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ナムジャイブログ

2021年09月27日

コロナで明るくなる?

 新型コロナウイルスとは関係のないブログをなんとか書こうといつも試みている。しかしなかなか難しい。日々の生活が、このウイルスに振りまわされているからだ。
 僕の基本的な生活は、午前中は家で本の原稿を書いている。いちばん、ウイルスを意識しないですごせる時間だ。いまは松尾芭蕉の「奥の細道」のルートを旅したときの原稿を書いている。そろそろ締め切りで、焦っている。あと400字詰め原稿用紙で100枚?
 昼すぎに家を出る。その時点でマスクをかける。それから打ち合わせや取材などが待っている。事務所で経費の精算などの作業を続けることもある。
 午後5時頃、やはりネットをつないでしまう。今日の感染者数が気になるのだ。夕方になると感染者の数を眺め、自分ではなにもできないことはわかりながら、一喜一憂する。こんなことを1年以上も続けている。
 電車に乗れば、乗客の態度が気にかかる。彼らはどんなプレッシャーをウイルスから受けているのだろう、と考えてしまう。
 新型コロナウイルスへの対応で、専門家たちの認識が違ったことが2点ある気がする。細かなことになればかなりの間違いがあったのだろうが、大筋でいえば2点ではと思う。
 1点は新型コロナウイルスの感染力を過小評価していたこと。このウイルスの感染スピードへの対応が後手にまわった。
 もう1点はワクチン開発がこんなに早かったことを織り込まなかったことだ。感染が広まった当初、多くの専門家が、開発には3~4年はかかるといっていた。
 ワクチン開発が一気に短縮したのは、メッセンジャーRNAというタイプのワクチンがつくられたからだ。
 かつては生のウイルスを無毒化したタンパク質からワクチンをつくった。元は生のウイルスだから、ワクチン化には神経を使う。時間がかかる原因だった。
 しかしメッセンジャーRNAは発想が違う。体内で抗体をつくるレシピを体内に送り込むわけだ。ウイルスの遺伝子構造がわかれば、メッセンジャーRNAをつくるのは簡単で、今回も10日間ほどでできたという。ワクチンが1年ほどで完成した理由だった。
 しかしメッセンジャーRNAにも問題はあった。体が異物として反応してしまうのだ。そこをかいくぐっていく技術を開発したのが、ハンガリー出身のカタリン・カリコ氏という女性研究者だった。当初は地味な研究だったが、新型コロナウイルスで脚光を浴びた。
 彼女が先日、ブレークスルー賞を受けた。この賞に選ばれた研究者の先にはノーベル賞が待っている……ともいわれる賞である。
 たしかにこの開発技術は画期的だ。今後、新しいウイルスにも応用できる。世界はこのワクチンを軸にポストコロナを描くことができるようになった。人類は彼女のお陰で少し明るくなった?
 新型コロナウイルスで落ち込む気分は、新型コロナウイルスの話で解消していくしかないということか。

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Posted by 下川裕治 at 09:54Comments(0)

