2018年12月24日
カンボジア式というもの
カンボジアに長期滞在する人たちが揺れている。これまで、年間200ドル強を払えば、1年の滞在が可能だった。受けとるのはマルチプルというビザ。これがあれば働くことも可能だった。そして更新のために国外に出る必要がなかったから、200ドル強さえ払えばいつまでも滞在できた。
世界には長期滞在用のさまざまなビザがある。アジアの場合、働かずに滞在できるビザとしては、ロングステイビザが一般的だ。しかしルール上は、かなりの資金を銀行に預けなくてはならない。しかしカンボジアは、手もちの資金が少なくても長期の滞在が可能。アジア最後の楽園……。そういう人もいた。
それが突然、滞在期間は半分の6ヵ月になり、そのつど、国外に出なくてはいけなくなった。再入国するときは、オーディナリーという訳のわからないビザを35ドルでとる。かつてはビジネスビザと呼ばれたものだ。滞在期間は1ヵ月。その間に長期用のビザに切り替えることになるが、その期間が半年に縮まってしまったわけだ。
同時に長期滞在と労働許可が別のものになった。カンボジアはようやく、普通の国になりつつあるということなのだろうが、長期滞在組は不安が募る。その先にはカンボジアという国がある。どうせ抜け道ができるという経験則……。
そんなひとりと、ビザを手配してくれる業者を訪ねた。会社ではなく1軒の家だった。
さまざまな憶測をぶつけてみる。ひとつは従来のビザ代が300ドルとかに値あがりして、状況はそのままというパターンだった。
「今回、それはないらしい。ただ56歳以上はいままで通りになった。それより若い人は、政府のいう半年ルールに従うしかないみたいだね」
「ほかの国のように、ビザ更新のために陸路を使うことを制限するとか、半年の滞在資格がもらえないってことになる可能性ってあるんですか」
「空港や国境で35ドルを払って1ヵ月滞在のルールは変わらないから、たぶんそこは大丈夫。あとはカンボジア国内の業者の世界だから、心配ないと思うよ。ただこれから労働資格をもっていない人は厳しくなっていく可能性はある。早くどこかの会社の幽霊社員になって労働資格をとったほうがいいかもしれないね。そうすれば1年更新になる」
「その費用がかさむ?」
「200ドルとか300ドルですむんじゃないかな。それも業者の世界だから」
カンボジアらしい話に流れていった。つまりは業者という世界に入り込んでいくカンボジアスタイル。
どちらに転んでいくかはわからない。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=再び「12万円で世界を歩く」のシリーズがはじまります。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまは番外編を連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
世界には長期滞在用のさまざまなビザがある。アジアの場合、働かずに滞在できるビザとしては、ロングステイビザが一般的だ。しかしルール上は、かなりの資金を銀行に預けなくてはならない。しかしカンボジアは、手もちの資金が少なくても長期の滞在が可能。アジア最後の楽園……。そういう人もいた。
それが突然、滞在期間は半分の6ヵ月になり、そのつど、国外に出なくてはいけなくなった。再入国するときは、オーディナリーという訳のわからないビザを35ドルでとる。かつてはビジネスビザと呼ばれたものだ。滞在期間は1ヵ月。その間に長期用のビザに切り替えることになるが、その期間が半年に縮まってしまったわけだ。
同時に長期滞在と労働許可が別のものになった。カンボジアはようやく、普通の国になりつつあるということなのだろうが、長期滞在組は不安が募る。その先にはカンボジアという国がある。どうせ抜け道ができるという経験則……。
そんなひとりと、ビザを手配してくれる業者を訪ねた。会社ではなく1軒の家だった。
さまざまな憶測をぶつけてみる。ひとつは従来のビザ代が300ドルとかに値あがりして、状況はそのままというパターンだった。
「今回、それはないらしい。ただ56歳以上はいままで通りになった。それより若い人は、政府のいう半年ルールに従うしかないみたいだね」
「ほかの国のように、ビザ更新のために陸路を使うことを制限するとか、半年の滞在資格がもらえないってことになる可能性ってあるんですか」
「空港や国境で35ドルを払って1ヵ月滞在のルールは変わらないから、たぶんそこは大丈夫。あとはカンボジア国内の業者の世界だから、心配ないと思うよ。ただこれから労働資格をもっていない人は厳しくなっていく可能性はある。早くどこかの会社の幽霊社員になって労働資格をとったほうがいいかもしれないね。そうすれば1年更新になる」
