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ナムジャイブログ

2011年02月07日

素直な老人とひねくれた老人

 僕はときどき、実家のある信州に帰る。80歳になる母親が、ひとりで暮らしているからだ。今回はある手術を受けることになり、検査入院につきあった。入院したのは、信州の安曇野にある病院である。ふたつの検査があった。その間はすることがない。僕は6階の談話室で原稿を書いていた。
 天気のいい1日で、そこから眺める北アルプスがみごとだった。正面に白い常念岳がそびえ、後立山までくっきりと見えた。
 母親が入院したのは、整形外科のフロアーだった。半分が病棟で、残りのスペースがリハビリセンターのようになっていた。
 廊下では若い理学療法士に付き添われ、歩行訓練を続ける老人が行き来する。ときどき休憩のために、談話室にやってくる。
「今日は山がきれいだね」
 理学療法士が声をかける。
「もうじき田植えか」
「まだ早いよ。2月だよ。頑張ってリハビリして、田植えの頃には退院したいねぇ」
「もうひとまわりするか」
 なんと素直な老人かと思った。
 原稿に疲れると、リハビリセンターの見学に出かけた。中央のスペースには10人ほどの老人が輪をつくり、ボールを隣に渡すリハビリの最中だった。職員がタイムを計る。認知症の老人たちかと思ったがそうでもない。ひとりが談話室にやってきて様子を見にきた奥さんと話をしていた。リハビリのために、ボール遊びの輪に加わっていただけだった。
 皆、幼稚園の子どものようだった。
 僕は年老いたら、こんな輪に加わることができるのだろうか。
 2週間前、カンボジアにいた。僕が訪ねた日本人の老人は、治療を拒否していた。胃癌は摘出したが、その後の治療を拒み、カンボジアに来てしまった。
「病院のベッドに寝てるとね、無性に嫌になるんだよ。もう、放っておいてくれっていう心境かね」
 僕はこの老人のいうことのほうがよくわかる。病院のスタッフは皆、親切だ。それが仕事とはいえ、献身的に接してくれる。
 しかし子どものように扱われる自分の姿がどうしても想像できない。
「勝手に生きさせてくれ」
 体にがたがきても、頭がしっかりしていれば、そう思うような気がするのだ。きっと僕は、病院が手を焼くひねくれた老人になってしまうような気がする。こういうタイプは、アジアの片田舎でひっそりと生きるのが似合っているのかもしれない。
 日本の素直な老人と、カンボジアのひねくれた老人。どこか居心地の悪い病院のなかで、カンボジアを思っていた。


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Posted by 下川裕治 at 18:07│Comments(2)
この記事へのコメント
私も、このイサーンの片隅でひねくれたまま老後を送る予定です。
素直な老人になりたいとも思うけれど、タイなどに関係している人は、皆それぞれ、多少なりとも「ひねくれもの」であるようです。
Posted by バットニャオ at 2011年02月10日 02:26
私は、年とって死ぬ時は病院で手厚い看護を受けながら死ぬのではなく、慣れ親しんだ自宅で力尽きて死にたいです。ところで、私は何度か入院経験がありますが、病院という所はやれ検温だ、シーツ交換だ、清掃だ、診察だ、お茶の配布だ、検査だ、食事だ…と、スケジュールいっぱいで、おちおち寝てられません。その上、面会時間に人が来るので、夕方にはグッタリします。夜は夜で、2時間毎それはそれは賑やかに見回りに来るのでグッスリ眠れません。こんな事なら、それこそアジアの片隅でひっそりと身を横たえている方がよっぽど身体に良いと思います。
Posted by としこちゃん at 2011年02月11日 07:48
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