2021年09月20日

勝手な男が逝ってしまった

 9月30日に西荻窪にある「のまど」という書店でトークイベントがある。「アジアのある場所」(光文社)の発売記念のイベントである。そのなかで、なぜ、アジアや沖縄の店にいくと落ち着くのか……僕なりの話をしようと思っていた。
 理由のひとつは、彼らの勝手さだった。身勝手とは違う。エゴイスティックでもない。彼らは他人に対しても勝手だが、自分にとっても勝手だった。
 だからほっとする? 他者との関係にばかりふりまわされる日本人は気が休まる?
 モデルがいた。金城吉春……。
 沖縄料理屋「あしびなー」の主人だった。
 訃報が入ったのは16日の朝だった。15日の夜、息を引きとったという。
 癌だった。コロナ禍で店への足も遠のいてしまっていた。
 同年齢だった。生まれた月も近かった。彼は子供が小さかったから、「70歳までは働かないといけないさー」と笑っていたが。
 知り合ったのはだいぶ前かもしれない。僕が新里愛藏さんという老人の本を書いてからなにかと話をするようになったのだろうか。
 彼との関係はいつからとか、この件で会ってから……といえるものでもなかった。彼の店にいくと、閉店後、一緒に洗い物をすることも多かった。食器をかたづけ、「じゃあ」と声をかけて、僕は自転車で自宅に帰る夜も多かった。
 吉春さんは三線を弾く。沖縄民謡も歌う。彼が企画に加わってはじまった祭りも多い。
 チェンマイの北にあるチェンダオに一緒に行ったことがあった。タイの少数民族と沖縄民謡グループがいくつか参加したイベントだった。僕は参加する50人ほどの日本人の世話役だった。
 彼はエイサーチームを率いるというか、彼がいるところにエイサーチームができるという存在だった。その集まりに何回か出たが、彼が抱えもつ沖縄に魅了され、若者たちが集まっていた。沖縄民謡を習うとか、エイサーを踊ることは見せかけの目的で、吉春さんと一緒にエイサーを演じたいという若者が多かった。若者にモテたわけだ。
 しかし吉春さんはそんなことには無関心だった。無口だから、考えていることもよくわからなかった。
 勝手な男だった。台湾でエイサーを演じたことがあった。たまたま僕も台北にいて、ステージを手伝った。イベントが終わり、用意されたマイクロバスで台北に戻った。メンバーは台北では夜市や土産物などの話を交わしていたが、最後尾に座っていた吉春さんは歯を磨いていた。
「疲れたからホテルに帰ったらすぐ寝る」
 そういう男だった。
 一度、店の経理をどうするか、という話をしていたとき、吉春さんはこんなこともいった。
「俺は日本語の読み書きができないから」
 まったく字が読めないわけではないだろうが、かなり苦手そうなことはたしかだった。中卒で大阪に働きに出た。プレス工だった。中学もちゃんと行っていない気がする。しかし母親譲りの料理のセンスがあった。
 やはり吉春さんは沖縄だったと思う。東京にいることが不思議な存在だった。
 なにを思ったのか、こんなことをいわれたことがあった。
「南風原で一緒に店をやらないか。俺が料理をつくるから、店をみてよ」
 笑ってごまかしたが、僕にしたらまんざらでもなかった。60歳台の男がふたりで店を出す? 
 トークイベントでは、そんな話をしようかとも思っていたのだが。

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Posted by 下川裕治 at 10:46Comments(0)

