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ナムジャイブログ

2012年06月11日

今晩も僕は床で寝る

 床に寝る──。
 タイで覚えたことである。
 バンコクにはじめて暮らしたとき、僕はタイ人の家に下宿させてもらっていた。午前中はタイ語の学校に通い、下宿に戻って昼食を食べると、猛烈な睡魔に襲われた。
 僕の部屋は2階にあった。午後は気温があがり、寝ることはもちろん、入ることもできないほど暑かった。僕は毎日、1階で昼寝を決め込んでいた。1階は石の床だった。そこに横になり、頬をつけると、ひんやりとした感触が伝わってくる。それが心地よかった。
 下宿の家族と一緒に、ときどき地方にでかけた。泊まるのはホテルではなく、下宿に主人の知り合いの家だった。
 いつも床に寝た。タイでは来客に対し、床を提供することは失礼なことではなかった。ゴザや上がけを用意してくれる家が多かった。しかし寝るのは床だった。
 2回目にバンコクに暮らしたときは、家族も一緒だった。3部屋のアパートで、2部屋にはベッドが備えつけられていた。
 そのアパートには、タイ人の知人がよく訪ねてきた。泊まっていくことも多かった。ベッドのある部屋に寝てもらったのだが、彼らはベッドに脇の床に寝ることが多かった。
「ベッドで眠ればいいのに」
 というと、彼らは、決まってこう答えたものだった。
「ベッドは暑い」
 かくいう僕も、床に寝ていたのだが。
 冷房とベッドというものは、セットになっているようだった。冷房をつけ、ベッドに寝るのが欧米風の暮らしだとタイ人は考えていた。僕が借りたアパートには冷房があったが、その電気代を気にしたのか、彼らの多くは冷房のスイッチを入れなかった。
 冷房がなければ床で寝る。
 それはタイではあたり前のことだった。
 いまバンコクのホテルにいる。
 バンコクはやはり暑い。しかし、僕は冷房が苦手だ。窓を開けて寝ている。そういう流れになれば、当然、床に寝る。泊まっているホテルはタイルの床だから、頬をつけるとひんやりとして気持ちがいい。
 本音をいえば、ベッドはいらない。しかしホテルのスタッフに、「ベッドを部屋から出してほしい」とはなかなかいえない。だからベッド脇の狭いスペースに体を横たえる。
「下川さんは床で寝ているんですか」
 ときどき宇宙人を眺めるような視線を、日本人から向けられることがある。
 しかし僕にとって、快適に寝ることができる場所は床なのだ。
 人の寝る場所に、とやかくいわないでほしい……という思いがある。しかし今日、タイ人から同じことをいわれた。
 ちょっとショックだった。


Posted by 下川裕治 at 12:53│Comments(0)
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