2010年08月04日
この街で6時間待ちます
グロデコボを出発したのは午後の4時30分だった。中国側の国境の街、綏芬河からやってきた列車の最後尾に僕らの乗った2両が連結された。いったいこれまで何回、僕らの車両は気動車からはずされ、とりつけられたのだろうか。
イミグレーションに列をつくったのは、ロシア側に買い出しにきた中国人商人と中国側に仕入れに向かうロシア人数十人だった。彼らは皆、中国からやってきた車両に乗り込む。僕らが乗る国際列車の車両は、相変わらず3人だけだった。
列車は出発すると間もなく、深い山に分け入っていった。これまでの伸びやかな牧草地のような風景が一転した。ロシアと中国の境界は山岳地帯で、この一帯が緩衝地帯になっているようだった。
そこから1時間ほど走った。列車は長い綏芬河のホームに停まった。ここで中国側の入国審査がある。
僕の入国審査はもめた。
パスポートはブースに座る係官から上司らしい仏頂面の女性に渡っていく。北京や上海ではいつもスムーズに通過するのだが、この国境ではそうはいかないのか。不安が脳裡をよぎる。僕はかつて5年間、中国への入国を拒否され続けた過去がある。いや、単純にこのルートで入国する日本人が少ないためだろうか。係官は英語をまったく理解しなかった。
10分がすぎた。いや20分か……。結局、僕のパスポートにはスタンプが捺された。手間どった理由はわからなかった。
僕はホームに戻り、もう丸1日もすごした車両のコンパートメントに入った。すると車掌がやってきた。
「この駅で6時間待ちます」
「はッ?」
そういえば、ウラジオストクを発車した後、そんな説明を受けた気がする。しかし途中の駅であまりにも停車したので、この駅での停車のことを忘れてしまっていた。
「街へ出てもかまいません。でも通常の改札は通らないでください。駅舎の横に荷物の搬入路がありますから。午後9時にホームに来てください。9時ちょうどに」
僕らは時刻を確認した。この国際列車を手配してもらった日本の旅行会社からもらったスケジュール表をもっていた。しかしそこに書かれていたのは、ウラジオストクの発車時刻とハルピン到着時刻だけだった。中国の時刻表ももっていた。そこには僕が乗っている国際列車の時刻表も出ていたが、出発時間から違っていた。
ロシアの列車はモスクワ時間で運行されている。それに7時間を加えると、ロシアの極東時間になる。街はその時間で動いている。加えていまはサマータイム。そして中国に入った。僕はいまが何時なのかわからなくなってしまっていたのだ。
午後3時。ロシアの極東時間を3時間遅らせる。
これから6時間か。綏芬河ではさしたる用事もない。早めに戻ってホームで待つか……。この発想がトラブルを生むとは、そのときの僕は考えてもみなかった。
(綏芬河。2010/7/6)
イミグレーションに列をつくったのは、ロシア側に買い出しにきた中国人商人と中国側に仕入れに向かうロシア人数十人だった。彼らは皆、中国からやってきた車両に乗り込む。僕らが乗る国際列車の車両は、相変わらず3人だけだった。
列車は出発すると間もなく、深い山に分け入っていった。これまでの伸びやかな牧草地のような風景が一転した。ロシアと中国の境界は山岳地帯で、この一帯が緩衝地帯になっているようだった。
そこから1時間ほど走った。列車は長い綏芬河のホームに停まった。ここで中国側の入国審査がある。
僕の入国審査はもめた。
パスポートはブースに座る係官から上司らしい仏頂面の女性に渡っていく。北京や上海ではいつもスムーズに通過するのだが、この国境ではそうはいかないのか。不安が脳裡をよぎる。僕はかつて5年間、中国への入国を拒否され続けた過去がある。いや、単純にこのルートで入国する日本人が少ないためだろうか。係官は英語をまったく理解しなかった。
10分がすぎた。いや20分か……。結局、僕のパスポートにはスタンプが捺された。手間どった理由はわからなかった。
僕はホームに戻り、もう丸1日もすごした車両のコンパートメントに入った。すると車掌がやってきた。
「この駅で6時間待ちます」
「はッ?」
そういえば、ウラジオストクを発車した後、そんな説明を受けた気がする。しかし途中の駅であまりにも停車したので、この駅での停車のことを忘れてしまっていた。
「街へ出てもかまいません。でも通常の改札は通らないでください。駅舎の横に荷物の搬入路がありますから。午後9時にホームに来てください。9時ちょうどに」
僕らは時刻を確認した。この国際列車を手配してもらった日本の旅行会社からもらったスケジュール表をもっていた。しかしそこに書かれていたのは、ウラジオストクの発車時刻とハルピン到着時刻だけだった。中国の時刻表ももっていた。そこには僕が乗っている国際列車の時刻表も出ていたが、出発時間から違っていた。
ロシアの列車はモスクワ時間で運行されている。それに7時間を加えると、ロシアの極東時間になる。街はその時間で動いている。加えていまはサマータイム。そして中国に入った。僕はいまが何時なのかわからなくなってしまっていたのだ。
午後3時。ロシアの極東時間を3時間遅らせる。
これから6時間か。綏芬河ではさしたる用事もない。早めに戻ってホームで待つか……。この発想がトラブルを生むとは、そのときの僕は考えてもみなかった。
(綏芬河。2010/7/6)
Posted by 下川裕治 at 08:00│Comments(1)
この記事へのコメント
「午後9時に。」が悲劇を生むものだろうか?
極東時間とモスクワ時間とでは7時間も違うという。広大な国だ。
北京時間はベイジンタイムという。
日本とは1時間遅れだ。
新疆には新疆時間シンチャンタイムというものがある。
北京時間と2時間の違いだ。しかし、実際、新疆に西端では経度はインドを超えてパキスタンと同じだ。
日の出、日の入りはゆうに北京とは3時間のさがある。
こうなると、バスの出発時間には気を使う。ロシアと中国。
どんな事件が起きるのだろうか?
極東時間とモスクワ時間とでは7時間も違うという。広大な国だ。
北京時間はベイジンタイムという。
日本とは1時間遅れだ。
新疆には新疆時間シンチャンタイムというものがある。
北京時間と2時間の違いだ。しかし、実際、新疆に西端では経度はインドを超えてパキスタンと同じだ。
日の出、日の入りはゆうに北京とは3時間のさがある。
こうなると、バスの出発時間には気を使う。ロシアと中国。
どんな事件が起きるのだろうか?
Posted by みなみやま at 2010年08月08日 14:16
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