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ナムジャイブログ

2010年09月20日

前を走る列車が爆破された

 アストラハンからアゼルバイジャンのバクーに向かう列車は定刻に発車した。ボルガ川がカスピ海に流れ込むデルタ地帯を南下し、やがて乾燥地帯に入っていく。そして昼過ぎにダゲスタン共和国に入った。共和国といっても、独立国ではない。ロシアに属している。
 しかしこのエリアを走る列車を狙った爆破テロが起きていた。隣接するチェチェン共和国のイスラム系組織の犯行といわれている。
 ロシアにとって、チェチェンは厄介な存在である。武力制圧したとロシアは公表しているが、チェンチェンの反政府組織の反抗が終わったわけではない。
 かつてアストラハンとバクーを結ぶ列車はチェチェン共和国を通っていた。しかし列車を狙ったテロや乗客から強制的に通行料をとる反政府組織の行動が続いた。ロシアはダゲスタン共和国を通る線路を使うようになったが、当然、この路線が狙われる。
 今年に入って2回の爆破テロが起きている。外務省の海外情報でも、「渡航の延期をお勧めします」というエリアになっている。この情報は危険度を4ランクに分けているが、「退去勧告」の次にあたる。しかしここを通らないと、アゼルバイジャンには抜けられない。
 テロという危険は、ある意味、防ぎようがない。運を天に委ねるしかない。僕らが乗る列車がテロに遭う……。実感はなかった。毎日、何本もの列車が通過しているのだ。そこで今年2回……。
 列車は止まってしまった。
 アルテジアンという駅だった。乗客はホームに降りはじめる。車掌や乗客が話しはじめている。この先で?
 予感は当たってしまった。ひとつ前を走っていた貨物列車が爆破された。6両が脱線・横転したという。車掌がもつ通信機での交信も錯綜していた。しばらくすると、車掌と警察が僕のところに来てノートに図を書きながら説明してくれた。テロの起きたところをバスで振り替え輸送して、その先でやはり止まっている列車に乗り換えるという。それはバクーからモスクワに向かおうとしていた列車だった。
 乗客たちはホームに座りこみ、リンゴをかじったり、煙草を喫ったりしている。なかにはウオトカを飲みはじめるおじさんグループもいる。僕は不思議だった。すぐ直前で爆破テロが起きたというのに、誰ひとり動揺していない。乗客の顔には笑顔がある。周囲のステップ地帯をさわやかな風が通り抜けていく。駅の周りの木々からは、鳥の声が聞こえてくる。乗客には家族連れも多く、子どもたちは近くの草むらで遊びはじめている。
 慣れている……?
 切ないことだった。いくらテロが頻発しても、生活のために列車に乗らなくてはならない。そういうことなのだろうか。すぐ隣にテロがある暮らしとは、こういうものなのだろうか。
 僕らはマイクロバスで移動し、キジルジャートという駅で、再び列車に乗り込んだ。
 テロの影響で、運行スケジュールはめちゃくちゃになった。小さな駅に1時間も停車していたりする。そしていま、ダゲスタン共和国の首都であるマハチカラの駅に停まっている。もう3時間も列車は動かない。この街のデパートでもしばらく前、テロがあったと、乗客のひとりが、交通事故が起きたかのようなのんびりとした顔で教えてくれた。
 列車はまだ動こうともしない。
 深夜の駅に停まったままだ。
       (マハチカラ。2010/9/8)


Posted by 下川裕治 at 16:51│Comments(3)
この記事へのコメント
ほんまにやばいですね。

下川さんも、現地の人と同化してい

るくらいに、落ち着いた文章から、

つたわります。

経験がちがいますね!

あこがれです。
Posted by 高島 浩 at 2010年09月20日 23:47
アストラハニからダゲスタン共和国の首都であるマハチカラの駅まで地図帳で追って見ました。
カスピ海をぐるっと半周してマハチカラへの到達ですね。
ここで、国境を越えてバクーのあるアゼルバイジャンへ。
カフカス山脈を南にぬけることになります。
5千㍍を越える山並みが見えるのでしょうか?
まだ暑い旅が続いているようです。
Posted by みなみやま at 2010年09月23日 14:05
初めて書き込みします。
下川さんの本は今年初めて読み、3冊持っています。そして今日初めてブログを読みました!
楽しみ増えました!
Have a nice trip!!
Posted by 波平 at 2010年09月27日 00:37
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