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ナムジャイブログ

2011年02月18日

人間というやっかいなもの

 雪のなかをひたすら歩いてしまった。首都圏に大雪注意報が出ていた11日、箱根湯本から平塚まで28キロを歩くという会に加わった。早稲田大学の『歩こう会』というサークルのOBたちの主催だった。このところ、部屋で原稿ばかり書いていた。東海道の旧道を歩くという誘いがちょっと嬉しかった。
 しかし28キロという距離はかなりのものだ。そこに雪である。ひとりだったら、きっとどこかで根をあげていたような気がする。
 家に戻ると、小指の爪が浮き、足の裏には水ぶくれができていた。翌朝は階段の上り下りが辛い筋肉痛である。
 こういったストイックな楽しみというは、いまの日本ではシニアが独占している感がある。山登りもしかりで、夏ともなると、北アルプスの登山道は、シニアの長い列ができる。
 東海道の旧道はしんと静まりかえっていた。天候の悪さもあるのだが、久々の雪が音を吸いとっていた。
 なにかの本で、雪の吸音効果の話を読んだとき、なるほど……と思った。降り積もった雪が、その隙間で音を吸収していく。だから、雪の日は静かなのだ。
 大磯の東海道の松並木をすぎ、旧道は住宅街に入っていく。ゴールの平塚まであと4キロほどなのだが、いよいよ足は痛く、ももはあがらなくなってきている。雪は激しく降り続け、ぐっしょりと濡れた手袋をはずし、手に息を吹きかける。
 あとは精神力……というステージに入ってくる。
 そういう瞬間、風景が視界にくっきりと入ってくるときがある。ランニングハイといった精神状態ではない。快感などなにもない。体はだた辛い。そして寒い。いたたまれなくなって走り出したい心境なのだが、もう足はいうことを聞いてくれない。押し黙ったまま歩くしかないのだ。気分は不機嫌の絶頂に達している。
 そんなときに刻み込まれる風景というものがある。音のない世界に、ぽつんとひとり置かれ、ただただ足を前に出していく。きっと瞳は虚ろなのだろうが、言葉を失うほどの雪景色は脳細胞にはっきりとした記憶を残していくのだ。
 ふと、我に返ると、後悔が湧き起こってくる。どうして途中でリタイアし、電車に乗るグループに加わらなかったのだろう。ここで無理をしてなにになるのだろうか。唇を噛み、歩くしかないと自分にいい聞かせる。
 こうなることが、半ばわかっていながら、歩いてしまった。人間というものは、なかなかやっかいな生き物である。


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Posted by 下川裕治 at 02:05│Comments(3)
この記事へのコメント
頑丈な下川さんでもねをあげる。
わたしなんか、たぶんタクシーのって最寄りの駅で降りてしまうでしょう。
Posted by onimaruko at 2011年02月18日 02:22
私は48歳であるが、大学に通ってた28年前に、山手線一周ハイクというのに参加したことがあった。大学の『歩こう会』が主催したものであった。始めは、女の子をナンパするような浮きたった気持ちで歩いていた。ところが、夜中の12時をすぎる頃にはそんな気持ちも失せて、足が痛くてしょうがなくなったきた。しかし、明け方の池袋のサンシャインの横を歩いている頃には集団で同じ事をやっているという、連帯感というか仲間意識が芽生えてきてある種爽快な気分になったのを今でもおぼえている。今ではもう二度とできない。
Posted by akya at 2011年02月18日 16:53
下川さんの本を初めて空港で買って読んだのが2004年の成田空港でした。それから、全く興味がなkったタイが大好きになり、下川さんの本は殆ど持っています。鈍行列車の旅、面白そうですね。早速、こちらから購入させていただきます!

最近はタイ関連の本がなくなって残念です。また、タイ関連の本をご出版させることを期待しております。
Posted by Shin at 2011年03月07日 22:44
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