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ナムジャイブログ

2010年12月06日

敷かれていたシーツに旅を思う

 ゴミに埋もれたマルセイユを出発し、ボルドーに向かう。方向からすると、ちょっと無駄のように思えるが、列車の本数や接続を考えるとこれしかなかった。
 ストライキでマルセイユ駅の切符売り場には長い列ができていたが、男性職員は親切だった。さまざまなルートを調べてくれた。TGVというフランスの新幹線でパリまで出る方法もあった。
「でもTGVは高いからな。できるだけ安くしたいんでしょ」
 僕の風体を見て、勝手にそんなことをいう。異存はなかったが……。
 こうしてマルセイユからボルドーに出、そこからスペインのイルンへ。そこでリスボン行きの夜行列車に乗り継ぐルートが決まった。チケットは通しで買うことができた。
 リスボンと印字されたチケットを手にしたとき、なんだか旅が終わったような気分になった。この先、どんなトラブルが待っているのかわからないのだが、ここはフランス、スペイン、ポルトガルである。ロシアのような理不尽なトラブルやコーカサスで味わった運休はもうないだろう。
 ストの影響で遅れるかもしれないと思っていたが、ほぼ定刻にボルドーに着いた。駅のレストランの定食は、ボルドーらしくワイン付きだった。
 夕方ボルドーを発った。TGVで一気に南下していく。やはり早い。夜の8時には、フランスとスペインの国境を通過し、イルンの駅に到着した。別のホームにリスボン行きの夜行列車が停車していた。それに乗り込んだ僕は、一瞬、戸惑った。これまで乗った夜行列車のなかでいちばん豪華だったのだ。部屋はふたり用の個室。室内に洗面コーナーがあり、すでにベッドメイキングもできていた。いままで上段に登るには梯子だったのだが、部屋には引き出し式の階段が収納されていた。車掌は僕らに鍵を渡しながら、「朝食は朝の8時からです。朝の8時にドアを叩きますから」といった。
 これまでもう数えるのも嫌なぐらい乗った夜行を思い出していた。
 ベッドにシーツが敷いてある列車など1回もなかった。いつも車掌がシーツや枕カバーをもってきて、自分たちで敷いた。車掌がドアをノックして起こしてくれることなどなかった。僕らはイミグレーションや税関の職員に無理やり起こされてきたのだ。
 朝食がついた夜行列車もはじめてだった。
「今晩はよく眠れそう」
「最後の夜行ですからね」
 列車はスペインの大地をゆっくり進みはじめた。
        (イルン。2010/10/26)


Posted by 下川裕治 at 12:00│Comments(0)
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