インバウンドでタイ人を集客! 事例多数で万全の用意 [PR]
ナムジャイブログ

2015年09月28日

毎日追い抜かされている

 追い抜かされているばかりのような気がする。先日、ミャンマーで列車に乗った。ミャンマーの列車はとにかく遅い。時速20~30キロといったところだろうか。線路が老朽化しメンテナンスもおざなりのため、スピードを出すと脱線してしまうのではないかと思う。
 車窓からぼんやり見ていると、道を走るバイクに簡単に追い抜かされた。
 アジアの列車は車より遅いことが多い。ベトナムの列車に乗っていたとき、脇を走るバスに次々と追い抜かされていった。そのうち1台のバスの乗客が、こちらに向かって手を振ってきたときは、ちょっと、「ムカッ」ときた。
 その乗客は、長いバスの旅に飽き、気分転換のつもりで手を振ったのかもしれないが、こちらも長い列車旅にうんざりとしていた。
 かつて、中国のバスは遅かった。どういうエンジンなのかはわからないが、坂道にさしかかると急にスピードが落ちることが多かった。
 あれはタクラマカン砂漠の北側を通る道をカシュガルに向かって走るバスに乗っていたときだったろうか。
 砂漠といっても平坦な道が続くわけではない。岩が転がる小山もあれば、雨にえぐられたような谷もある。このあたりは、砂漠といっても突然、雨が降ることがある。しかし木は一本もなく、草もわずかだ。土地に水を貯める力は乏しく、急に川のような流れが生まれる。その水も、やがては砂のなかに消えていくのだが、その後が生々しく残っている。
 バスはそのなかを、上り下りを繰り返しながら進んでいく。そして上り坂にさしかかると、がくんとスピードが落ちる。たまたま道の脇を、オアシスに戻る羊の群れが動いていた。その羊たちに追い抜かされたときは、涙が出そうになった。
 日本でもしばしば追い抜かされている。
 東京にいると、よく自転車に乗る。家と最寄り駅の間を走ることが多い。途中に坂道があるのだが、そこでよく追い抜かされる。
 普通の自転車ではない。電動アシスト自転車である。小さな子供がいる家庭の奥さんがよく乗っている。後に子供を乗せる椅子がついている。前後に椅子をつけている自転車もある。子供といっても、そこそこの体重がある。電動だから、子供を乗せても楽に走ることができるのだ。高級な電動アシスト自転車は10万円以上するらしい。
 仕事に追われ、重い体で自転車を漕ぐ。その脇を、前後に子供を乗せた奥さんが、涼しい顔で追い抜いていく。
「なにーッ」
 と思うが、ペダルを漕ぐ足に力を込める元気がない。
 今日も朝、子供を乗せた電動自転車に追い抜かされた。

  

Posted by 下川裕治 at 16:53Comments(1)

2015年09月21日

ホテルより熟睡できる空港

 マイルを貯めるというより、ステイタスを維持するために、1年に4区間、ユナイテッド航空に乗らなくてはならない。かつてユナイテッド航空は、東京とバンコクの間に1日に1便を就航させていた。しかしこの路線がなくなってしまった。東南アジアに行く便は、東京とシンガポールを結ぶ路線しか残っていない。
 目的地はバンコクだから、シンガポールは乗り換えになる。シンガポールからバンコクまでは安いLCCを使うことになる。
 成田空港を出発したユナイテッド航空は、午前零時すぎにシンガポールのチャンギ空港に着く。LCCのバンコク行きの早朝便は、6時台。その間空港ですごさなくてはならない。
 ところが今回、予約を入れておいた6時30分発のタイガーエアウエイズの便が突然、キャンセルになってしまった。8時25分発に変更するというメールが届いた。
「チャンギ空港で8時間……」
 どうやって寝ようかと考えた。調べると、空港内に仮眠室がいくつもあった。しかし50シンガポールドルもする。4000円以上だ。シンガポールからバンコクまで5000円ほどの航空券を買っている身には高すぎる。
「ベンチで寝るしかないか……」
 これまでさまざまな空港で夜明かしはしてきた。その経験からすると、ポイントは寒さ対策とベンチの形だった。夜中の空港は冷房の効き目が強くなり、かなり冷える。しかしこれは自分の問題だから、ジャンバーなどを持参すればいい。問題はベンチだった。体を伸ばし、背中に突起物があたらないベンチ……。世界の空港は、乗客が寝ると座るスペースが少なくなってしまうと考えるのか、寝にくいベンチにしているところが多かった。
 で、チャンギ空港である。結論からいうとまったく問題はなかった。それはこの空港の構造に因るところが大きかった。
 チャンギ空港は到着階と出発階が同じフロアーだ。到着階には通常、ベンチはない。入国を前に休む人はいない。皆、足早にイミグレーションに向かう。しかし出発階には多くのベンチが用意される。搭乗を待つ人のためだ。
 はじめは、そのベンチで眠った。しかし搭乗客が集まってきて、2時頃に起きてしまった。
 新たな寝場所を探す。この空港は広く、あいたスペースに意味もなく椅子が置かれている場所もあった。到着階の上階に絨毯が敷かれた場所をみつけた。空港で働くインド人やマレー人が寝ていた。始発電車までここで寝ていくのだという。
 僕も、そこで体を横たえた。目覚ましをセットし、ジャンバーを着る。熟睡してしまった。自分でいうのも切ないのだが、ホテルの部屋よりよく眠ることができた。
 一般的な旅行者にいったら、あきれられることはわかっているが、チャンギ空港はいい空港だと思う。
  

