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ナムジャイブログ

2024年09月09日

旅が家畜化してしまった?

 いま、会津宮下駅という無人駅の待合室で原稿を書きはじめている。会津宮下駅は、会津若松と小出を結ぶ只見線の途中にある。
 このブログは週に1回のペースで書いている。これまでいろんなところで書いてきた。東京の自宅がいちばん多いと思うが、旅先の宿、空港で書くことも多い。日本の無人駅で原稿を書いたこと……はじめてだと思う。
 東日本大震災の年、地震や津波とはまったく関係なく、福島県と新潟県を結ぶ只見線は水害に遭い、一部の線路や橋梁が流されてしまった。以来、その区間をバスが代行でつないでいたのだが、2022年、11年ぶりに復旧。全線運行が再開された。JRは赤字路線の廃線を進めているが、それとは逆行した再開は奇跡ともいわれた。
 といっても只見線は赤字路線である。再開されたが1日6本の運行しかない。いま次の小出行きを待っているが、それは1時間半後だ。今日はそこから長岡まで向かうつもりだが、小出でもかなり待つ。原稿が終わるのは小出の駅、それとも長岡の宿だろうか。
 今日は日曜日ということもあると思うが、会津若松から乗り込んだ只見線はシニア一色だった。再開只見線はそこそこ人気があるようだが、若者は街に出、シニアはローカル線に走るという構図。僕がここにきたのも、シニアの旅向けの本を書くためだから、その意味では本の企画意図と合っているということだろうか。
 車内で耳に届くのは、シニアたちの旅談義である。JRの割引切符である「大人の休日倶楽部」や「青春18きっぷ」などにかなり詳しい。北海道に行くときは「どう組み合わせれば安い」といった話で盛りあがり、盛岡で食べたわんこそばに話題が飛ぶ。
 金曜日に、『日本ときどきアジア 古道歩き』(光文社知恵の森文庫)のトークイベントがあった。そこで僕は、「そういう旅はつまらない」と口にしたばかりだった。
 シニアになり、ある程度時間にゆとりができて出る旅が、旅情報の追体験なのだ。盛岡に行ったらわんこそばというのは、あまりに旅の想像力に欠ける。知らないことが多い若者はそれでもいいのかもしれないが、シニアにとっては寂しい気がする。
 そこで話したのが、自己家畜化論だった。どこかダーウインの進化論を超えるにおいがして、以前からこの理論には興味があった。最近、ようやくNHKがとりあげ、僕もその番組を観た。
 自己家畜化論──。たとえばオオカミとイヌの関係だ。オオカミのなかで、人間社会にすり寄った種が増えていく。イヌである。自己家畜化をとり込んだわけだ。反対に自己家畜化できなかった種は消えていく。オオカミである。
 この自己家畜化で種を増やしたのが人類だといわれる。人は自己を家畜化することで社会をつくり、そのなかで生きていく。仮に自己家畜化の最たる仕組みを会社社会だとしてみる。退職し、ようやくその世界から逃れ、自由に旅ができるというのに、追体験の旅を求めてしまう。本能まで家畜化したということだろうか。そんな話をした。
 ではシニアで埋まった只見線に乗る僕は、どの立ち位置にいるのだろうと考えると、僕の発想に未熟さに辿り着く気もする。ここから新しい旅を描けるのか。旅はなかなか難しいものだ。
(会津宮下から小出までは長かった。3時間もかかった。列車は2両編成のワンマンカーだった。3時間のうち、2時間以上は僕を含めて乗客ふたり、そして運転手ひとりという3人列車状態だった。これも只見線の現実である。原稿は一応、その車内で最後まで辿り着いたが)

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Posted by 下川裕治 at 12:08│Comments(1)
この記事へのコメント
旅に出る前にネットで情報収集は欠かせない。せっかく行くのだから、後で後悔したくない。しかし、それが面倒くさくなって旅を後回しにしてしまうこともある。
心が揺さぶられる景色や人に出会うことが旅の醍醐味。スマホで映え写真を撮る事よりも。
わかってはいるのだが、やっぱりググってしまう。
「せっかく根性」が1番重たい荷物だ。
Posted by mtejp at 2024年09月09日 15:24
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