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ナムジャイブログ

2023年06月26日

キャセイパシフィック航空の踏み絵

「好きな航空会社は?」というアンケートに答えるとしたら、香港のキャセイパシフィック航空と書く。
 僕が気に入っているのは、そのサービスの発想である。ごてごてしたところはないが実に適格でスピーディな香港スタイルのサービスなのだ。客室乗務員が口にする英語はわかりやすい。香港の空港の乗り継ぎも、みごとな段どりで乗客を次の飛行機に誘導し、荷物を積みかえる。かかる時間は40分。こうして定時運行に近づける。トラブルで便を乗り継げないときはトランジットホテルになるが、預けた荷物から洗面道具や衣類など必要なものをとり出す機会も用意されている。
 このキャセイパシフィック航空が、大陸の中国人からの非難を浴びている。発端は成都から香港に向かった機内。毛布がほしい乗客が、その英語がわからず、カーペットといった。それを客室乗務員が後方ギャレイでの話で笑いの種にしたという。その会話を聞いた乗客が中国版インスタグラムに投稿。火がついた。
 10年ほど前、同じ成都から香港までの路線に乗ったときを思い出していた。乗ったのはキャセイパシフィック航空の完全子会社の香港ドラゴン航空だった。その機内で、あまりに中国……といった光景を目の当たりにしてしまった。今回と同じ毛布だった。近くに座っていた中国人の中年女性が、100元札を客室乗務員の胸に押しつけ、普通話で、「毛布がほしい」と客室乗務員に懇願したのだ。
 香港ドラゴン航空は香港色を前面に出していた。機内放送は英語に次いで香港で使われる広東語、そして中国の標準語である普通話の順だった。機内食は中国ではあまり見かけないグラタンだった。
 今回の中国人の抗議には、「香港の中国差別」という話がよく出てきた。英語ができないと笑われた中国人の猛烈な反発だった。キャセイパシフィック航空は何回も謝罪し、そのときの客室乗務員を解雇した。しかしそれでも中国人たちの抗議はなかなか収まらなかった。
 しかし10年ほど前、香港ドラゴン航空は、「中国差別」をもっと前面に出していた。
 しかしこの人をコケにする感覚は誰の心のなかにもあるものだ。東京の人が地方の人をばかにするといったことは、言葉や行為に出すかは別にして、珍しいわけではない。タイのバンコクの人は、日本人以上に田舎の人を蔑む。
 飛行機の客室乗務員の仕事は頻繁にこの種のシーンに直面する。中国人の英語を嗤う思いを周囲に聞こえる言葉にしてしまったことは問題だが、厳しい研修を受けていたのかもしれない客室乗務員にも自負がある。
 僕が気に入っているキャセイパシフィック航空のサービスは、欧米人や日本といった、中国のいう西方民主の国の人々向けだ。そのなかでキャセイパシフィック航空は高く評価されていたが、それは中国の価値基準ではない。
 いや、中国人にしても、西側のサービススタイルのほうが心地いいことは知っている。日本にやってきた中国人観光客のSNSには、笑顔で対応する日本人店員や、遅れた乗客の荷物を持って一緒に走ってくれる航空会社のスタッフの話で溢れている。彼らは中国の航空会社のスタッフの居丈高な態度には辟易としている。
 しかし中国人を蔑む言葉には猛烈に反発する。それほど強いコンプレックスを抱えているのかと……と天を仰ぎたくなる。
 しかし今回のキャセイパシフィック航空の一件は、別の力が働いているようにも映るという専門家は多い。炎上速度が異常に早く、強い集中砲火型が見てとれるという。中国政府がこの一件は使えると判断したのか。
 中国政府は、キャセイパシフィック航空に対し、もっと中国スタイルを身につけろと暗にいっているのかもしれないが、それは国際的な世界で生きてきた蓄積を捨てろと踏み絵を迫る権威主義の隘路にも映る

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Posted by 下川裕治 at 12:52Comments(3)

2023年06月19日

性格の悪い老人

【お知らせ】
6月23日に新刊「僕はこんなふうに旅をしてきた」のトークイベント。申し込みは
http://www.nomad-books.co.jp/event/event.htm
 