Posted by 下川裕治 at 15:19Comments(2)

2015年09月14日

シンガポールで窓を探す

 シンガポールにいる。物価が日本より高いこの街は、あまり長く滞在したことがない。1泊ぐらいで隣国のマレーシアに抜けてしまう。ここ1年ほどの間に3回泊まっているが、滞在日数は短かった。
 そして泊まったホテルの部屋にはいつも窓がなかった。シンガポールでは、安いホテルを探していくと、こういうことになってしまうようだった。
 窓がないからといって、それほど不満があるわけではない。いままでさまざまなホテルに泊まってきた。許容範囲は相当に広い旅人でもある。しかし、部屋に入り、その部屋に窓がないと、少し気落ちする。朝になっても光は射しこんでこない。外気も入ってこない……。
 窓なし部屋は、なにもシンガポールの安宿に限ったことではない。台湾、中国、香港……あたりではしばしば出くわす。中国人は窓なし部屋に抵抗感がないらしい。
 今回シンガポールの原稿を書くこともあって、事前にホテルの予約サイトを見てみた。窓の表示はどうなっているのか知りたかったのだ。しかしそこから窓のある部屋を探すことは難しかった。知り合いに訊いてみた。
「そうなんですよ。窓があることは、日本人にとってあたり前のことでしょ。だから表示がないんです。シンガポールの安い宿に泊まった人が、『窓がない部屋でびっくりした』といった書き込みがよくあるんです」
 では、どうやって窓あり部屋を探すのか。
 まずシンガポール空港のホテルの予約オフィスに訊いてみた。シンガポールの安めの宿はリトルインディア周辺やゲイランという売春街に多い。『81ホテル』というチェーンホテルがあり、1泊50~60シンガポールドル、日本円で5000円前後の料金だった。
「窓? それはわかりません。訊く?そこまではやっていません」
 結局、ホテルを直接訪ねるしかなかった。
 ゲイランで探した。
「窓のある部屋?」
 フロントのおじさんの表情が曇る。頭のなかで部屋のタイプを思い出そうとしている。彼らには関心のないことなのだ。
「この部屋は窓があったと思うよ」
 鍵を渡されて部屋を見ると、窓がないこともあった。
 ホテルを何軒まわっただろうか。10軒近くになった。『81ホテル』の1軒に窓のある安い部屋があった。しかしかなり混んでいて、1泊しかできない。翌日、またホテル探し……。そこで出合ったホテルは、サイトに登場してこないような古い宿だった。そのホテルは全室に窓があった。
 そういうことらしい。昔はシンガポールの宿も窓があったのだ。土地代や建設費が高くなって、窓なし部屋が登場した……。
 中国人らしい発想ということか。
  

Posted by 下川裕治 at 13:36Comments(1)

