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ナムジャイブログ

2010年11月15日

ベオグラード行きは発車してしまった

 トルコの列車は、なにもかもが新鮮だった。それまであまりに長く、ロシア製の列車に揺られてきたからかもしれない。
 車掌も少なかった。検札はするが、駅に停車したとき、ドアをあけるのも客だった。中国からロシア……。車内では車掌の目が光っていた。どこか管理されている世界でもあった。僕らはそんな世界から、ようやく脱出したらしい。
 車内販売や駅の売店も少なくなった。食事は食堂車──。そんな世界だった。僕らはこれまでの列車旅よろしく、カルスの街で、パンやチーズ、サラミなどを買い込んでいた。それを車内で食べることが、なんとなく恥ずかしい世界だった。
 考えてみれば、これが普通なのだろう。
 なだらかな丘陵が続くトルコの風景は美しかった。ポプラの葉が黄に色づく農村が延々と車窓に広がっていた。
 気になることがあった。列車はすいていたが、乗客の半数近くが、ヨーロッパからやってきたバックパッカーだったのだ。中国から列車を乗り継ぎ、クリスマス前にイギリスに帰るという青年。トルコ内を列車でまわっているフランス人もいた。僕らは列車にこだわった旅を続けていたが、彼らは単純に安さに惹かれて列車を選んでいた。バスよりも安いのだ。しかしトルコ人の利用は少なかった。理由? 簡単なことだった。列車は遅れるのである。それが嫌う原因だった。
「アドベンチャー」
 どうもそれは、列車の遅れをさしているようだった。
 僕らは幸運だったのだろうか。カルスを発車した列車は、2日後の朝、予定より2時間遅れてイスタンブールのハイデラパス駅に到着した。ボスポラス海峡に面した駅である。この程度の遅れならなんの問題もない。船で海峡を渡り、イスタンブール駅から、セビリアのベオグラード行きに乗る。トルコの列車だった。深夜にトルコを出国し、ブルガリアに入って夜が明けた。この時点で、すでに4時間遅れていた。
 列車がソフィアに到着する少し前、車掌が僕らのところにやってきた。
「ベオグラード行きはもう発車してしまった」
「はッ」
 どうも僕らは、ソフィアでベオグラード行きに乗り換えることになっていたらしい。ところが列車が大幅に遅れ、ベオグラード行きは待ちきれずに発車してしまったようだった。
「で、僕らは……」
「後の列車を手配します。それまでソフィアにいてもらうことになるんです」
 アドベンチャーとは、こういうことをいっていたのだった。
        (ソフィア。2010/10/22)


Posted by 下川裕治 at 12:00│Comments(0)
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