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ナムジャイブログ

2011年01月10日

マスクをかけて空気になる

 マスクをかけている人が増えてきた。今日も電車に乗ると、1車両で10人を超える人がマスクをかけていた。東京はいま風邪が流行っている。インフルエンザの噂は聞かないが。
 20年ほど前だろうか。東京にいる東南アジアからの留学生と話したことがある。日本に来て驚いたことを訊いた。そのなかで多かったものがふたつあった。
 マスクと立ち食いそばである。
 東南アジアの人たちにとって、立って食事をするということは考えられないことのようだった。そしてマスク……。
「はじめて見ました。どうして布で口を覆っているのかと不思議でしかたなくて」
 マスクを東南アジアに広めたものは、SARSから新型インフルエンザと続いた感染症だった。いまはマスクを見て目を丸くするアジア人はそういない。もっとも大気汚染が問題視されていた台北では昔からマスクをしてバイクに乗ることが多かった。バンコクでは、交通整理の警官がよくマスクをしていた。
 ある知人がこんな話をしていた。
「マスクをすると、精神的にすごく楽なんだよ。いくら上司に怒られても、どこ吹く風って感じでいられるんだよ。怒られているとき、舌を出したって気づかれない。そんな感じ。だから風邪でもなにのにマスクをするときがある。電車のなかでマスクをしている人って、本当の風邪は半分ぐらいなんじゃない」
 その感覚がよくわかる。視界の下に白いマスクが入ってくる。それだけで、自分の世界を守ることができるような気がする。やはり楽なのだ。偽風邪組が半分いるとは思えないが、人と人が近づいて暮らさなくてはならない社会では、マスクは逃避のひとつのアイテムと思えなくもない。
 これは欧米に多いのだが、太陽が照りつける夏だというのに、フードを深く被っている若者がときどきいる。ロサンゼルスで電車やバスに乗ると、隅の座席にうずくまるようにして座る若者の多くは、フードで顔を隠している。以前から気になっていた。アルコールやドラッグをやっていることを気づかれないためかとも思ったが、ひょっとしたら、マスクと同じように、フードで社会というものを拒絶しているのかもしれない。
 日本には約70万人のひきこもりがいるといわれる。そのひとりだった若者が、タイに行き、いまは元気に働いている。彼がタイに行ったとき、周りから聞こえる言葉の意味がまったくわからなかった。自分が空気のような存在に思え、外出が苦にならなくなったという。
 日本人はマスクをすることで、どこか空気のような存在になることができるのかもしれない。人で埋まる電車のなかで、そんなことを考えていた。
(2011/1/10)


Posted by 下川裕治 at 09:46│Comments(3)
この記事へのコメント
私はストレートの髪をのばしてます。大昔流行ったワンレングスです。これはちょっと俯くと髪がバサッと落ちてきて、顔を隠すのでとても便利です。例えば、右側から会いたくない人が来た場合、右に向けて「バサッ」とすることによって気付かないふりができ、挨拶せずにすみます。マスクも便利ですね。後、サングラスも。携帯も。携帯に気をとられてるポーズをとることで、周囲を拒絶できるような気がします。
Posted by としこちゃん at 2011年01月10日 16:13
いつもご著書、拝見しております。

私も日頃、マスクを使用しております。
声楽家という仕事柄、風邪をひけないからです。
予防の為にマスクをしなければならない、私のような人間もおります。
電車に限らず、公衆での衛生マナーが日本は非常に悪いと思います。

ご存知のように、風邪やインフルエンザは、
咳やクシャミによる飛沫で感染します。

罹患している方達が、咳やクシャミに気をつけてくださるなら、何も予防の為にマスクをせずに済みます。

マスク使用者にはそんな人間もおります。
Posted by 金澤 at 2011年01月12日 22:17
この記事を読んだ当初は「感染から自分を守るためでしょう」と思いました。
(この感覚も私の感覚とは逆で、とまどったものですが)

でも今日、会社の人に「それってもしかして伊達マスク?」と言われて
そういう言葉があることを知り、ビックリしました。
最近、会社で居心地が悪く、関わりたくない、距離を置きたいと思い
マスクを使っていたので。

とくに新型インフルエンザが流行りだしてからマスクをするひとが増えて
その中に紛れやすい雰囲気になったのではないでしょうか。
(一人でマスクしてたら逆に目立ちますよね)
これからの花粉の季節で、まだまだマスクの季節ですね。

それにしても、マスクをしてる人に「伊達マスク」かどうが聞くのは
親しい間柄でなければ避けたほうがいいですね。
Posted by F at 2011年02月19日 02:28
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