 前号で紫陽花について書いたが、その後もこの花のことが頭から離れない。
 いま東京は梅雨で、紫陽花の季節である。そぼ降る雨のなかで咲く紫陽花につい視線が動いてしまう。しかし一見、花びらに見える部分はガク。それに守られるように花が咲いている。
 花は1ヵ月ほどで終わる。しかしガクはその後も色彩を放ちつづける。そして盛夏になっても花が咲いているかのように映り、やがて最後は色を失い、秋から冬にかけてドライフラワーのようになっても枝から離れない。
 紫陽花の花の一生に僕の人生を重ねる。一度は花が咲いたかもしれない。しかしその花は散り、ガクだけになったが、一見、花が咲いているかのような姿を留めている。
 そしてこれからが長い……。
 そう書いた後、なぜガクは色を失わずに枝に残っているのかと考え、迷路に入ってしまったような気になっている。
 花びらは、おしべやめしべを守っている。色を放ち、昆虫を呼ぶ。つまり植物の生殖にかかわる役割がある。
 だから受精が終われば花びらは散る。それが花の一生の王道である。しかし紫陽花は受精が終わり、種ができても色を失わない。それは花びらのように見えるものは花びらではなくガクだからだ。種ができるとガクは首を垂れるように下向きになる。種子が飛び散りやすくするためといわれている。しかしガクの色は失われない。
 役割を終えたというのに、なぜ、花が咲いているかのようにガクは枝に残っているのだろうか。まったく潔くない。老醜をさらけ出すために生きているような気になる。
 老いても美しいということなのか。しかしその発想は、人が老いを過剰に評価しているだけであって、植物の世界は冷徹である。用はないのに、ガクは花びらを装って枝に残っている。自然界は合理的な世界だから、花が散った後のガクにもなにかの役目があるのではないか。……そこで迷路に入ってしまっている。
 紫陽花には毒があるともいわれている。青酸配糖体というシアン化合物だという。自然界では珍しい毒ではないが、料理に添えられた紫陽花を食べた人がおう吐や失神を起こしたという報告もある。紫陽花は自分を守るために、そのなかに毒まで蓄えているのか。
 紫陽花は、花が散っているというのに、さも咲いているかのように装い、体内には毒を秘めている……。これは人間にたとえれば、心底、性格の悪い老人ではないか。
 そこに僕は人生を重ねる。まさに老醜ではないか。
 紫陽花をめぐる迷路に出口はない。

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Posted by 下川裕治 at 11:29Comments(2)

2023年06月12日

紫陽花に「これから長い」と語りかけ

 今日、新型コロナウイルスのワクチンを接種してきた。6回目である。マスクもほとんどつけない生活になりつつある。あれだけ日々の生活を翻弄させたウイルスも、喉元をすぎてしまったわけで、いまさらワクチン……という思いもあった。
 自分から申し込んだわけではない。僕は東京の杉並区に住んでいるが、事前に接種日時を設定した通知がきた。接種したくない人や都合の悪い人は、その予約をキャンセルするという連絡を入れるシステムだった。5回目と同じである。日曜日で、都合が悪いわけではなかった。どうしようか……。迷っているうちに当日になってしまった。
「まあ、無料だしなぁ」
 梅雨の弱い雨が降りつづくなか、レインコートを羽織って出かけた。
 接種会場はウイルスという憑き物がとれてしまったような空気が流れていた。接種を受ける人も、案内係の人も顔つきは穏やかだった。皆、6回目である。職員や医師の質問にも慣れた感じで答えている。はじめて接種したのは、大手町に設置された大規模な会場だった。あのときの緊張感に比べれば、隔世の感がある。
 接種は高齢者が優先されていると思う。杉並区の会場にやってきたのは、皆、60歳以上とおぼしき人たちだった。こういう世界に入ると、自分も高齢者なのだと呟いてしまう。
 3日前、69歳になった。特別な感情はないが、あと1年で古希……といわれると頷くしかない。しかし最初に脳裡に浮かんだのは、
「あと1年でシルバーパスがもらえる」
 ということだった。これを読んでいる人は縁がないかもしれないが、東京都では70歳をすぎると、都バスや都内を走るバスに自由に乗ることができるパスをもらえる。それがシルバーパス。乗り放題になるのだ。年間で2万円ほどは必要だったが、ひと乗り210円だから、毎日のように乗れば、すぐに元はとれる。
 コロナ禍で行動が規制されているとき、よく都バスに乗った。事務所が都バスのバス停に近いこともあったのだが。バスに乗っていると、このシルバーパスを定期券のように見せて乗り込んでくる人をよく見かける。皆、70歳以上の老人だが、かなり若く見える人もいる。あのパスが手に入る……。そんなことを考えた誕生日だった。
「とりあえず、都バスで東京湾の埋立地まで行ってみる?」
 69歳になっても、旅の因子のようなものが頭をもたげてくる。
 僕はある句会に加わっている。5月にも句会があり、そこで僕がつくった句のひとつはこんなものだった。

紫陽花に「これから長い」と語りかけ

 どう考えても駄句だが、紫陽花という花に、自分の人生を重ねてみた。紫陽花は梅雨の花だ。季語にもなっている。雨のなかでさまざまな色をつける姿は、いまだけもてはやされている。しかし紫陽花は長く咲きつづける。猛暑の季節になっても枯れることはない。色は褪せ、醜い姿を晒しながらも咲いている。これからが長いのだ。
 なぜ長いかといえば、紫陽花の花びらに見える部分は、花ではなくガク。だから長く咲くように見えるが、実は花びらではない。
 自分の人生に重ねてみる。
 69歳である。

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Posted by 下川裕治 at 15:20Comments(0)

2023年06月06日

【イベント告知】新刊『世界でこんな体験をしてきた~35年間の旅のエピソード~』発売記念

下川裕治の新刊『僕はこんなふうに旅をしてきた』発売を記念して、トークイベントを開催いたします。

詳細は以下です。ぜひ、ご参加ください!

