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ナムジャイブログ

2012年07月30日

エコノミー症候群?

「軽いエコノミー症候群になったとしか、考えられないね」
 医師はそういった。
 先週末、台北から帰国した。昼間のフライトだった。飛行機は2時間ほど遅れて成田空港に到着した。席を立つと、右足に軽い違和感があった。軽い痺れのような感覚……。しかし歩くのには支障はなかった。
 翌朝、右足のふくらはぎに筋肉痛が残っていた。こむら返りの後のような痛みだ。運動をしたわけではない。夜中にこむら返りが起きたわけでもなかった。足裏に軽い痺れがあり、感覚も鈍い。
「エコノミー症候群?」
 飛行機にはしばしば乗る。エコノミー席が基本だ。
 この病気を知らないわけではなかった。同じ姿勢を長い間続けた結果、静脈に血栓ができてしまう病気だ。それが右足だけに起きたのだろうか。
 乗り物は、その座席が狭くなるほど運賃が安くなるという、わかりやすい構造に支配されている。飛行機はエコノミー席が最も安いが、LCCという安い航空会社群になると、通常の飛行機よりもさらに狭くなる。しかしインドやバングラデシュ、パキスタンのバスや、中国の列車の硬座などとなると、飛行機とは別の時空に入り込む。どうやって足を入れようか……と、しばし悩み、入れたらもう足は1、2センチも動かない情況に陥ってしまうのだ。
 世のなか、背が高い、つまり足が長いほうがなにかと得をするような気がするが、このときばかりはそのやり場に困ってしまう。コンパクトな体系に勝るものはない。
 エコノミー症候群の話を聞いたとき、僕が最初に思い浮かべたのは、あまりに狭いバスや列車の席だった。その世界に比べれば、LCCの座席間隔など、どうってことはない狭さなのだ。
 しかし僕の体は、台北から3時間ほどのフライトで、足の静脈に血栓ができるほどになってしまったのだろうか。
 数年前、不整脈が発覚した。この病気は血栓の誘因になる。しかし自覚症状はない。手術という方法もあるが、自覚症状がなければ……という医師の見解に従っている。その代わり、血が固まることを防ぐ薬や頻脈予防の薬を毎日、飲んでいる。そして診療室から出るとき、いつもいわれる。
「水分を十分にとってくださいね」
 ふくろはぎの筋肉痛で訪ねたのは、自宅に近い整形外科医院だった。そこでも、同じことをいわれた。たしかに台北は暑かった。
 暑い夏、「あまり水を飲むとバテる」といわれて育った世代である。若干の違和感を覚えながらも、胃をちゃぷちゃぷさせながら、東京の暑さのなかを歩いている。
  

Posted by 下川裕治 at 11:29Comments(0)

2012年07月23日

臺灣としっかり書ける台湾人

「漢字の国なんだな」と、改めて台北の街並みを眺めていた。
 バンコクから台北にきた。昨夜、台北に住む日本人たちと夕食のテーブルを囲んだ。話は原稿を書くスタイルに及んだ。
 僕は最近、思うところがあって、書籍などの長い原稿は、手書きに戻ってしまった。原稿用紙に、シャープペンで書いている。
 それをいうと、編集者の顔が曇る。経費と時間がかかってしまうのだ。ただでさえ、本が売れない時代である。なるべく安い定価をつけたい編集者にしたら、手書き原稿は足を引っ張るもの以外、なにものでもない。
 手書きで原稿を書くようになって、暗澹たる思いに浸るときがある。漢字が脳の回路から出てきてくれないのだ。ときに簡単な漢字すら書けなくなる。
 これはパソコンに慣れてしまった日本人の多くが体験することだ。急に手書きで書類を書いたり、メモをとるときなど、怖いぐらいに漢字が出てこない。手書きで原稿を書き進めていくと、いくぶん改善してくるのだが。
 台湾で遣われている漢字は繁体字と呼ばれるもので、ときに旧字も出てくる。
 だいたい台湾という漢字にふたつがある。臺灣と台湾である。旧字もなんとか読めるが、台湾の人はこの「臺」とか「灣」という字をちゃんと書けるのだろうか……。
「ちゃんと書けますよ。中学や高校で、みっちり勉強させられますから」
 台湾の学校に子供が通っている知人が、間髪をいれずに答えてくれた。
 台湾人は書けるらしい。
 台湾の人々も、日本人と同じようにパソコンを使っている。しかしいざ、手書きになっても平然とした顔で、「臺灣」と書くのだという。
 これはどういうことだろうか。
 僕などはひどいもので、いまだにきちんと書くことができない漢字がいくつかある。たとえば、憂鬱の「鬱」である。なんとなく字の形は覚えているのだが、正確には書けない。最近の日本社会は陰鬱な時代を迎えているようで、この「鬱」という字を遣うことが多い気がするのだが、正確には書けないのだ。
 原稿は手書きといっておきながら、「鬱」という字は、なんとなく、くちゃくちゃと書いてお茶を濁している。文字を打つ人がちゃんと打ってくれるだろうと……。
 それはおそらく、日本人が「ひらがな」という文字をもっているからなのだろう。しかし台湾人には、ひらがなに相当する文字がない。漢字のみで生きて行く。漢字というものへの思いは、日本人より深く、重い。
 日本語という言語は、実はパソコン向きのものなのかもしれない。漢字の国で、そんなことを考えている。
  