2021年09月13日

座右の銘は「ない」という上海

 このブログでは何回か触れているテーマではある。ウイルスというものに対する欧米とアジアの温度差の問題だ。たしかにワクチンの接種率の違いはあるかもしれないが、次々に国境を開き、正常化に向けて動きはじめている欧米の発想を、ワクチンの接種率だけではとても語ることはできない。
 欧米の感染者数の増加とアジアのそれには明らかな時差がある。半年、いや1年……。欧米は早く感染が広まり、ワクチンも接種もスピード感があり、感染者はいるが、インフルエンザ感覚にもっていこういった動きに傾いている。
 それに比べるとアジアは神経質だ。怖がり……といってもいい。感染の初期、早々に鎖国に近い状態にもち込み、海外からのウイルスが入り込むことを防いだ。しかしデルタ株の感染力が強すぎたのか、欧米より半年以上遅れて大きな感染が起きてしまう。タイ、インドネシア、カンボジア、ベトナムあたりはその典型だろうか。日本や韓国、台湾もその傾向のなかにある。その時差が、ワクチン接種の割合とシンクロしてしまった。
 いまアジアに住んでいる人が送ってくれた写真を見ているのだが、その惨状は目を覆いたくなる。ソウルの明洞の歩道に人がまばらである。バンコクのソイ・ナナはシャッターを閉めた店が続く。カンボジアのシェムリアップのパブストリートの写真を見たときは目を疑った。店が閉まっているだけでなく解体もはじまっていたのだ。再開発だと聞いて、胸をなでおろしたが、アジアの多くの繁華街から人が消えている。
 ここに南米とアフリカ、オーストラリアなどを加えていくと、世界を席けんしたコロナ周期のようなものができあがる。その変遷とウイルスというものへの意識の違いを比べるのは、かなり面白い研究にも映る。
 しかしこういった世界のコロナ周期とは無縁の道を歩いている国がある。中国である。
 新型コロナウイルスはまず、中国の武漢で大規模な感染爆発が起きた。しかしその嵐の後は、小規模な感染こそ起きているが、欧米やアジアのような感染爆発は起きていない。中国政府は、それを中国の優位性としてアピールしているが、逆から見れば、中国という国は、世界のなかでかなり特異な体制をもっていることを世界に伝えていることになる。
 この種の話になると、とても短いブログでは語ることができない領域に入ってしまう。しかしコロナ前の日常に戻るという面からだけ見れば、中国がいちばん近い位置にいるように思う。それでは進化がないという人もいるが。
 上海に暮らす知人が制作した雑誌、『ケチャップ。』の2号が届き、ページをめくりながら改めてそう思った。今回は「上海の食」が特集なのだが、『OHA Eatery』というレストランの紹介記事にこんな部分がある。
「(ミシュランシェフから)『全部不味い』『調理法間違っていない?』って言われてしまって」と満面の笑みで語るオーナーが登場する。彼女に座右の銘を聞くと、「ない」という答えが返ってくる。
 コロナ禍前の世界は、こんなに楽しかったんだと思えてくる。またそこで、世界は不協和音を生むのだろうが。


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Posted by 下川裕治 at 12:29Comments(0)

2021年09月09日

【イベント告知】新刊「アジアのある場所」発売記念

下川裕治の新刊「アジアのある場所」発売を記念して、トークイベントを開催いたします。

詳細は以下です。


今回は、東京での◆下川裕治さんトークイベント◆新刊「アジアのある場所」発売記念のお知らせです。

◆下川裕治さんトークイベント◆

「日本で体感するアジア旅」

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新刊『アジアのある場所』(光文社)の発売を記念して、旅行作家の下川裕治さんをお招きして、日本で体感できるアジア旅の魅力についてスライドを眺めながらたっぷりと語っていただきます。前作『5万4千円でアジア大横断』では、東京・日本橋からトルコまで、カメラマンと料理人とともに3人でアジアハイウェイを、「遅い」「狭い」「揺れる」「故障する」の四重苦のバスでひた走る総距離1万7千キロ、27日間のボロボロのアジア横断のバス旅に挑戦していた下川さん。新刊は、スコールで思いだすタイ人の流儀、ミャンマー人の握るスパイシーな寿司、ケバブで感じるイスラムの夜など、東南アジアから南アジア、シルクロードまで国内のアジアを体感できる場所にいる様々な人物を通してアジアを描いた旅エッセイになっています。コロナ禍でアジアに思うように旅ができない中、日本国内のアジアを彷徨い歩いて取材した下川さんの貴重なエピソードが聞けるはずです。下川ファンの方はもちろん、アジア旅が大好きな方や国内のアジアを体感できるスポットに興味のある方はぜひご参加ください!

※トーク終了後、ご希望の方には著作へのサインも行います。

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●下川裕治(しもかわゆうじ)

1954年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。新聞社勤務を経てフリーに。アジアを中心に海外を歩き、『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)でデビュー。以降、おもにアジア、沖縄をフィールドに、バックパッカースタイルでの旅を書き続けている。『「生き場」を探す日本人』『シニアひとり旅バックパッカーのすすめ アジア編』(ともに平凡社新書)、『ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅』(中経の文庫)、『日本の外からコロナを語る』(メディアパル)など著書多数。 

