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ナムジャイブログ

2020年03月30日

雪の日の自粛

 新型コロナウイルスに揺れる東京の街に雪が降り続いている。重く湿った春の雪だ。
 向かいの教会の庭に、立派な桜の木があった。老木だった。危険だということで昨年、切られてしまったが、地上から3メートル分ぐらいの幹は残された。今年、そこから枝が生え、少ないが花をつけた。そこにも春の雪がしっかりと積もっている。
 新型コロナウイルスの感染が広まり、東京は外出自粛。雪のなかで静まり返っている。
 昨年末に中国ではじまった時疫は、世界規模で広まっている。感染者は57万人を超え、死者は2万5000人を超えた。
 中国で感染が拡大してから、解決のつかないわだかまりを抱えている。人は体内に抗体をつくることで、多くの感染病を乗り越えてきた。その議論や対応の話が少ない気がしてしかたない。専門医の間では話し合われているのかもしれないが、伝わってくるのは、新型コロナウイルスへの恐怖ばかりだ。それほど感染力が強いということなのだろうか。
 新型コロナウイルスの感染が広まる前、世界の人々の自然とのつきあい方への感覚は少し違っている気がする。やみくもに排除するのではなく、内包するようにしてともに生きていくという発想は、一定の支持を得ていたはずだ。新型コロナウイルスに話を絞れば、なんとか皆が抗体を体内につくり、病気に罹らない体にしていくという発想である。そのひとつがワクチンなのだが、その開発に時間がかかるいま、抗体をつくる新たな方法への模索があってもいい気がするのだ。
 僕は感染症の専門ではないから、机上の空論と一蹴されてしまうのかもしれないが、なぜかその方向への話がなくなってしまった。
 中国の武漢で感染が広まり、中国政府は都市封鎖に踏み切った。権力が集中し、財力がある中国だからできること……と見る向きも多かった。そこで潮目が変わったのか、世界に感染が広まるなかで、都市封鎖や都市のロックダウンが対応策としてまず浮上するようになった。しかし封鎖という方策は、かなりの経済負担を強いてしまう。長引けば店舗や企業の経営破綻を招いていく。
 ウイルスへの恐怖と経済停滞に追い込まれれば、発想の転換しか残る道はないように思う。新型コロナウイルスの致死率。今回の感染がなくても、日本では年間10万人を超える人たちが肺炎で亡くなっているという事実。それらを口にできない空気が世界を包んでいるのだが。
 ボタンのかけ違い? 感染が中国からはじまった。中国の社会主義的発想は科学至上主義の傾向がある。いや、現代医学が描いた自然をとり込んでいく発想は理想にすぎなかったということだろうか。
 しかし少なくとも、人間とウイルスの関係は、ワクチンも含め、近づかないことではなく、抗体をつくっていくことしかない気がするのだが。

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○クリックディープ旅=沖縄の離島のバス旅がはじまります。
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Posted by 下川裕治 at 16:17Comments(3)

2020年03月16日

航空券の運賃返金という戦い

 バングラデシュに行こうとしている。学校改修のクラウドファンディングで寄付をいただいた人たちと同行することになる。
 バンコクからダッカまで、タイ国際航空で予約を入れたのだが、減便が続いている。通常、バンコクとダッカの間には、1日2便のタイ国際航空便がある。いつもバングラデシュ人で満席である。それが1日1便になり、その1便も減便の嵐に晒され、いまや週に2~3便に減ってしまっている。
 この飛行機を埋めるバングラデシュ人はバンコクが目的地のような気がしていた。どうもそうではなかったらしい。バンコクで乗り換えて、中国やヨーロッパ、アメリカへ向かう。それらの国が新型コロナウイルスの感染が広まり、渡航も難しい状態。利用客が激減し、タイ国際航空は便を減らしているのだろう。
 同行する日本人の日程も、減便のたびに変更しなくてはならない。もう、何回、タイ国際航空のコールセンターに電話をかけたのかわからない。
 減便で日本からの便と接続ができなくなると、日本からバンコクまでは他社便を使うことになる。その場合、タイ国際航空の予約をいったんキャンセルし、予約を入れ直すことになる。いま、飛行機はすいているので、予約はスムーズなのだが、問題は航空運賃だ。
 この時期、多くの航空会社が、全額返金に応じてくれる。それは助かるのだが、その先がある。
 何人かがエクスペディアというネット系旅行会社を通して予約していた。この場合、タイ国際航空が返金する先はエクスペディアである。最終的な返金交渉は、エクスペディアと行うことになる。
 ところがいま、多くのネット系旅行会社との連絡がとれない。メールを出しても返信はこない。コールセンターは誰も出ない。世界規模で飛行機の減便が起きているから、その対応に追われ、パンク状態に陥っているのだろう。
 ネット系旅行会社は運賃も安いから、ついなびいてしまう。しかしそれがうまくいくのは、飛行機が正常に運航しているとき。いざトラブルが生まれると、その弱さを露呈してしまう。しかし旅行者は今回の新型コロナウイルスの感染を予測できないから、面倒なことになってしまうのだ。
 いま、世界中でこの問題が起きているはずだ。そのなかで、なんとか予約を変え、返金手続きをしなくてはならない。そのエネルギーを支えるもの……。それは、新型コロナウイルスに、自分の旅が振りまわされたくないという思いのような気がする。新型コロナウイルス……航空券の世界でも戦わなくてはならない。

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Posted by 下川裕治 at 13:07Comments(1)