「その費用がかさむ?」
「200ドルとか300ドルですむんじゃないかな。それも業者の世界だから」
カンボジアらしい話に流れていった。つまりは業者という世界に入り込んでいくカンボジアスタイル。
どちらに転んでいくかはわからない。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=再び「12万円で世界を歩く」のシリーズがはじまります。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまは番外編を連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
Posted by 下川裕治 at
13:48
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2018年12月17日
長距離バスの自己責任論
今年の後半は長距離バスによく乗った。中国の新疆ウイグル自治区を走るバス。そしてアメリカのグレイハウンドバス。日本でも、実家のある信州と新宿の間を走るバスにはよく乗る。中国、アメリカ、日本……。それぞれルールが違う。
■アメリカの自己責任論
グレイハウンドバスの運転手は、発車するとき、ルールの説明をする。そのとき、よく口にするのが「責任」という言葉だ。レスポンスビリティである。
「発車時刻には自分の責任でバスに戻ってください」
そして発車時に乗客の数を数えない。時刻がきたら、すっとバスを発車させてしまう。乗り遅れは自己責任という発想だ。アメリカ社会のひとつの特徴のように思う。
それに比べ、日本と中国は、発車前に乗客を確認する。戻っていない乗客を運転手は待ったりする。
日本では、海外でテロなどに巻き込まれたときなどに、この自己責任論がしばしば登場する。しかしアメリカでは話題にもならないはずだ。自己責任は当然のことだからだ。
■中国の契約概念
中国のバスは、発車時に運転手が注意事項を伝えることはない。なにもいわずに発車する。アメリカと日本はその注意事項の説明に乗客との契約概念を含んでいる。
たとえば喫煙。アメリカと日本は車内禁煙を伝える。そこには守らなかった客への罰があることを含んでいる。しかし中国にはそれがない。中国のバスも車内で煙草を喫う人はいないが、もし喫ったら……。中国社会の民度はまだ低いように思う。
シートベルトの着用はアメリカと日本では伝えられる。しかし多くの人がシートベルトを締めない。ところが中国は、運転手がなにもいわないにも関わらず、ほとんどの人がシートベルトを締める。これは契約の概念とは少し違う気がする。やはり事故が多いのだろう。ネットで事故映像をよく観ることも一因だろうか。
■運転手の威厳
アメリカのバスの運転手は威厳がある。中国もなかなかしっかりしている。休憩時間に道路に出たりすると注意する。乗客を管理するという発想は、中国の運転手に強い。
最も威厳がないのが、日本の運転手だろうか。会社に雇われた運転手という雰囲気が伝わってくる。個人としてのキャラクターは前面に出てこない。自己主張というものへの風土が違う気がする。
アメリカと中国、日本。いちばん安心してバスに乗ることができるのはアメリカのように思う。運転手と乗客の間に生まれる信頼感はなかなかのものだ。「メリークリスマス」という言葉を残して交代するアメリカの運転手。長距離バス先進国ということか。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=再び「12万円で世界を歩く」のシリーズがはじまります。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまは番外編を連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■アメリカの自己責任論
グレイハウンドバスの運転手は、発車するとき、ルールの説明をする。そのとき、よく口にするのが「責任」という言葉だ。レスポンスビリティである。
「発車時刻には自分の責任でバスに戻ってください」
そして発車時に乗客の数を数えない。時刻がきたら、すっとバスを発車させてしまう。乗り遅れは自己責任という発想だ。アメリカ社会のひとつの特徴のように思う。
それに比べ、日本と中国は、発車前に乗客を確認する。戻っていない乗客を運転手は待ったりする。
日本では、海外でテロなどに巻き込まれたときなどに、この自己責任論がしばしば登場する。しかしアメリカでは話題にもならないはずだ。自己責任は当然のことだからだ。