◆下川裕治さんブログ「たそがれ色のオデッセイ」
http://odyssey.namjai.cc/

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【開催日時】 
・9月30日(木) 19:30 ~ 
(開場19:00)

【参加費】  
各1000円※当日、会場入口にてお支払い下さい

【オンライン配信】 
※申込みは下記のサイトからお願いします
https://twitcasting.tv/nomad_books/shopcart/

【会場】 
旅の本屋のまど店内

【申込み方法】 
お電話、ファックス、e-mail、または直接ご来店のうえ、お申し込みください。
TEL&FAX:03-5310-2627
e-mail :info@nomad-books.co.jp
(お名前、ご連絡先電話番号、参加人数を明記してください)
 
※定員になり次第締め切らせていただきます。

【お問い合わせ先】
旅の本屋のまど TEL:03-5310-2627 (定休日:水曜日)
東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F

http://www.nomad-books.co.jp

主催:旅の本屋のまど 
協力:光文社
  

Posted by 下川裕治 at 18:04Comments(0)

2021年09月06日

厚生労働省に電話をかける

 ここ1ヵ月の間に3社の総務担当から電話をもらった。地方都市にある知らない会社だった。どの会社も駐在員をインドネシアやタイに送っていた。
 運営するYouTubeで、日本に一時帰国して接種するワクチン情報を載せていた。そのデータ集めはバンコクの知人に依頼していた。その知人を通して、僕の連絡先がわかったらしい。連絡がくることはわかっていたが、知らない社名を告げられると、少し戸惑う。
 訊かれるのは当然、日本でのワクチン接種の話だった。
 日本は海外に住む日本人へのワクチン接種を空港で行うことになった。海外でのワクチン接種の進み具合はまちまちだ。インドネシアやタイは日本よりやや遅れている。接種するワクチンも、中国製のシノバックやアストラゼネカがだった。それを嫌う海外駐在員は少なくなかった。そんな時期、現地でデルタ株のまん延がはじまる。日本でワクチン接種ができないか……そんな意向を受け、海外からの便が着く成田空港と羽田空港でワクチンを接種することになった。ファイザー社のワクチンだった。
 しかし手続きは煩雑だった。日本大使館のサイトから、ワクチン接種予約していく。そこまでは外務省の管轄。実際にワクチン接種については、厚生労働省になる。
「どういう証明書がもらえるのか」
「インドネシアでアストラゼネカを1回接種したが、2回目を日本で接種できるのか」
 そんなとき、僕に電話をかけてくる。各省庁に電話をすればいいだけのことだが……。
「一回外務省に電話をかけたんですが、うまく説明できなくて……。なにか気後れしてしまうというか、緊張するというか。だいたいこれまで外務省に電話をしたことなんてなかったですから」
 ひとりがそういった。彼らに頼まれて、ワクチン接種証明書について問い合わせた。厚生労働省ではわからず、結局、内閣官房に電話をかけることになった。これはちょっと大変かもしれないと思った。
 新聞社に入社したての頃、各省庁に電話をかける前は緊張した。頭が切れるエリート官僚がでたらどうしようか、などと……。
 なんとか問い合わせを終えて受話器を置くと、近くにいた先輩からこういわれた。
「言葉遣いが丁寧だよ。遠慮してる。あいつらは、俺たちの税金で生きてるんだ。もっとがんがんいっていいんだよ」
 言葉の背後には、(お前はなめられているぞ)という響きがあった。
 仕事をこなしていくうちに、記者は警察や役人など公務員とのつきあうが実に多いことを知っていく。
 しかしそれは記者だったからで、一般の人は外務省や厚生労働省、ましてや内閣官房などといった公官庁に電話をかけることはそう多くない。
 それが新型コロナウイルスという病気の特殊性だろう。対応が混乱し、間に合わず、直接に東京の公官庁に電話をかけなければならなくなる。その内容はさらに複雑になっていく。あと半年は……。


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Posted by 下川裕治 at 16:17Comments(0)