2015年09月07日

【イベント告知】「週末ソウルでちょっとほっこり」発売記念スライド&トークショー

下川裕治の新刊「週末ソウルでちょっとほっこり」発売を記念して、スライド&トークショーを開催します。

詳細は以下です。


今回は、東京での下川裕治スライド&トークショーのお知らせです。


 新刊『週末ソウルでちょっとほっこり』(朝日文庫)の発売を記念して、旅行作家の下川裕治さんをお招きして、ふらっと行く週末ソウルの旅の魅力についてスライドを眺めながらたっぷりと語っていただきます。
 前作『週末香港・マカオでちょっとエキゾチック』では、重慶大厦(チョンキン・マンション)や大衆食堂といった庶民的な異空間が残り、 路上を占拠した学生たちが涙を流した香港と、中国の富を巧みにとり込みカジノ景気に沸くマカオの対照的なふたつの街に注目し、週末の香港&マカオ旅行の楽しみ方を紹介していた下川さん。
 本作では、ハングルの海を漂って注文のコツを覚え、韓国人の飲みっぷりにつきあって二日酔いになり、未知なるKポップの世界に一歩踏み込んで週末のソウル旅行の楽しみ方をオススメしています。
 解けない謎が山のようにあるソウルの昔と今、表と裏を温かく取材した下川さん独自のソウルの旅の味わい方が聞けるはずです。下川ファンの方はもちろん、韓国やソウルが大好きな方や週末旅に興味のある方はぜひご参加ください!

-------------------------------
【日時】
 10月2日(金)  
 19:30 ~ (開場19:00) 

※トーク終了後、ご希望の方には著作へのサインも行います。

【参加費】  
 900円

【会場】
 旅の本屋のまど店内 


【申込み方法】
 お電話、ファックス、e-mail、または直接ご来店のうえ、お申し込みください。
 TEL&FAX:03-5310-2627
 e-mail :info@nomad-books.co.jp

※お名前、ご連絡先電話番号、参加人数を明記してください。定員になり次第締め切らせていただきます。

【お問い合わせ先】
 旅の本屋のまど TEL:03-5310-2627
 (定休日:水曜日)
 東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F
 http://www.nomad-books.co.jp

 主催:旅の本屋のまど 
 協力:朝日新聞出版

  

Posted by 下川裕治 at 15:18Comments(1)

2015年09月07日

中国人がいなくてよかった

 日本にやってくる中国人観光客事業にかかわる日本人から、こんな話を聞いた。
「旅行者はやはり個人でしょ」
 旅の本質とか、充実度といったことではない。個人旅行者しか儲からない……そう彼はいうのだった。
 日本にやってくる中国人観光客の多くは団体客だ。そして彼らが乗るバス、買い物をする店や食事をするレストラン……それらが中国人の経営だったり、中国の資本という傾向がますます強くなってきているのだという。典型は豪華クルーズ船でくるツアーらしい。観光や買い物は中国系旅行社で手配され、食事も中国人経営の店。自由時間はまったくない。泊まるのは船だから、日本側に落ちる金額はかなり少ないのだという。
 これは日本に限ったことではない。団体観光客を自国資本の店に囲い込んでいく方法は中国のお家芸というわけでもない。カンボジアのシェムリアップに行くと、コリアンレストランが目立つ。ここに韓国人の団体客が吸い込まれていく。韓国に環流していく金を、カンボジア人は指をくわえて眺めるしかないのだ。
 中国人団体客にそれが目立つのは、数の問題なのかもしれないが、中国の手法にはどこか覇権主義のにおいが漂ってきてしまう。中国が海外で受注した公共工事に似ている。中国は本国から機材や人を送り込んでくる。現場に立てる、『工事中』という看板までもってくる。それはネットの世界で。グーグルやヤフーを排除する発想と似ている。
 この手法は、戦後、日本の金融行政を揶揄する言葉として使われた護送船団方式を思い出してしまう。海外旅行も、それによって得る利益を中国系企業にうまく振り分けていく方法である。
 しかし旅行というものは、公共工事や金融行政に比べれば個人の領域が大きい。団体で日本にやってきた中国人にしても、次は個人で来てみたい……と思うようだ。当然のことだろう。自由であるほど楽しいものが旅である。
 そんな人は、日本人が書いた店へのコメントを見るそうだ。自動翻訳にかけると、だいたいの意味がわかるらしい。中国人は中国語サイトのこの種のコメントは信用しない。店側が書いていると疑っている。しかし日本人は、素直なコメントを書くことを知っているのだ。彼らから見れば、日本人は人のいい民族に映るのかもしれない。
 個人旅行の中国人のブログのなかには、「中国人がいなくてよかった」という内容がかなり増えているという。
 そして中国人の個人旅行者は、日本人が経営する店に足を運ぶ。
 説明が長くなってしまった。これが「旅行者はやはり個人でしょ」という真意である。
 しかし中国は膨大な人口を抱えている。沿岸部を中心に個人旅行者が増える一方で、内陸からの団体旅行者も増えていく。中国はひと筋縄ではいかない国だ。

  

Posted by 下川裕治 at 15:07Comments(1)