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ナムジャイブログ

2022年02月28日

ロシア人になって働いていたウクライナ人

 いまソウルの仁川空港でこのブログを書いている。夕方の飛行機でカンボジアのプノンペンに向かう。
 そこからタイにまわり帰国する予定だ。カンボジアとタイへの旅が楽になった。シェムリアップとバンコクではツイキャスのライブが待っている。
 28日夕方、シェムリアップからライブ。シェムリアップの街はコロナ禍の間、整備が進んでいた。整った街を歩いてみる。公園都市のようになった?
https://twitcasting.tv/c:shimokawayuji/shopcart/138009
 3月5日の夕方はバンコクから。バンコクの悩んでしまう日本語看板の謎を皆さんのコメントを参考に解いていくライブ。うまくいくかどうか。
https://twitcasting.tv/c:shimokawayuji/shopcart/138245
 3月6日の夕方はバンコクのソイを歩こうと思う。混乱と矛盾を孕んでしまったソイ。タイ人の深慮浅慮を実体験します。
https://twitcasting.tv/c:shimokawayuji/shopcart/138244
 とここまでは連絡。
 ウクライナが大変なことになっている。キエフは何回か訪ねた。規模は大きくないが自由のにおいがする街だった。
 生まれてはじめてウクライナ人にあったのは沖縄の宮古島だったと思う。宮古島には西里という歓楽街がある。そこにあるスナックで働いていた。宮古島の男性と結婚したのだという。宮古島のスナックはオトーリの聖地である。オトーリというのは、泡盛の一気まわし飲み。ホステスもつきあわされる。体を壊す女性も多いという。そこで彼女は働いていた。店ではロシア人ということになっていた。
「ウクライナっていっても、島の男はわからないさー」
 沖縄方言がうまかった。
 大阪から釜山に向かう船でもウクライナ人に会った。というよりスタッフの大半がウクライナ人だった。
 乗船すると、ロビーで白人がピアノを弾いて出迎え。高級クルーズ船? そんな船なのか? 大阪のおばさんが大挙して釜山に向かう船なのだ。彼女がウクライナ人だった。
 夕飯になった。するとエプロンをつけて配膳しているのがピアノを弾いていた女性だった。
 食事が終わるとショーがあった。数人のウクライナ人がステージでロシア民謡のカチューシャを踊り、歌う。どうして大阪から釜山に向かう船でロシア民謡なのか。かなり悩んだ。ショーが終わり、客はバーに移る。そこで韓国の焼酎などをテーブルに運んでくれるのも、ウクライナ人の女性たちだった。
 そこで訊くと、彼女たちは船から降りず、大阪と釜山の間を往復していた。ずっと船のなかで暮らすように3ヵ月をすごすのだという。たぶんビザの関係だった。金を使わないから一気に稼ぐことができる。会話は英語だった。船ではロシア人ということになっているという。
 海外に出て働くウクライナ人は多い。出稼ぎ国家の要素もあるが、それだけ開かれた自由がある国でもある。英語を口にする人も多い。
 プーチンをはじめとするロシアの保守派とはそりが合わない。その国にロシアは侵攻した。世界の反応が怖くないかのように。
 アメリカの威信の低下とは、こういうことなのだろうか。ロシアや中国といった権威主義に傾いた国が存在感を増す。中国は香港の自由を奪った。次は台湾とジョージアということなのか。。


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Posted by 下川裕治 at 10:19Comments(0)

2022年02月21日

20年前に戻ってしまった?

