお土産に黄色い銀杏の葉をもち帰りましたよ」
 づくられた紅葉と穿った見方をするより、街路を染めあげる黄の世界に浸ることかもしれない。それが東京の紅葉でもある。

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Posted by 下川裕治 at 13:37│Comments(0)
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