2012年07月23日
臺灣としっかり書ける台湾人
「漢字の国なんだな」と、改めて台北の街並みを眺めていた。
バンコクから台北にきた。昨夜、台北に住む日本人たちと夕食のテーブルを囲んだ。話は原稿を書くスタイルに及んだ。
僕は最近、思うところがあって、書籍などの長い原稿は、手書きに戻ってしまった。原稿用紙に、シャープペンで書いている。
それをいうと、編集者の顔が曇る。経費と時間がかかってしまうのだ。ただでさえ、本が売れない時代である。なるべく安い定価をつけたい編集者にしたら、手書き原稿は足を引っ張るもの以外、なにものでもない。
手書きで原稿を書くようになって、暗澹たる思いに浸るときがある。漢字が脳の回路から出てきてくれないのだ。ときに簡単な漢字すら書けなくなる。
これはパソコンに慣れてしまった日本人の多くが体験することだ。急に手書きで書類を書いたり、メモをとるときなど、怖いぐらいに漢字が出てこない。手書きで原稿を書き進めていくと、いくぶん改善してくるのだが。
台湾で遣われている漢字は繁体字と呼ばれるもので、ときに旧字も出てくる。
だいたい台湾という漢字にふたつがある。臺灣と台湾である。旧字もなんとか読めるが、台湾の人はこの「臺」とか「灣」という字をちゃんと書けるのだろうか……。
「ちゃんと書けますよ。中学や高校で、みっちり勉強させられますから」
台湾の学校に子供が通っている知人が、間髪をいれずに答えてくれた。
台湾人は書けるらしい。
台湾の人々も、日本人と同じようにパソコンを使っている。しかしいざ、手書きになっても平然とした顔で、「臺灣」と書くのだという。
これはどういうことだろうか。
僕などはひどいもので、いまだにきちんと書くことができない漢字がいくつかある。たとえば、憂鬱の「鬱」である。なんとなく字の形は覚えているのだが、正確には書けない。最近の日本社会は陰鬱な時代を迎えているようで、この「鬱」という字を遣うことが多い気がするのだが、正確には書けないのだ。
原稿は手書きといっておきながら、「鬱」という字は、なんとなく、くちゃくちゃと書いてお茶を濁している。文字を打つ人がちゃんと打ってくれるだろうと……。
それはおそらく、日本人が「ひらがな」という文字をもっているからなのだろう。しかし台湾人には、ひらがなに相当する文字がない。漢字のみで生きて行く。漢字というものへの思いは、日本人より深く、重い。
日本語という言語は、実はパソコン向きのものなのかもしれない。漢字の国で、そんなことを考えている。
バンコクから台北にきた。昨夜、台北に住む日本人たちと夕食のテーブルを囲んだ。話は原稿を書くスタイルに及んだ。
僕は最近、思うところがあって、書籍などの長い原稿は、手書きに戻ってしまった。原稿用紙に、シャープペンで書いている。
それをいうと、編集者の顔が曇る。経費と時間がかかってしまうのだ。ただでさえ、本が売れない時代である。なるべく安い定価をつけたい編集者にしたら、手書き原稿は足を引っ張るもの以外、なにものでもない。
手書きで原稿を書くようになって、暗澹たる思いに浸るときがある。漢字が脳の回路から出てきてくれないのだ。ときに簡単な漢字すら書けなくなる。
これはパソコンに慣れてしまった日本人の多くが体験することだ。急に手書きで書類を書いたり、メモをとるときなど、怖いぐらいに漢字が出てこない。手書きで原稿を書き進めていくと、いくぶん改善してくるのだが。
台湾で遣われている漢字は繁体字と呼ばれるもので、ときに旧字も出てくる。
だいたい台湾という漢字にふたつがある。臺灣と台湾である。旧字もなんとか読めるが、台湾の人はこの「臺」とか「灣」という字をちゃんと書けるのだろうか……。
「ちゃんと書けますよ。中学や高校で、みっちり勉強させられますから」
台湾の学校に子供が通っている知人が、間髪をいれずに答えてくれた。
台湾人は書けるらしい。
台湾の人々も、日本人と同じようにパソコンを使っている。しかしいざ、手書きになっても平然とした顔で、「臺灣」と書くのだという。
これはどういうことだろうか。
僕などはひどいもので、いまだにきちんと書くことができない漢字がいくつかある。たとえば、憂鬱の「鬱」である。なんとなく字の形は覚えているのだが、正確には書けない。最近の日本社会は陰鬱な時代を迎えているようで、この「鬱」という字を遣うことが多い気がするのだが、正確には書けないのだ。
原稿は手書きといっておきながら、「鬱」という字は、なんとなく、くちゃくちゃと書いてお茶を濁している。文字を打つ人がちゃんと打ってくれるだろうと……。
それはおそらく、日本人が「ひらがな」という文字をもっているからなのだろう。しかし台湾人には、ひらがなに相当する文字がない。漢字のみで生きて行く。漢字というものへの思いは、日本人より深く、重い。
日本語という言語は、実はパソコン向きのものなのかもしれない。漢字の国で、そんなことを考えている。
Posted by 下川裕治 at 15:05│Comments(0)
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