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ナムジャイブログ

2009年06月29日

南の島の高校野球

 沖縄に高校野球を観にきている。すでに夏の甲子園の予選がはじまっているのだ。
 3年前に『南の島の甲子園』という本を書いた。石垣島の八重山商工の野球部の物語である。それ以来、この高校の野球部が気になっているのだ。おそらくこの週末に試合があるだろうと、那覇行きの航空券をとったのだが、その後、試合が来週に決まったことを知った。安い航空券を買っているから変更もできない。
 なんだか悔しいので、昨日、糸満の西崎球場で行われていたほかの高校の試合を観にいってきた。
 暑かった。いまの沖縄は正午になると、太陽はほぼ真上にくる。自分の影ができないのだ。そのなかで、頭からタオルをかぶり、試合を見続けた。
 沖縄は風の島だ。いつも風が吹いている。プレーをする選手にたら、フライの捕球に苦労するのだが、観客には少し助かる。しかし陽射しはきついから、じりじり焼ける。
 いつの間にか試合に熱中していた。まだ1回戦だというのに、試合は白熱し、終わると泣き崩れる生徒も多い。こんなに熱くていいのかと思う。3年生にしたら、最後の試合なのだ。
 2試合を観た。球場を後にしながら、体が軽かった。爽快感に包まれていた。選手から元気をもらったのだろうか。強い太陽に晒され、ランニングハイではないが、日焼けハイにでも陥ったのだろうか。
 きっとその両方なのだろう。
 那覇に住む知人と一緒に試合を観ていた。彼が空を見上げ、
「梅雨明けかな」
 と呟くようにいった。
 ホテルに戻り、鏡を見ると、顔が赤かった。僕は沖縄の太陽からなにかをもらったのかもしれない。
 毎年、この時期、沖縄で高校野球を観ようと自分にいいきかせていた。
  

Posted by 下川裕治 at 13:41Comments(0)

2009年06月23日

ちょっと切ない

 僕はこの3ヵ月間で、『イエスマン』という映画を3回観た。『ブライドウォーズ』という映画は2回、『7つの贈り物』も2回観た。観たのは映画館ではない。レンタルビデオでもない。
 飛行機の機内だ。
 このところ、ユナイテッド航空で東京とバンコクを往復することが多い。理由は簡単。安くて、マイルがしっかり貯まるからだ。
 東京とバンコク間を飛ぶユナイテッド航空には、座席の背に組み込まれたシートテレビがついていない。共通のスクリーンに映る映像を観ることになる。もちろん、観なくてもいいのだが、6時間ほどのフライトはやはり長く、つい観てしまう。
『イエスマン』も『ブライドウォーズ』も軽いコメディである。制作者も、これを2回も3回も観る人などいるはずがない、といったつくりである。
 ある本にフェリーニの『道』という映画を評した話が載っていた。10代、20代、30代と年齢を経て観るたびに発見があるというのだ。だが『イエスマン』も『ブライドウォーズ』には、そんなものはなにもない。
 前者は、なんでもイエスということで人生が変わっていく話。後者は結婚式が重なってしまった親友ふたりの女性のつばぜり合いが話の軸になる。笑いに皮肉や深さもない、人畜無害の作品である。
 だいたい、飛行機のなかで上映される映画は子供も観ることを想定しているから、暴力シーンやセックスシーンは登場しない。問題作といったものも排除される。それはしかたないと思う。
 せこいのはユナイテッド航空なのだ。東京ーバンコク間では、2本の映画が上映される。全部観ると、往復で4本の映画を観ることになる。ユナイテッド航空は、毎月、映画を変えているが、それは片道2本のうち1本だけ。つまり1本の映画は2ヵ月上映されるわけだ。つまり月に1回のペースで、東京とバンコクを往復すると、必ず同じ映画を2回観ることになる。
 別に映画を観るために飛行機に乗っているわけではない。
 先週、日本に帰るときは、2回目の『7つの贈り物』を観て、寝てしまった。なにしろ日本に向かうユナイテッド航空は、朝の6時台の出発なのだ。もう1本の映画は『モール・コップ』。きっと次にタイに向かうときに観ることになる。だが今度ははじめて観る映画だ。楽しみにしている自分自身が、ちょっと切ない。
  

Posted by 下川裕治 at 18:41Comments(0)

