2012年04月11日
鈍行列車から眺める無残な光景
東京は桜が真っ盛りだというのに、雪の北海道にいる。それも昨夜は稚内にいた。気温は氷点下。春の嵐が吹き荒れた東京から、冬に戻ってしまった感がある。
春の嵐は、北海道では吹雪になり、「4月になって除雪車が出動したのははじめて」と地元の新聞が報じていた。
今年はなぜか、寒い土地に縁がある。2月には、マイナス20度にもなった中国のウルムチにいた。
北海道はまだ冬だが、店や宿はきっちりと暖房が効いているから、とりたて辛いこともない。寒さに震えて眠ることができないという中国とは違う。
北海道にやってきたのは、鈍行列車に乗るという取材である。今朝、6時台の列車に稚内から乗り、いま、上川という街まで着いた。列車の乗り換え時間にこの原稿を書いている。日本の鈍行は通勤・通学用になっているから、昼間の運行は極端に少ない。乗り換え時間といっても、2時間も待たなくてはならない。
今日、3つの列車を乗り継いできたが、どれも1両しかなかった。たった1両の列車が、雪のなかをとことこと進むのだ。
稚内、音威子府、名寄、新旭川、上川と進んできた。停車した駅は、もう70近くになっていると思うが、そのなかで、駅員がいるのは10駅もない。あとはすべて無人駅なのだ。
JRのなかでも、北海道はその経営が苦しいと聞いているが、ここまで進んでいるとは思わなかった。職員がいない駅が、線路に沿って延々と続いているのだ。
1両しかない鈍行だから、車内販売など望めない。乗り換え駅の売店や駅前の店で、食べ物を買えばいいか……と思っていたが、北海道の過疎化は、また想像以上なのである。無人駅だらけだから、駅の売店などない。駅前には、コンビニどころか店が1軒もないことが多かった。北海道で鈍行に乗って旅をするためには、事前に食料を用意しておかなくてはならない。もうそんな世界なのだ。
雪のなかをとことこと進む列車に乗りながら、アジアの鈍行列車の光景が浮かびあがってしかたなかった。とくにタイは、鈍行列車でも、必ず物売りが乗り込んでくる。地元のおばさんが多い。それぞれ、工夫した食べ物を家でつくり、笑顔と一緒に乗り込んでくる。彼女らにとったら、ちょっとしたアルバイト感覚である。
通路には、必ずといっていいほど物売りが歩いている。ときに座席に座り、乗客と話し込む。アジアの列車の賑やかさを、たまらなく羨ましく思った。
飛行機やバスの早さや安さに押され、列車の存在価値が薄れていくのは、タイも日本も変わらない。しかし日本の鉄道は、きちんとした運営を目指したばかりに、一度、その歯車が合わなくなると、無残さばかりが目だってきてしまうのだ。カーテンが閉められ、誰もいない駅舎ばかり見続ける旅は辛い。
(4月6日)
春の嵐は、北海道では吹雪になり、「4月になって除雪車が出動したのははじめて」と地元の新聞が報じていた。
今年はなぜか、寒い土地に縁がある。2月には、マイナス20度にもなった中国のウルムチにいた。
北海道はまだ冬だが、店や宿はきっちりと暖房が効いているから、とりたて辛いこともない。寒さに震えて眠ることができないという中国とは違う。
北海道にやってきたのは、鈍行列車に乗るという取材である。今朝、6時台の列車に稚内から乗り、いま、上川という街まで着いた。列車の乗り換え時間にこの原稿を書いている。日本の鈍行は通勤・通学用になっているから、昼間の運行は極端に少ない。乗り換え時間といっても、2時間も待たなくてはならない。
今日、3つの列車を乗り継いできたが、どれも1両しかなかった。たった1両の列車が、雪のなかをとことこと進むのだ。
稚内、音威子府、名寄、新旭川、上川と進んできた。停車した駅は、もう70近くになっていると思うが、そのなかで、駅員がいるのは10駅もない。あとはすべて無人駅なのだ。
JRのなかでも、北海道はその経営が苦しいと聞いているが、ここまで進んでいるとは思わなかった。職員がいない駅が、線路に沿って延々と続いているのだ。
1両しかない鈍行だから、車内販売など望めない。乗り換え駅の売店や駅前の店で、食べ物を買えばいいか……と思っていたが、北海道の過疎化は、また想像以上なのである。無人駅だらけだから、駅の売店などない。駅前には、コンビニどころか店が1軒もないことが多かった。北海道で鈍行に乗って旅をするためには、事前に食料を用意しておかなくてはならない。もうそんな世界なのだ。
雪のなかをとことこと進む列車に乗りながら、アジアの鈍行列車の光景が浮かびあがってしかたなかった。とくにタイは、鈍行列車でも、必ず物売りが乗り込んでくる。地元のおばさんが多い。それぞれ、工夫した食べ物を家でつくり、笑顔と一緒に乗り込んでくる。彼女らにとったら、ちょっとしたアルバイト感覚である。
通路には、必ずといっていいほど物売りが歩いている。ときに座席に座り、乗客と話し込む。アジアの列車の賑やかさを、たまらなく羨ましく思った。
飛行機やバスの早さや安さに押され、列車の存在価値が薄れていくのは、タイも日本も変わらない。しかし日本の鉄道は、きちんとした運営を目指したばかりに、一度、その歯車が合わなくなると、無残さばかりが目だってきてしまうのだ。カーテンが閉められ、誰もいない駅舎ばかり見続ける旅は辛い。
(4月6日)
Posted by 下川裕治 at 09:00│Comments(2)
この記事へのコメント
初めて書き込みします。
いつも先生の作品を愛読させていただいてます。
世界最悪の鉄道旅行先日読みました。
12万円で世界を歩くと数年前に偶然書店で発見し、それからずっと読ませていただいてます。
次なる作品も楽しみに待っています。時々ブログも見させていただてます。
今後ともよろしくお願いします。
いつも先生の作品を愛読させていただいてます。
世界最悪の鉄道旅行先日読みました。
12万円で世界を歩くと数年前に偶然書店で発見し、それからずっと読ませていただいてます。
次なる作品も楽しみに待っています。時々ブログも見させていただてます。
今後ともよろしくお願いします。
Posted by K.K at 2012年04月11日 18:14
現在、下川さんの「鈍行列車のアジア旅」を読んでいます。
今回のブログ内容は、この本での内容とは真逆のようです。
しかしながら、同じ列車でも周囲の取り巻く環境でこうも変わるものか、と非常に関心が沸き、コメントさていただきました。
いつも本同様、ブログも楽しく読まして頂いてます。これからも頑張ってください。
今回のブログ内容は、この本での内容とは真逆のようです。
しかしながら、同じ列車でも周囲の取り巻く環境でこうも変わるものか、と非常に関心が沸き、コメントさていただきました。
いつも本同様、ブログも楽しく読まして頂いてます。これからも頑張ってください。
Posted by 伊東淳史 at 2012年04月12日 23:02
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