■中国の契約概念
中国のバスは、発車時に運転手が注意事項を伝えることはない。なにもいわずに発車する。アメリカと日本はその注意事項の説明に乗客との契約概念を含んでいる。
たとえば喫煙。アメリカと日本は車内禁煙を伝える。そこには守らなかった客への罰があることを含んでいる。しかし中国にはそれがない。中国のバスも車内で煙草を喫う人はいないが、もし喫ったら……。中国社会の民度はまだ低いように思う。
シートベルトの着用はアメリカと日本では伝えられる。しかし多くの人がシートベルトを締めない。ところが中国は、運転手がなにもいわないにも関わらず、ほとんどの人がシートベルトを締める。これは契約の概念とは少し違う気がする。やはり事故が多いのだろう。ネットで事故映像をよく観ることも一因だろうか。
■運転手の威厳
アメリカのバスの運転手は威厳がある。中国もなかなかしっかりしている。休憩時間に道路に出たりすると注意する。乗客を管理するという発想は、中国の運転手に強い。
最も威厳がないのが、日本の運転手だろうか。会社に雇われた運転手という雰囲気が伝わってくる。個人としてのキャラクターは前面に出てこない。自己主張というものへの風土が違う気がする。
アメリカと中国、日本。いちばん安心してバスに乗ることができるのはアメリカのように思う。運転手と乗客の間に生まれる信頼感はなかなかのものだ。「メリークリスマス」という言葉を残して交代するアメリカの運転手。長距離バス先進国ということか。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=再び「12万円で世界を歩く」のシリーズがはじまります。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまは番外編を連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
Posted by 下川裕治 at
12:27
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2018年12月10日
アメリカの世代交代
昨夜、アメリカの西海岸のシアトルに辿り着いた。前号は、メキシコのシウダード・ファレスからこのブログを送った。その翌日にアメリカのエルパソに入った。それ以来、ずっとバスに乗り続けている。ダラス、アトランタ、ニューヨーク、シカゴ、シアトル。ホテルに泊まったのは、シカゴの1泊だけ。あとはすべてバスの車内泊だった。
『12万円で世界を歩く』という30年ほど前の僕の本のコースを辿り、物価高のアメリカでなんとか費用を節約しようという旅。バスに染まる日々になってしまった。これから乗るバスがロサンゼルスに着けば、アメリカを一周したことになる。
エルパソでアメリカに再入国したが、入国審査で別室に入れられてしまった。僕のパスポートにパキスタンの入国記録があったからだ。職業やパキスタンでなにをしたのか……など、根掘り葉掘り。1時間近く質問攻めだった。ある程度は覚悟していたが。
それ以来、ずっとバスである。いまのアメリカのバスは昔ほど安くない。飛行機を使ったほうが安くあがる気もするが、こうしてずっぽりとアメリカに染まると、また別のアメリカが見えてくる。
グレイハウンドバスの運転手の高齢化はかなり進んでいた。はじめは経験を積まないと長距離バスの運転手になれないからかとも思ったが、そうでもないらしい。しかし50~60歳台の運転手は、皆、威厳があった。飛行機のパイロットのように堂々と乗客に接する。この自信はなんだろう……長いバスのなかでずっと考えていた。
以前のグレイハウンドバスに比べると、客はずいぶんおとなしくなった。前は飲酒や喫煙なども多く、それと運転手たちは向き合ってきた。こうしてグレイハウンドバスを守ってきたという過去もあるのだろうか。
しかしそれ以前に、年配のアメリカ人の自信のようなものを感じるのだ。その背後に横たわっているのは、アメリカがナンバーワンといういう自負のような気がする。
トランプ大統領はそのへんをくすぐる。しかしその手法は、自由貿易や移民に制限を加え、アメリカを守る発想だった。そこにねじれが生まれる。自由の国であるからこそ、アメリカはナンバーワンなのだと、考えるアメリカ人は少なくない。希望を抱いてアメリカに向かい、足場をつくった世界の人々は、自由なアメリカの寵児でもある。
グレイハウンドバスの乗客は、メキシコ人や黒人が多い。彼らに向かって、老練な運転手は、アメリカのルールを諭すかのように語りかける。フレンドリーな笑顔は失わず。