2009年06月16日

暑さが刷り込まれたタイ人

 タイ人の冷房好きと氷への執着には、ときに言葉を失う。タクシーに乗り、冷房の効き具合が悪いと、すぐに文句をいう。冷房が効いているところでの喫煙禁止というルールが、思いのほか徹底したのは、彼らが煙草より冷房をとったからだと思う。飲み物も冷たくなければ許さない。挙げ句にビールのシェイクまでつくってしまう。
 なにもそこまで……。
 バングラデシュに行った。ダッカからバンコクに戻る飛行機のなかで、僕はそのタイ人になっていた。
 6月のバングラデシュは暑かった。身の置き場がないほどの熱に包まれていた。湿度90%以上、気温は40度を超えていただろうか。それでも冷房や氷があれば……。バングラデシュの南端、コックスバザールという街では、高級ホテルに行かないと無理な話だった。電気はあるのだが、計画停電が頻繁に起きる。電力量が足りないのだ。こうなると、エアコンも冷蔵庫も使えない。頼りの扇風機も、停電時にはぴたりと停まり、全身を汗が流れ、思考回路が停まる。
 午前中はなんとかなるのだが、午後には頭も体も動かない。そんな4日間をすごし、ダッカの空港に入った。さすがに冷房が効いている。エアコンは偉大だとつくづく思った。乗り込んだ飛行機のなかで、水を頼み、つい氷も注文していた。冷えた水がこんなにおいしいとは……。
 タイ人の体と脳は、電気がなかった時代を引きずっているのにちがいない。耐えられない暑さが刷り込まれてしまっているのだ。
  

Posted by 下川裕治 at 00:26Comments(0)

2009年06月09日

斜めに歩く人々

 道をまっすぐ歩くことができない人が意外に多い。昨年の秋頃から、自転車でオフィスに通うようになって実感している。
 歩道と車道を半々ぐらいの割合で走る。歩道は人も歩いている。向こうから歩いてくる人とは、互いに目が合うから問題はない。気を遣うのは、背後から追い越すときだ。ベルを鳴らすのも気が引けるから、歩いている人の脇を抜けようとする。
 まっすぐ歩いてくれれば、簡単に追い越すことができる。しかし斜めに歩く人がいるのだ。杖が頼りの老人ではない。すぐ歩く向きが変えようとする幼児ではない。普通の大人なのだが、歩道を斜めに歩くのだ。
 これには困る。つい、ブレーキをかけ、自転車から降りてしまう。
 その話を家で話した。妻がこともなげにこういった。
「皆、そうじゃない? うちの娘も斜めに歩いているもの」
 娘は大学生と高校生である。ひょっとしたら、妻も斜めに歩いているのかもしれない。
 沖縄の那覇に住む知人も自転車に乗っている。彼がこんな話をした。
「歩道を走っていて、前にオバアが歩いているとするでしょ。オバアは自転車の音に気づいて足を停め、後を振り返る。脇に寄ってくれると思うじゃない。で、ペダルを踏もうとする。でも、慌ててブレーキですよ。前を向いたオバアは、それまでと同じ歩調で、歩道の真んなかを歩いていくわけ。なにも起きないんだよ」
 バンコクでもときどき自転車を見かける。しかしその多くが、車道を走っている。歩道を歩くタイ人は斜めに歩くのか。あるいは沖縄のオバア歩きか。
 だからだろうか。スクムウィット通りのBTSプラカノン駅そばの歩道には、自転車専用路がつくられている。そうペンキで書いてある。だが、そこを走る自転車は、一度も見たことがない。
  

Posted by 下川裕治 at 19:19Comments(1)

2009年06月02日

ただ者ではない人々

 東京にいると「駅そば」をよく食べる。「立ち食いそば」ともいわれるスタンド式のそば屋だ。なぜ? 安いからだ。しかし値段でいえば、吉野屋や松屋に軍配があがる。しかしつい、「駅そば」に入ってしまうのは、世代のせいだろうか。信州の高校を卒業し、1年の浪人の末に出た東京では、安い飯といえば駅そばだった。吉野屋ができたのは、大学3年のときだった。
 先日、品川駅のなかのそば屋に入った。昼どきで混んでいた。と、隣に若い女性が立った。そこでこう注文した。
「わかめそばと別皿でコロッケください」
 出されたコロッケにソースをかけ、そばを啜りはじめた。
 駅そばはどちらかというと男の世界である。それも中年の。そこに若い女性。それも、普通ならそばに載せるコロッケを別皿で頼む。ただ者ではなかった。
 そして今日、高田馬場の駅そばに入った。なにげなく、そばを啜っていると、タイ語が聞こえてくる。見るとタイ人の中年女性と、若いタイ人女性だった。食べ方はタイ人らしくゆっくりだが、なに食わぬ顔で、立ったままうどんを啜っている。このタイ人もただ者ではなかった。
 いや、駅そばとは、すでにそういう世界なのか。違うと思うのだが。
  

Posted by 下川裕治 at 13:01Comments(2)