インバウンドでタイ人を集客! 事例多数で万全の用意 [PR]
ナムジャイブログ

2012年09月17日

サハリンの開眼

 秋である。町の中央にある勝利公園の白樺の木々が、ひんやりとした風に揺れる。もう少しで色づきはじめるのだろう。北緯50度を越えた街の秋は早足でやってきそうだ。
 ノグリキにいる。サハリン北部の町だ。
 朝、列車で着いた。人口が1万人強の町である。昼、食事ができる店を探した。しかしいくら町なかを歩いても、テーブルと椅子のある店がない。惣菜やハム、チーズ、パンまどを売る雑貨屋風の店は何軒もあるのだが、レストランが1軒もない。
 ようやく川沿い夏だけ開くような仮設テントの店をみつけた。しかしなぜかケバブの店だった。サハリンでケバブというのも……。町の人に聞き、ようやく、食堂風の店を見つけることができた。町に1軒の食堂だった。
 ちょうど昼どきだった。しかし客はふたりしかいなかった。閑散としているのだ。
「皆、どこで食事をしているんだろう」
 これはロシアを歩くときに、いつも湧いてくる疑問である。とにかくレストラン、食堂の類の店が少ない。このノグリキにしても、人口1万人で、常設の食堂は1軒だけなのだ。
「食事ができる店がみつかったら、とにかく食べておけ」
 というのは、ロシアの旅の基本でもある。ツアー観光客は気づかないのかもしれないが。
 夜になってまた悩む。昼と同じ店に行くのもなぁ……と町に出た。その店をのぞくと、結婚式にパーティーが開かれていた。頼みの綱も消えてしまった。テントづくりのケバブ屋しか選択肢がない。
 同行したカメラマンが呟くようにいった。
「前、仕事でモスクワに滞在したんです。ロシア語を学び、モスクワに住んだこともある人と一緒だったんですが、夕飯はいつもホテルでした。店でおかずを買って。モスクワはレストランがありますが、とんでもなく高いんです」
 そうか……。
 町で食堂を探すことが間違いだった。雑貨屋風の店で、惣菜やパンを買い、ホテルの部屋で食べる……。ロシアでの旅のスタイルをそう切り替えればいいのだ。
 なにか開眼したような気がした。
 ロシア人がそうしているのだ。徹底して家で食べる文化圏──。観光客が行かないエリアに足を踏み入れることが多い僕の旅は、そうすべきだったのだ。
 これまで何回、ロシアを訪ねただろう。10回近くになる。いつもの悩みが氷解した。
 スーパーで惣菜を買った。マリネ風に調理されたキノコ、赤カブ料理、鶏肉……。改めて眺めると、なんでもある。それを買って、ホテルの部屋の床に座って食べた。優しいロシア料理の味だった。
 ホテル部屋食。ロシアの旅の流儀がようやくわかった気がした。
 しかしこういう国が、世界にどれだけあるだろうか。僕はアジアを歩くことが多いから、旅先での食事は外に出ることが多い。その感覚を捨てることだった。
 ロシア歩きの悩みがひとつ消えた。



Posted by 下川裕治 at 10:06│Comments(0)
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。