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ナムジャイブログ

2016年10月31日

流星に感じる秋

 10月は、3週間ほど海外にいた。こんな暮らしをしていると、季節を失いそうになる。季節感というものは、同じ街にいないと感じにくい。
 旅人の季節は激しく変わる。昼、炎天下を歩くと汗が噴き出るバンコクから、飛行機で4時間ほど北東に飛んだ上海は秋の入り口だった。旧フランス租界のプラタナスの街路樹は色づく手前だった。
「あと1ヵ月かな」
 上海在住の日本人と雨に濡れるプラタナスを見あげる。
「落ち葉を掃かないでそのままにしておこうっていう人が増えてるんです。プラタナスの落ち葉が埋める道はきれいだから」
 こんな発想をするのは、旧フランス租界に住む欧米人や日本人だろうか。
 上海から飛行機で3時間ほどの東京に戻ると、秋はぐっと深まっていた。東京を発ったとき、まだ半袖だったが、3週間のうちにセーターがほしい気候になっていた。
 僕がメンバーに入れてもらっている句会が来週ある。今回の句会の兼題は「流星」である。
 一般的な俳句というものは、575の文字数の他に、句をつくる時期の季語をひとつだけ入れるというルールがある。句会の前にあらかじめ出される季語を兼題と呼ぶ。それを織り込んで句をつくり、句会で発表する。
 流星は秋の季語である。
 そう聞いたとき、たまらなく日本を感じてしまった。流星はいつの季節でも見ることができる。しかしあえて秋の季語に決めた日本人の感性……。なかなかのものだ。
 秋になると、夜空が冴えてくる。気温が低くなっていくとき、春のぼんやりした空ではなく、夏の強い空ではない秋の夜空に包まれる。冬の空に通じるものがあるのだが、夏が終わった秋の空に、日本人はより強い透明感を感じる。そこに星が流れる。流星はやはり秋の季語なのだ。
 調べると、秋から冬にかけては「ふたご座流星群」がよく見えるのだという。この流星群には放射点というものがある。流星の中心のようなもので、そこから流星が放射線状に流れるように見えるのだという。
 流星という言葉から、こんなに日本を感じたことはなかった。
 いい句が生まれそうな予感がした。が、その矢先、インドの列車に乗る日程が決まり、句会を欠席せざるを得なくなってしまった。列車は週に1本しかない。それに乗らないと締め切りに間に合わない。
 旅は季節を失わせる?
 いやインドの夜汽車で、流星を探してみようか。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=台湾のディープ旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。マレーシアの鉄道の完乗し、ベトナムへ。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
  

Posted by 下川裕治 at 18:49Comments(1)

2016年10月24日

ラープもタイ中華の軍門にくだる

 タイを描く本の取材を続けている。締め切りがきつく、取材をしては、それをすぐに原稿に書く日々に陥っている。
 テーマの一つであるタイ料理について、昔から思っていたことがある。タイの料理には、純血タイ料理と、タイ中華料理ともいえる料理群があると思うのだ。純血タイ料理というのは、酸味や辛さが独立し、舌の上で混ざり合わない料理である。ヤムやゲーンというスープに多い。それに対して混ざり合った味が、タイ中華料理。混ざった味のことをロットチューとという。
 タイ人に協力してもらい、一般的なタイの料理をタイ料理とタイ中華料理に分けてもらった。
<タイ料理>
 ココナツミルクが入らないトムヤムクン/ソムタム/ラープ/ゲーンソム/ヤムウンセン/ネーム/ガイヤーン/ナムプリック/チムチュム
<タイ中華料理>
 クイッティオ/バミー/パッタイ/トートマンプラー/カーオマンカイ/カーオカームー/クラッパオムーサップ/ラートナー/スーキー/タイスキ/プーパックポンカリー
 タイ料理に詳しくない人には、わからない料理があるかもしれない。詳細は、2月に発売される本を読んでほしいのだが、食べたことがあるタイ料理を思い浮かべながら、分類された料理を眺めてほしい。
 日本人がタイ料理といい、人気の高いものは、ほとんどがタイ中華料理なのだ。
 実はこの傾向は、タイ人にもいえる。タイ人が口にする料理の多くがタイ中華料理なのだ。いまやタイでは、タイ中華料理が全盛といってもいい。
 タイ人と一緒にその理由を考えてみた。
 タイ料理はつくるのに時間と手間がかかってしまう。タイ中華料理は、炒める料理が多いから簡単にできる。そしてタイ中華料理の多くはあまり辛くない。料理によっては、辛みを自分で加えるタイプだから、辛さの調節もできる。そしてタイ中華料理は早く食べることができる。
 タイ中華料理は、忙しい現代に合った料理ということになる。それに対して、辛くて酸っぱい純血タイ料理は、ゆっくり、のんびり食べたほうが味わい深い。
 どうもそういうことなのだ。
 ラープウンセン、という料理を思い出した。2、3年前から、イサーン料理屋に登場したという。ラープをウンセンと和えてあるのだが、それを口に運んだとき、思わず「これは中華じゃない」と口にしてしまった。
 ラープも、タイ中華料理の軍門にくだってしまった。タイ中華料理の勢いは止まりそうもない。

