2023年08月21日
つらいトークイベントが迫っている
2週間ほどバンコクに滞在し、金曜日の夜に帰国した。今年11月に発売される「歩くバンコク」の仕事だった。当然、バンコクを歩きまわることになる。そこで痛感したのは、ますます薄くなる日本の存在感だった。コロナ禍前から、僕はことあるごとにこの傾向について触れてきた。いまさらながらの感もあるが、やはり気になる。観光地に出向いても日本人の姿を見ない。カオサン通りを歩いても日本語はほとんど聞こえてこない。呼び込みのタイ人たちも日本語を忘れてしまったようだ。バンコク市内の表示からも日本語が消えつつある。英語、中国語、韓国語はあっても……。
その理由を円安とじりじりあがるタイの物価高に求める人は多い。いま1バーツは4円を超えてしまった。このままいけば5円という人もいる。物価もあがっている。クイッティオというどこにもあるそばは50バーツから60バーツになった。もう安いアジアの国ではない。
しかし円安と物価高は、タイを訪れる旅行者が増えない一因にすぎないと思う。日本の影が薄くなってきたのは5年以上前からだ。コロナ禍で人の往来が2年以上止まり、その後、各国からの旅行者が戻りつつある。そのなかで、日本人の動きが緩慢だから目立ってしまうだけのことだ。
それは僕が数年前から抱いていたある種の危機感だった。「旅する桃源郷」(産業編集センター刊)を書かせたのは、旅がしぼんでいくような空気のなかでの焦りでもあった。
たしかに本を書きはじめたきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大だった。人々の旅は厳しく制限され、旅に出たくてもその機会すら手に入らない状況に陥っていた。
海外への旅が難しい環境のなかで、はじめこそ旅への渇望を口にする人が多かった。しかし、いつ旅が可能になるのかもわからない日々のなかで、日本人はその日常を受け入れていく。そして旅というものがない生活に馴染んでいくことになる。その変わり身は意外なほど早く、それを突き詰めていくと、コロナ禍前からはじまっていた海外への旅離れのようなものに行きついてしまうのだ。
旅とは所詮、そんなものだったのか。
それが僕が抱えてしまった葛藤だった。僕がその風潮に抗うように旅に出た。僕には桃源郷ともいえる街があり、そこを訪ねることで心の均衡を保つようなところがあった。
僕は20代の頃から旅に出た。バックパッカー旅といわれる旅のスタイルだったが、金をかけないというスタイルの旅が目的だったわけではない。僕は日本という国の暮らしから逃げたかったのだ。厳しい人間関係からの逃避だった。そんな僕を救ってくれたのは、うっとりするような絶景や安くておいしい料理ではなかった。現地で僕を受け入れてくれた人たちだった。僕は彼らに支えられてなんとか生きてきた。彼らが暮らす街が、僕の桃源郷である。僕の旅とはそういうものだった。
だから円安にシフトし、現地の物価があがったからといって、旅を諦めることはできない。僕の旅を強要するつもりはないが、旅に出ることを忘れてしまったかのような日本人には違和感がある。
いや、もともと僕のような旅人は少数派なのだろう。資金が乏しいのに旅に出る。それは当然、ビンボー旅行になる。その部分だけが切りとられて、僕の本は売れたが、それは振り返れば不幸なことだったのか。
実は「旅する桃源郷」のトークイベントが4日後にある。
http://www.nomad-books.co.jp/event/event.htm
いま、僕は自分の旅の隘路に入り込んでしまっていて、なにを話したらいいのかわからないでいる。つらいトークイベントが近づいている。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
その理由を円安とじりじりあがるタイの物価高に求める人は多い。いま1バーツは4円を超えてしまった。このままいけば5円という人もいる。物価もあがっている。クイッティオというどこにもあるそばは50バーツから60バーツになった。もう安いアジアの国ではない。
しかし円安と物価高は、タイを訪れる旅行者が増えない一因にすぎないと思う。日本の影が薄くなってきたのは5年以上前からだ。コロナ禍で人の往来が2年以上止まり、その後、各国からの旅行者が戻りつつある。そのなかで、日本人の動きが緩慢だから目立ってしまうだけのことだ。
それは僕が数年前から抱いていたある種の危機感だった。「旅する桃源郷」(産業編集センター刊)を書かせたのは、旅がしぼんでいくような空気のなかでの焦りでもあった。
たしかに本を書きはじめたきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大だった。人々の旅は厳しく制限され、旅に出たくてもその機会すら手に入らない状況に陥っていた。
海外への旅が難しい環境のなかで、はじめこそ旅への渇望を口にする人が多かった。しかし、いつ旅が可能になるのかもわからない日々のなかで、日本人はその日常を受け入れていく。そして旅というものがない生活に馴染んでいくことになる。その変わり身は意外なほど早く、それを突き詰めていくと、コロナ禍前からはじまっていた海外への旅離れのようなものに行きついてしまうのだ。
旅とは所詮、そんなものだったのか。
それが僕が抱えてしまった葛藤だった。僕がその風潮に抗うように旅に出た。僕には桃源郷ともいえる街があり、そこを訪ねることで心の均衡を保つようなところがあった。
僕は20代の頃から旅に出た。バックパッカー旅といわれる旅のスタイルだったが、金をかけないというスタイルの旅が目的だったわけではない。僕は日本という国の暮らしから逃げたかったのだ。厳しい人間関係からの逃避だった。そんな僕を救ってくれたのは、うっとりするような絶景や安くておいしい料理ではなかった。現地で僕を受け入れてくれた人たちだった。僕は彼らに支えられてなんとか生きてきた。彼らが暮らす街が、僕の桃源郷である。僕の旅とはそういうものだった。
だから円安にシフトし、現地の物価があがったからといって、旅を諦めることはできない。僕の旅を強要するつもりはないが、旅に出ることを忘れてしまったかのような日本人には違和感がある。
いや、もともと僕のような旅人は少数派なのだろう。資金が乏しいのに旅に出る。それは当然、ビンボー旅行になる。その部分だけが切りとられて、僕の本は売れたが、それは振り返れば不幸なことだったのか。
実は「旅する桃源郷」のトークイベントが4日後にある。
http://www.nomad-books.co.jp/event/event.htm
いま、僕は自分の旅の隘路に入り込んでしまっていて、なにを話したらいいのかわからないでいる。つらいトークイベントが近づいている。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
Posted by 下川裕治 at 12:15│Comments(1)
この記事へのコメント
昨日はお疲れ様でした
先生が話されたように欲望の低下
特に若者の間に感じます
所有欲がないので車も家も欲しがらず
パートナーを見つけるのも結婚さえ
コストと捉えます
そういう世代に盆や正月休みに旅に
出かけようとは思わないのかも、
日頃の労働疲れをとり スマホでゲーム
飽きたらマックかドトールでのんびり
お茶するだけで休みを完結してしまう
小さな世界で出来る限り金をかけず
日々をやり過ごしたい世代を劇的に
変えるのは難しいと感じました
本にサインして頂きありがとうございました。
先生が話されたように欲望の低下
特に若者の間に感じます
所有欲がないので車も家も欲しがらず
パートナーを見つけるのも結婚さえ
コストと捉えます
そういう世代に盆や正月休みに旅に
出かけようとは思わないのかも、
日頃の労働疲れをとり スマホでゲーム
飽きたらマックかドトールでのんびり
お茶するだけで休みを完結してしまう
小さな世界で出来る限り金をかけず
日々をやり過ごしたい世代を劇的に
変えるのは難しいと感じました
本にサインして頂きありがとうございました。
Posted by 内藤 竜太郎 at 2023年08月25日 15:21
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