Posted by 下川裕治 at 15:05Comments(0)

2012年07月17日

【お知らせ】下川裕治トークイベント@日本アセアンセンター

8月9日に東京都港区新橋の日本アセアンセンターにて、下川裕治のトークイベント が開催されます。奮ってご参加ください。

下川裕治トークイベント
「カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムと日本人はどうつきあうか?」


日本アセアンセンターでは、ASEAN設立記念事業「アセアン・アニバーサリー2012」事業の一環として、著名な旅行作家、下川裕治さんをお迎えしてのトークイベントを開催します。

カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムを毎年何度となく訪れる下川裕治さんに、近年めまぐるしく変化するこの地域の変わらぬ魅力、変わっていく面白さを、旅のスライドを交えてたっぷりと語っていただきます。

また、当日は各国の情報コーナーも充実。
まだ行ったことがない人も、これから行こうと思っている人も、リピーターも!
情報満載のこの機会を是非お見逃しなく!

下川裕治トークイベント

2012年8月9日(木)
18:30 ~ 20:30 (18:00受付開始)
会場:日本アセアンセンター内 アセアンホール
アクセス等はHPをご参照ください。
http://www.asean.or.jp/ja
☆入場無料
☆先着100名
☆お申込みは、イベント名、お名前をご明記の上、下記まで。
メール:ajc-pr@asean.or.jp
電 話:03-5402-8118
  

Posted by 下川裕治 at 16:25Comments(0)

2012年07月17日

自分でメールマガジン?