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Posted by 下川裕治 at 08:49Comments(1)

2016年10月17日

プミポン国王とタイ人の安定志向

 タイのプミポン国王が亡くなられた。ミャンマーで知った。バンコクに住む知人から次々と街の様子が伝わってくる。多くの人が黒い服を着ているのだという。
 ヤンゴンからバンコクに戻った。ヤンゴンの空港で働くタイ系の航空会社スタッフは、制服の上から黒いジャケットを着ている人が多かった。世界各国で同じことが起きているのだろうか。そしてバンコク。空港も街も、やはり黒ずんでいる。
 これは大変なことである。日本人はタイの王室に、日本の皇室を重ねるが、昭和天皇が亡くなられたとき、これだけの人が黒い服を着て喪に服したわけではなかった。
 それに比べると、タイ人のプミポン国王への敬愛は別格である。
 プミポン国王について語ることは、苦手だ。「国王批判を展開すると、不敬罪に触れ、タイに入国できなくなる」と何回も諭されていた。国王問題に踏み込んでも、書くことはできない。それが要因で、タイ王室について考えることをやめてしまった。だから書くことがない。会ったことももちろんないが。
 その空気が少し変わってきたのは、タクシンが首相になってからのように思う。赤シャツ派と黄シャツ派がぶつかりあったとき、赤シャツ派の演説内容に対して、不敬罪という言葉が飛び交った。そのころ、日本にいるタイ人の知人からも、国王に対する批判的な言葉を聞いた。タイ人のなかでなにかが変わってきたようだった。タクシンはタイの政治家のなかでは異形だが、あるふたを開けてしまったのかもしれない。パンドラの箱とはいわないが。
 国王の死を受けて、多くのタイ人は喪に服しているが、黒い服で包まれた中身は、以前とはだいぶ違ってきている気がする。
 一部の日本人は、後継をめぐって騒乱が起きるのでは、と心配している。しかしタイ人にそれほどのエネルギーがあるのだろうか、と思うのだ。
 プミポン国王の時代を、世界やアジアから俯瞰してみる。それはタイが親米国家として西側社会の一員になったことにはじまった。欧米型民主主義を実現できる国という評価のなかで経済成長を手に入れた。そのなかでタイは周辺国より頭ひとつ抜けた豊かさを手にいれた。
 しかし、今年の国民投票で、タイ人は欧米型民主主義を一部否定していく選択をした。それがある答のような気がしなくもない。
 欧米型民主主義への疑問は、さまざまなところで起きている。が、タイの場合は彼らの肌感覚だったような気がする。背伸びをすると、混乱ばかりが起きる。直接選挙にそれほどこだわらなくてもいいのではないか、と。 
 豊かさは保守性を生む。もちろん、皆が豊かになったわけではない。格差は広がる一方だが、ある空気を感じるときがある。タイ人は、安定したアジアの小国を標榜しはじめたのではないか……と。

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Posted by 下川裕治 at 11:51Comments(0)