新刊『僕はこんなふうに旅をしてきた』
発売記念





◆下川裕治さん  トークイベント◆

「世界でこんな体験をしてきた~35年間の旅のエピソード~」




新刊『僕はこんなふうに旅をしてきた』(朝日文庫)の発売を記念して、旅行作家の下川裕治さんをお招きして、旅行作家として35年間に発表した作品の中から厳選したエピソードについてスライドを眺めながらたっぷりと語っていただきます。

前作『沖縄の離島路線バスの旅』では、沖縄の離島で路線バスが運行している久米島、宮古島、石垣島、竹富島、西表島、与那国島、座間味島、伊江島、伊平屋島、粟国島、渡嘉敷島などを、バス運転手と会話を交わし、食堂で沖縄そばを啜り、民宿に泊まってビールを飲みながら、沖縄の離島の路線バスの旅の心地よさを再発見した下川さん。

新刊では、眼鏡のレンズが変形するほどの炎熱列車、バス内で一晩中続いた大ゲンカ、鮮烈に記憶に残った夕焼けなど、『12万円で世界を歩く』で旅行作家としてデビューして以降の100冊を越える作品の中からテーマ別に厳選したエピソード集になっています。1980年代後半から35年に渡って一貫して旅を書き続けている下川さんだけに、世界中の様々な場所で起きた呆然としたり、爆笑したり、驚いたり、ほっこりした貴重な旅のこぼれ話が聞けるはずです。

下川ファンの方はもちろん、バックパッカーの旅が好きな方やこの35年間の旅の変遷に興味のある方はぜひご参加ください!

※トーク終了後、ご希望の方には著作へのサインも行います。




●下川裕治(しもかわゆうじ)

1954年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。新聞社勤務を経てフリーに。アジアを中心に海外を歩き、『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)でデビュー。以降、おもにアジア、沖縄をフィールドに、バックパッカースタイルでの旅を書き続けている。『「生き場」を探す日本人』『シニアひとり旅バックパッカーのすすめ アジア編』(ともに平凡社新書)、『ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅』(中経の文庫)、『日本の外からコロナを語る』(メディアパル)など著書多数。  

◆下川裕治さんブログ「たそがれ色のオデッセイ」
http://odyssey.namjai.cc/




【開催日時】 

◆開催日時

6月23日(金)19:30~(開場19:00)

◆参加費

1000円(会場参加)
※当日、会場にてお支払い下さい

1000円(オンライン配信)
※下記のサイトからお支払い下さい
https://twitcasting.tv/nomad_books/shopcart/240594

◆会場

旅の本屋のまど店内 
 
◆申込み方法

お電話、e-mail、または直接ご来店の上、お申し込みください。
TEL&FAX:03-5310-2627
e-mail :info@nomad-books.co.jp
(お名前、お電話番号、参加人数を明記してください)
 
※定員になり次第締め切らせていただきます。

◆お問い合わせ先

旅の本屋のまど TEL:03-5310-2627 (定休日:水曜日)
東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F
http://www.nomad-books.co.jp

主催:旅の本屋のまど 
協力:朝日新聞出版

  

Posted by 下川裕治 at 15:36Comments(0)

2023年06月05日

【新刊プレゼント】僕はこんなふうに旅をしてきた

下川裕治の新刊発売に伴う、プレゼントのお知らせです。

【新刊】僕はこんなふうに旅をしてきた




下川裕治 (著)
僕はこんなふうに旅をしてきた

朝日文庫


◎ 本書の内容
下川裕治氏がこれまで刊行してきた100冊超の著作から、インパクト大のエピソードを選り抜いた。「死ぬかと思った編」「食べ物・酒編」「びっくりハプニング編」「ほっこり編」「トホホな話編」などのテーマ別に構成。旅が、世界が、30年でどれだけ変化したかも興味深い。

【プレゼント】

新刊本『僕はこんなふうに旅をしてきた』 を、

抽選で"3名さま"にプレゼントします!

今回はアンソロジーの出版記念として、特に応募条件はございません。
タイ在住+日本在住の方も対象ですので、どうぞ奮ってご応募ください。


応募は以下の内容をご記入の上、下記のお問合せフォームよりご連絡ください。応募受付期間は2023年6月18日まで。当選発表は発送をもってかえさせていただきます。

えんぴつお問合せフォーム
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Posted by 下川裕治 at 11:35Comments(0)