 昨日の晩、突然、電話が鳴った。ひとりのミャンマー人が死亡したという知らせだった。ミャンマー人といっても、西部に暮らすラカイン人である。技能研修生として日本の工場で働いていた。
 僕は知らないラカイン人だった。電話の目的は、工場の社長と連絡をとり、今後のことを決めていくためだった。そこには労災問題もあった。
 今日、朝から、社長との電話がつづいた。社長は警察署にいた。事故死である証明などの話だった。
 死亡した青年には日本で暮らす弟がいた。彼が駆けつけ、僕の知り合いはミャンマーにいる両親に連絡をとり……と慌ただしく時間がすぎていった。
 遺骨をどうやってミャンマーに運ぶか……などの問題がいくつかあった。
 20年以上前になる。僕は毎月、こういったトラブルとつきあっていた。相手はタイ人だったが。突然の電話からはじまるパターンがよく似ている。
 死亡していったタイ人は皆、不法就労だった。日本にいないことになっている立場だった。工場で働いているときに死亡しても労災とは縁がなかった。そもそもいない人たちなのだから、日本のルールをあてはめることができない。頼りは支援団体や確信犯的な病院、そして役所の拡大解釈だった。
 いつも費用で悩んだ。遺骨にしようとしても、火葬代がかかる。しかし行旅病人及行旅死亡人取扱法、」つまり行き倒れと判断されると、行政の費用で火葬代が出る。
 タイへの輸送は大使館に頼むことが多かった。定期的に物資を運ぶ大使館の荷物に入れてもらうのだった。
 しかし死亡したラカイン人は技能研修生だった。不法就労のタイ人が抱えるような問題はなかった。
 しかし別の問題があった。コロナと軍のクーデターだった。ふたつが重なったミャンマーは、ほぼ鎖国状態がつづいている。ミャンマーへの便は不定期で通常の観光客は乗ることができなかった。そして軍を嫌う彼らは、大使館を頼ろうとしない。
 さてどうするんか。
『あなたのルーツを教えて下さい』(安田菜津紀著。左右社)を読んだ。日本にいるさまざまな国籍の人を差別という構図のなか紹介している。剛速球で問題に迫るような本だ。自らの出自もかかわり、在日コリアンの項は秀逸だ。
 日本で生まれ育った外国人のなかに、子供時代にいじめで悩んだ人が少なくない。紹介されている「ちゃんへん.」という在日コリアンは、小学校時代にいじめに遇う。校長に抗議に出向いた母親はこういう。
「いじめよりおもろいもんがないからや。お前、学校のトップやったら、いじめよりおもろいもん教えたれ!」
 そんな本を読んだ後で届いたミャンマー人の死。なんだか20年前に戻ってしまったような気がしている。

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Posted by 下川裕治 at 10:38Comments(0)

2022年02月14日

春の雪だな

 2月10日、東京に雪が降った。朝から降りつづき、夜になるとさらに激しくなるという予報だった。事務所に行かず、家で仕事をすることにした。
 気象庁はいつにない警戒ぶりで、雪を前に記者会見まで行った。そしてテレビのニュースからは、「不要不急の外出は控える」というコロナ用語が聞こえた。
 不要不急という言葉にはずいぶん悩んだ。曖昧すぎるのだ。人によってなにが不要不急なのかがまったく違う。それをひとくくりにして具体例がない。政治用語にも映る。
 たとえば旅。一般的には不要ということになる。旅に出なくても死ぬことはない。しかし僕のように旅を生業にしている者にとって不要不急なのか。世のなかには、そういう仕事をしている人が少なからずいる。アーティストといわれる人たちもそうだ。コンサートはアーティストにとって不要不急なのかという話になる。
 こういう話に入り込むと、またしても新型コロナウイルスの隘路に入り込む。筆致修正しないと……。
 雪の夜、原稿を書いていた。ときどき外を見ると、大粒の雪が降りつづいていた。ふたたびパソコンの画面に視線を落とす。
 すると、ドサッという音が聞こえた。その後も何回か、その音が耳に届く。
「春の雪だな」
 カーテンを開け、外を眺めた。僕が仕事をしている部屋の脇には小さなベランダがある。その手すりに積もった雪がベランダに落ちていた。
 真冬の雪は細かく、音もなく降り積もっていく。その重さに耐えかねて落ちることは少ない。気温があがり、雪に含まれる水分が多くなったのだろう。
 自然の小さな変化に反応する。四季がくっきりとした日本の感情である。僕はある句会に加わっている。今晩の雪で句ができそうな予感がした。しかしその句会も1年以上開かれていない。
 先日、知り合いの森下典子さんの『青嵐の庭にすわる』(文藝春秋刊)を読み終わった。彼女は、『日日是好日』の映画を製作したとき、その茶道指導スタッフとして加わることになった。原作者が製作にかかわることはあまりない。彼女が体験した映画製作の現場を書き綴った本なのだが、読み終わった後、ネットフリックスで再び『日日是好日』を観てしまった。
 いつも思うのだが、彼女の原稿には季節がある。たとえばこの本の最後。
─湯が沸いた窯が「しー」と音をたてている。/その静かな「松風」に、私はじっと耳をすます。
 お茶を通して季節とつきあってきた人の文章だと思う。
 僕は海外ばかりでかけ、季節感のない日々をすごしてきたが、俳句をはじめて、少し季節を見る習慣がついてきた。
 しかし新型コロナウイルスは、その季節感も奪ってしまった気がする。この2年、季節がどう動いてきたのか、記憶が白濁している。こうしてウイルスに話が戻ってしまうのも、僕の季節への思い入れの軽さなのかもしれない。
 春宵一刻値千金。
 この意味を嚙みしめなければ。