そんな運転手たちも、そろそろ引退の時期を迎える。大きな世代交代がアメリカで起きているということなのだろか。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=玄奘三蔵が辿ったシルクロードの旅。いまはインドから中国に戻る帰路編を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまは番外編を連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
『12万円で世界を歩く』という30年ほど前の僕の本のコースを辿り、物価高のアメリカでなんとか費用を節約しようという旅。バスに染まる日々になってしまった。これから乗るバスがロサンゼルスに着けば、アメリカを一周したことになる。
エルパソでアメリカに再入国したが、入国審査で別室に入れられてしまった。僕のパスポートにパキスタンの入国記録があったからだ。職業やパキスタンでなにをしたのか……など、根掘り葉掘り。1時間近く質問攻めだった。ある程度は覚悟していたが。
それ以来、ずっとバスである。いまのアメリカのバスは昔ほど安くない。飛行機を使ったほうが安くあがる気もするが、こうしてずっぽりとアメリカに染まると、また別のアメリカが見えてくる。
グレイハウンドバスの運転手の高齢化はかなり進んでいた。はじめは経験を積まないと長距離バスの運転手になれないからかとも思ったが、そうでもないらしい。しかし50~60歳台の運転手は、皆、威厳があった。飛行機のパイロットのように堂々と乗客に接する。この自信はなんだろう……長いバスのなかでずっと考えていた。
以前のグレイハウンドバスに比べると、客はずいぶんおとなしくなった。前は飲酒や喫煙なども多く、それと運転手たちは向き合ってきた。こうしてグレイハウンドバスを守ってきたという過去もあるのだろうか。
しかしそれ以前に、年配のアメリカ人の自信のようなものを感じるのだ。その背後に横たわっているのは、アメリカがナンバーワンといういう自負のような気がする。
トランプ大統領はそのへんをくすぐる。しかしその手法は、自由貿易や移民に制限を加え、アメリカを守る発想だった。そこにねじれが生まれる。自由の国であるからこそ、アメリカはナンバーワンなのだと、考えるアメリカ人は少なくない。希望を抱いてアメリカに向かい、足場をつくった世界の人々は、自由なアメリカの寵児でもある。
グレイハウンドバスの乗客は、メキシコ人や黒人が多い。彼らに向かって、老練な運転手は、アメリカのルールを諭すかのように語りかける。フレンドリーな笑顔は失わず。
そんな運転手たちも、そろそろ引退の時期を迎える。大きな世代交代がアメリカで起きているということなのだろか。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=玄奘三蔵が辿ったシルクロードの旅。いまはインドから中国に戻る帰路編を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまは番外編を連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
Posted by 下川裕治 at
19:44
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2018年12月03日
12万円──はアメリカでは成り立たない
いま、メキシコのシウダード・ファレスという街にいる。アメリカのエルパソと国境を挟んだ街である。
メキシコとアメリカの国境に中米からの人々が押し寄せている。アメリカは国境を封鎖したと聞いていたが、それは、ティファナとサンディエゴの間の国境だけのようだ。この国境は平常だった。
メキシコに来たのは、夕食を食べ、ひと晩寝るためである。とにかくアメリカの物価は高い。それを逃れてやってきた。
今のアメリカは、フリーウエイ沿いの普通のモーテルでも1泊100ドルを超える。ちょっといいところなら200ドル、300ドル。大きな街になると、1泊3万円以下のホテルを、通常のホテル予約サイトでみつけることは難しくなる。しかしエルパソ市内から15分ほど歩いたこの街に入ると、1泊2000円クラスの宿がすぐにみつかる。
中米の人々が国境を越えたくなる気持ちは十分にわかる。僕は、その逆の理由で国境を越えたのだが。
『12万円で世界を歩く』という30年ほど前に出版された本がある。それをなぞるような旅をはじめている。だいたいのエリアで当時に比べれば、円の価値もあがり、LCCという格安航空会社が生まれ、同じルートを12万円以下で辿ることができるようになってきている。しかしアメリカは違う。