 バンコクからナコンサワンまで列車に乗った。スペシャルエキスプレスという列車で、ナコンサワンまで3時間14分とタイムテーブルには出ていた。実際は、5時間かかって着いたのだが。タイ国鉄の列車の遅れは珍しいことではない。が、最近、遅れ具合がちょっとひどい気がする。
 390バーツという運賃には昼食が含まれていた。ゲーンキヨワーンの弁当。タイ風のさつま揚げもついていた。
 こういう食事が出てくると、つい、写真に撮ってしまう。メールマガジンを出していた癖である。
 ある旅行会社からの依頼を受けて、メールマガジンを発信していた。『国境日和』というタイトルである。月に2回。160号にもなったから、7年近く続けたことになる。連載は途中から「今日も機内食」というサブタイトルがついた。毎月、僕が乗る飛行機をレポートし、各空港のインターネットの接続状況などのコラムを添えていた。
 その連載に掲載するために、飛行機に乗るたびに、機内食を撮った。数種類の菓子類のほかに、パンとザーサイという中国東方航空の機内食には困った。いったいどうやって食べたらいいのか、しばし悩んだ。リンゴがまるごと1個出てきたウクライナ・インターナショナルの機内食にも戸惑った。
 その連載が休刊になる。そこには、日本の旅行会社の事情があった。メールマガジンを発行がはじまった7年ほど前、まだ個人旅行者が旅行会社を利用していた。しかし航空券はインターネットを通じて個人が買うことができるようになっていった。僕のような旅をする旅行者が、旅行会社を使う機会がめっきり減ってしまったのだった。
 そこそこの発行部数があったが、読者の多くは個人で旅行するタイプである。旅行会社との関係が薄れ、『国境日和』の内容は、会社のニーズと合わなくなってきていた。
 このメールマガジンをどうしようか。知人に相談してみた。
「自分で課金して続けたらどう」
 なんでもそういうメールマガジンが増えているのだという。自分で価格も決定するシステムである。
 こういう世界に手を染めると、どうしても読者数を増やそうと考えてしまう。面白さがリアルタイムで現れるのがネットの社会だ。
 しかし本の世界は少し違う。売れる本を書かなくてはならないが、内容への思いと発行には時差がある。短くて半年。長ければ2~3年、いやそれ以上……。企画段階で売れると判断されたものが、発行時には違う状況になっていることもある。ときに失敗もするし、逆に予想外に売れることもある。面白い本は、そういう想定外のところから生まれる気がする。
 しかしネットの世界には、その時差がない。その結果、皆、売れそうなものに集まってきてしまう。インターネットの世界は、個性的なようでいて、妙に凡庸だ。
 自分で有料のメールマガジンを発行するということは、そんな隘路が待っているような気がしないでもない。
 さて。
 どうしたものか……。

  

Posted by 下川裕治 at 15:54Comments(3)

2012年07月09日

「おいしさ」が飽きを生む?

 忙しい。毎日、午前中に事務所に向かい、帰宅は翌朝になってしまう。その間、ずっと事務所の机にへばりついている。いったい1日、どれだけの文字を打っているのだろう。
 食事をとる時間がないわけではない。しかしその余裕がない。いつもコンビニで買うパンかおにぎりになってしまう。そんな日々がもう数日続いている。
 事務所の周りには、ファミリーマート、セブンイレブン、ローソンという3軒のコンビニがある。昼となく、夜となく、その3軒をうろついている。
 そういう日々が3日ぐらい続くと、さすがに、コンビニに並んでいるものに飽きてきてしまう。腹が減り、1軒のコンビニに入る。しかしその商品棚を目にしたとたん、食欲が霧散していく。店内をぐるりとまわっても、食べたいものが思いつかない。ホッキョクグマのように、店内をぐるぐる動くだけで、買う物が決まらないのだ。
 どうしてコンビニに並んでいる食べ物は、こんなに早く飽きるのだろ。
 店の隅にバナナが置いてあった。1本98円もした。しかしサンドイッチにも飽き、菓子パンにも飽きた胃には妙に新鮮だった。
 1本のバナナを買った。
 おいしかった。
 それから毎日、バナナばかり食べている。ぼんやりバナナの皮を剥きながら、不思議に思う。
「なぜ、バナナは飽きないんだろう」
 人が知恵を絞り、つくりあげた食べ物はすぐに飽きてしまうというのに。
 それは「媚び」の問題かもしれない。コンビニに並ぶ食品は、おそらく何回も試食を繰り返している。人が口にし、「おいしい」と思う味を追い求める。それが売れ行きを左右する。しかしバナナは、人に食べられるために実ったのではない。新しいバナナを育てるために実をつけたのだ。
 人に媚びた味はすぐに飽きる。しかし、人に媚びない味には飽きない。そんな気もするのだが。
 僕はタイにしばしば出かける。あるとき、日本からやってきた知人と歩いていた。果物を売る屋台が見えた。
「パイナップルでも食べましょうか」
 知人の表情が少し曇った。
「果物はほとんど食べないんだ」
 それからしばらく、出会う日本人の男性に訊き続けた。果物は食べますか? 5~6人にひとりぐらい、「まず食べない」という答が返ってきた。
 彼らの舌は、果物に反応しない?
 そんなことはないだろう。飽きたわけでもない。しかし彼らの食指は動かない。
 この謎はまだ解けていない。
  

Posted by 下川裕治 at 09:16Comments(0)