2016年10月10日

ミャンマー列車旅の絶句

 東南アジアの全鉄道路線に乗るという旅を少しずつ続けている。いまはミャンマーのマンダレー。ヤンゴンを列車で出、パガン、エーヤワディー川を列車で越えてパコック。そこからモンユア、キンウーとローカル列車でつなぎ、今朝、マンダレーに着いた。
 ミャンマーの全鉄道路線に乗ることは、東南アジアの国のなかでいちばん難しいかもしれない……。それを痛感したのは、最初に向かったヤンゴン駅だった。
 ミャンマー内で列車が走っている路線を確認したかったのだ。ミャンマーはイギリス植民地時代の名残なのか、路線が多い。しかし、長い軍事政権時代はなおざりにされ、メンテナンスも行われず、運行ができない路線が多いと聞いていた。それをチェックしなければ、全路線に乗るというプランが立たない。運行状態のわからない路線を紙に書き出し、窓口でそれを見せた。たとえば、マンダレーからカレーミョまでの路線。すると駅員はこういった。
「列車はマンダレーからパコックを通ってカレーミョへ行く。走っている? そんなことはマンダレーかパコックの駅じゃなきゃわからないよ」
「……」
 絶句──。ヤンゴン駅は日本でいったら東京駅。そこで全国の運行路線がわからないのだ。
 最初に訪ねたのは当日券の窓口だった。翌日以降の切符を売るオフィスなら……と向かったが、結果は同じだった。
「近くまでいかないとわからないのか」
 ヤンゴン駅で天を仰いだ。
 気をとり直してパガン行きに乗った。予定の所要時間は18時間。ボックス席しかない車両でひと晩を明かす、つらい列車だった。運賃は500円ほどと安かったが。
 はじめは、すいていた。これなら体を横にできると思ったが、夜中の12時、3時といった時間に、どやどや客が乗り込んでくる。
 列車は2時間遅れでパガンに着いた。重い体で窓口に立つ。
「パコック行きが2分後に出ますよ」
 そんな路線があることも知らなかった。最近、走りはじめたという。急いで乗り込んだ列車は、「自動扉」という漢字が躍る日本の車両が1両。とことことエーヤワディー川を越えた。1時間半ほどでパコックに着く。
「カレーミョまでは?」
「もう走っていません」
 乗らなくてもいい、という安堵が体を包んだが、こんなことを延々と続けなくてはならない。僕はミャンマー語を話せないから、何回も確認しなくてはならない。
 この先、いったいどうなるのか。
 考えただけで気が重い。

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Posted by 下川裕治 at 12:00Comments(1)

2016年10月03日

インドの鉄道サイトで苦戦する

 11月に、インドの列車に乗ることになった。週に1便運行という列車だから、事前に予約をしたほうがいいようだった。
 インドの列車切符をインターネットで予約……。気が重かったが、するしかない。
 2日間、インドの列車サイトとの格闘が続いている。いまだ予約に至っていない。
 LCCが登場してから、インターネット予約が僕にも迫ってきた。このスタイルで航空券が安くなるのだから、避けて通るわけにはいかない。はじめはわからないことばかりだった。コールセンターに何回電話したことか。あの頃は、コールセンターもなかなかつながらなかった。
 慣れもあるのだが、最近のLCC 予約サイトはずいぶんわかりやすくなった。LCC にかかわることが多く、その原稿もしばしば書いている。あるとき、LCC とは航空会社ではなくIT企業ではないかと思うようになった。予約サイトのわかりやすさは、LCC の業績を左右するはずだ。
 しかしインドの鉄道サイトは、その枠の外で独自の道を進んでいるようにも映る。わかりやすいのか、難解なのかすらわからない。通常なら、スケジュールは目立つ場所にボタンがある。しかしインドの鉄道サイトは、それを探すのにひと苦労。それにカレンダーなどと書かれている。
 インドの鉄道サイトの予約は、携帯電話番号のところでひっかかっている。インドに住んでいるわけではないから、携帯電話の番号はない。それを、堂々と要求してくる。そこにパスワードを送るという。日本の携帯電話には送ってはくれない。
 どうしろというのだろうか。それでいてインドに住んでいない外国人用だと明記されている。
 以前、ギリシャのエーゲ航空の航空券を買ったときを思い出した。そのサイトには困った欄があった。ギリシャ人なら全員がもっているらしい納税番号を書き込まなくてはいけなかった。しかしそんなものがあるはずがない。
 モニターの前で悩み、日本の電話番号を打ち込んだ。桁数があっていたのだ。
「これで受けつけてくれるだろうか」
 不安を消せないまま、ボタンを押す。
「おおーッ」
 通ってしまった。めちゃくちゃな数字でもよかった気がする。
 インドの鉄道サイトでもいい加減な数字を打ち込んでみた。そこを通過すれば、パスポートのコピーをメールで送れば予約に辿りつくという話があったのだ。
 しかしインドの鉄道はだめだった。どうしようか。
 コールセンターということだろうか。

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Posted by 下川裕治 at 11:16Comments(3)