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Posted by 下川裕治 at 11:33Comments(1)

2022年02月07日

16冊しか売れていない

『クーデターから1年。ミャンマー人たちの軍との闘い全記録』
https://note.com/shimokawa_note/m/m9dcecdc89604
 を発売した。ユーチューブ「下川裕治のアジアチャンネル」で、クーデター直後から連載を続けた「ミャンマー速報」をまとめたものだった。マガジンという名称になっているが、電子書籍だと思っている。ボリュームは1冊の単行本並みだ。
 発売から1週間がたったが、あまり売れてはいない。16冊しか売れていない。それほどまでに、日本人はミャンマーに関心がないのだろうか……悩んでしまう。
 1年の間にミャンマーで起きたことをまとめているから、物語ではない。資料として評価する人もいるだろう。そういった本はなかなか売れるものではない。一般的な紙の書籍にはなりにくい。だから電子版というスタイルにしたが……。
 ミャンマーに強い関心があるか、かかわっている人、そして研究者……。しかしこの本には、もうひとつの面がある。突然、10年前の「不自由で停滞」という軍事政権時代に戻されてしまったミャンマーの人々と、その痛みを共有することだった。そんな役割を負っていると思う。
 しかし思いと購入がダイレクトにつながっているわけではない。訴求が足りないということだろうか。PR不足? しかし資金もマンパワーもない。
 この本が売れれば、ミャンマー語に翻訳しようと思っていたのだが……。いかに軍はひどいことをやってきたのか。激しく動いた1年を確認する内容にもなっていた。
 そんな悩みのなかで、ネット社会というものを考えていた。クーデターから1年を見たとき、それは軍の銃と国民がつくったネット社会の闘いのように映る。国民はインターネットを駆使して抗議デモを連携させていった。それを封じ込めようと軍はやっきだが、軍もインターネットを使うから、完全遮断はできないまま1年がすぎた。
 ミャンマーから届いた情報は、ユーチューブで発信された。以前なら新聞や週刊誌での連載という形になるものかもしれないが、いまは自分たちでネットを使って発信できる。そして電子版だが本にすることもできる。
 人はインターネットを通して、膨大な情報を自由に手に入れられるようになった。
 しかしその費用ということになると、別のベクトルが働く。「ミャンマー速報」にしても、現地の人たちはほぼ無給で情報を送ってくれる。読む人たちが代金を払うわけではない。しかしその内容をより深めたり、書籍化や翻訳となると、どうしても費用がかかってきてしまう。それを補填するために、電子書籍を有料で発売すると、紙の書籍以上に売ることが難しくなる。インターネットの社会は無料か安価でなければ訴求力を失っていく。
 そこで情報の偏りが生まれてしまう。伝えたいことが伝えられない状況ができあがってしまうのだ。
 そのさじ加減はかなり難しい。

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Posted by 下川裕治 at 12:34Comments(3)