そもそも太平洋路線の飛行機運賃が変わらない。30年前は、往復8万円ほどだったが、いまも8万円台。まったく安くなっていないのだ。
30年の間に、アメリカの物価はかなりあがった。当時の記録をみると、バスターミナルでのコーヒーが1杯0.92ドルだったが今は2.16ドル。2倍以上になっている。味はまったく変わらないと思うが。
30年前、僕はアメリパスという、乗り放題のバス切符でアメリカを一周した。これはアメリカに住んでいない人だけが買うことができる切符で、2万1500円だった。しかしその切符もなくなってしまった。
今はその都度、切符を買っていかなくてはならない。その運賃も、当然、高くなってしまった。ロサンゼルスからエルパソまで60ドルほど。ここからニューオリンズまでは200ドルを超えてしまう。
『12万円で世界を歩く』という本の企画は総費用が12万円で旅をするというものなのだが、はじめの3日間ほどで、すでに12万円を超えてしまったのだ。
12万円──というアメリカの旅はもう成り立たないわけだ。当時の日本は、バブルのただなかだった。アメリカは人気の国だった。
日本とアメリカの距離……。メキシコの国境の街で悩んでしまう。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=玄奘三蔵が辿ったシルクロードの旅。いまはインドから中国に戻る帰路編を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。インドネシアの列車旅の連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
メキシコとアメリカの国境に中米からの人々が押し寄せている。アメリカは国境を封鎖したと聞いていたが、それは、ティファナとサンディエゴの間の国境だけのようだ。この国境は平常だった。
メキシコに来たのは、夕食を食べ、ひと晩寝るためである。とにかくアメリカの物価は高い。それを逃れてやってきた。
今のアメリカは、フリーウエイ沿いの普通のモーテルでも1泊100ドルを超える。ちょっといいところなら200ドル、300ドル。大きな街になると、1泊3万円以下のホテルを、通常のホテル予約サイトでみつけることは難しくなる。しかしエルパソ市内から15分ほど歩いたこの街に入ると、1泊2000円クラスの宿がすぐにみつかる。
中米の人々が国境を越えたくなる気持ちは十分にわかる。僕は、その逆の理由で国境を越えたのだが。
『12万円で世界を歩く』という30年ほど前に出版された本がある。それをなぞるような旅をはじめている。だいたいのエリアで当時に比べれば、円の価値もあがり、LCCという格安航空会社が生まれ、同じルートを12万円以下で辿ることができるようになってきている。しかしアメリカは違う。
そもそも太平洋路線の飛行機運賃が変わらない。30年前は、往復8万円ほどだったが、いまも8万円台。まったく安くなっていないのだ。
30年の間に、アメリカの物価はかなりあがった。当時の記録をみると、バスターミナルでのコーヒーが1杯0.92ドルだったが今は2.16ドル。2倍以上になっている。味はまったく変わらないと思うが。
30年前、僕はアメリパスという、乗り放題のバス切符でアメリカを一周した。これはアメリカに住んでいない人だけが買うことができる切符で、2万1500円だった。しかしその切符もなくなってしまった。
今はその都度、切符を買っていかなくてはならない。その運賃も、当然、高くなってしまった。ロサンゼルスからエルパソまで60ドルほど。ここからニューオリンズまでは200ドルを超えてしまう。
『12万円で世界を歩く』という本の企画は総費用が12万円で旅をするというものなのだが、はじめの3日間ほどで、すでに12万円を超えてしまったのだ。
12万円──というアメリカの旅はもう成り立たないわけだ。当時の日本は、バブルのただなかだった。アメリカは人気の国だった。
日本とアメリカの距離……。メキシコの国境の街で悩んでしまう。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=玄奘三蔵が辿ったシルクロードの旅。いまはインドから中国に戻る帰路編を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。インドネシアの列車旅の連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
Posted by 下川裕治 at
19:21
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