2020年03月09日

ペシャワール会は1割

 バングラデシュの南部、コックスバザールの小学校の改修工事がほぼ終わった。僕がその運営に30年かかわってきた学校である。
 改修資金はクラウドファンディングで寄付を募った。多くの方に賛同していただいた。
 いま、その会計報告のために、改修工事にかかった費用を計算しているのだが、これが予想以上に大変だ。改修工事といっても、材木やセメント代、工事にかかわった人件費などの領収書はベンガル語。どれがそれにあたるのかの照合に時間がかかる。もうひと息というところまで辿り着いたが。
 改修費が予想以上にかかった。学校の先生たちの給料を少しはアップできるかと考えたのだが、なかなか難しい。
 この工事の立ち合いなので、僕は2回、現地に向かった。リターンの商品を袋に詰めて発送する作業にも時間がかかった。何人かの人に手伝ってもらったが、その費用が出そうもない。僕の渡航費も自腹になりそうだ。
 本当はもっと計画だってやらないといけないのかもしれないが、学校の修繕をはじめると、次々に問題が発覚し、費用がかさんでしまった。
 援助にかかわっていると、現地への渡航費やさまざまな作業にかかった時間に対して、いくらもらったらいいのかで悩む。寄付でいただいた資金である。そのどのくらいを運営費としてもらっていいものか、という問題である。今回は運営費がほぼない状態になってしまったが、今後のことを考えれば、きちんとしたガイドラインをつくったほうがいい気がする。
 以前、知人の新聞記者が、世界の名だたる援助団体の運営費を調べあげた。多いところは8割を運営費にあてていた。援助団体が大きくなると、かなりのスタッフを抱えることになる。彼らは専従だから給料を払わなくてはならない。寄付のための宣伝費も必要になる。
 昨年の12月、アフガニスタンで援助活動をしていたペシャワール会の代表の中村哲氏が死亡した。武装グループに襲撃されてしまったのだ。
 水路をつくり、乾燥した土地を作物が育つように変えていく。それがアフガニスタンにとってどれほど重要なことか、僕は痛いほどわかる。何回かアフガニスタンを訪ねているからだ。作物を育て、収入を得ることができれば、彼らはゲリラ兵として雇われることをやめる。平和への道筋ができていくのだ。
 知人の新聞記者は、ペシャワール会の運営費も調べた。
「1割なんですよ。援助団体のなかでは圧倒的に少ない」
 1割──。
 中村氏にあやかるわけではないが、僕らの運営費のガイドラインはそのへんにしようと思う。今後は。

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Posted by 下川裕治 at 11:50Comments(1)

2020年03月02日

武漢封鎖という危うさ

 新型コロナウイルスが世界を揺るがしている。感染を防ぐのはなかなか難しい。各国の対応を見ると、ある怖さをもって際だって映るのは中国の対応だ。感染規模も多きく、混乱していたとはいえ、武漢という大都市を封鎖した。世界の感染国のなかで、特定の都市を封鎖したのは中国だけだ。
 いや、できないといってもいいのかもしれない。韓国の大邱にその動きがあったが、住民の猛反対にあった。
 感染拡大を防ぐために都市を封鎖する。その手法に対し、専門家の意見も分かれる。封鎖した結果、あれだけの多くの犠牲者を出してしまったという人もいる。多くの人々が街に閉じ込められたことで、感染が拡大したという分析だ。病院に押し寄せた人々が院内で感染していった……と。
 武漢を封鎖しなければ、感染はもっと広がっていたという見解も存在する。中国は、後者を強調するだろう。
 僕が気になるのは、ひとつの都市を封鎖するということが、どれだけのことか、ということだ。以前、バンコクで赤シャツ派と黄シャツ派が衝突し、最終的には軍が出動し、バンコクに、夜間外出禁止令が敷かれたことがあった。その初日、僕は早朝の飛行機でベトナムに行くことになっていた。記憶では朝5時までの外出禁止令だった。しかしそれでは飛行機に間に合わない。
 訊くと航空券を見せれば、外出してもいいようなことをいう。しかしタクシーは? ホテルに相談すると、知り合いの運転手が前夜からホテルにやってきてくれた。
 午前4時台に無人の街を空港に向けて疾走する……。そんなことはなかった。荷物を積んだトラックが走っている。訊くと、隣接県のトラックだという。バンコクに食料が届かないと大変なことになる。バンコクの市場には明かりがついていた。市場のおばちゃんは軍より強い?
 なにかにつけ、詰めが甘いタイだから……と思うかもしれない。しかし都市に外出禁止令や封鎖令を出すということは大変なことなのだ。武漢の人々への食料をどう運び込むのか。仕事ができない間の補償はあるのか。人々の反発をどう受け止めるのか……。
 中国だからできたことだった。強い権力がなければ封鎖などできない。
 しかし封鎖という発想の背後には、武漢の人々を犠牲にしても、中国を守るという思想が潜んでいる。「地方を犠牲にして、北京を守る……つまり共産党を守るということですよ」という人もいる。
 中国は、その思想を実行に移したということだろうか。しかしほかの国々は、そう簡単にはいかない。それは民主主義以前の問題にも映るのだ。
 新型コロナウイルスがひと段落したとき、中国が武漢の犠牲を語らず、自らの対策を自画自賛し、その手法に人々が傾くとしたら……。そこには危険な発想が含まれている。

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Posted by 下川裕治 at 11:35Comments(1)