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ナムジャイブログ

2025年03月31日

アジアは休ませてくれない

 母の葬儀が終わり、翌日の夜の飛行機でタイにやってきた。本来はもう少し前に日本を離れ、ソウルでの用事をすませ、その足でバンコクに向かう予定になっていたが、すべての日程が変更になった。
 夜行の飛行機はやはり疲れる。通夜、葬儀とつづいた疲れも澱のように溜まっている。ただ単に忙しかった後の疲れとは重さが違っている。ふとしたおりに、年老いた母の顔が浮かんでくる。
 早朝にバンコクに着き、宿で少し眠った。昼から、僕がかかわるユーチューブの撮影があった。タイの屋台料理を紹介するもので、そのときはタイのそばをつくる光景や食べる様子を撮影することになっていた。センミーナームを頼んだ。細い米麺を使ったスープ麺である。ナンプラーを入れ、粉唐辛子をまぶし、砂糖を少々……。
 そのときに揺れがきた。
 そばを混ぜる手が止まった。船に乗ったときのような横揺れだった。直下型ではない。震源地は近くない。インドネシアで大きな地震が起きたのかもしれない。そんなことを考えた。揺れはさほど大きくない。震度3といったところか。しかし少し長かった。
 タイ人は浮足だっていた。バンコクは地震が少ない土地である。無理もない。皆、前の通りに駆けだしていく。やはり僕は日本人で地震に慣れているのだろうか。横揺れの強さから、避難するほどではないと思っていた。それに撮影のカメラもまわっている。撮影者も驚いて、スイッチを切らずに表に出ていってしまった。
 気がつくと、店で椅子に座っていたのは僕だけだった。揺れが収まってからしばらくすると、さまざまな情報が入ってくる。震源地はミャンマー中部のザガイン管区だった。マグニチュードは7・7。ミャンマーのそれもザガイン管区……。不安が広がった。
 バンコクではビルが倒壊した情報が入ってきた。その後、倒壊したビルはこの1棟だけで、ひびが入った建物はあるものの、このビル以外は大きな被害が出ていないことがわかってくる。ところが日本から、「大丈夫ですか」という連絡が次々に入りはじめる。訊くと、ニュースの地震情報のトップはバンコクのビル倒壊なのだという。大きな地震がバンコクで起きたと思っている人も多かった。
 これはまずいと思った。テレビやユーチューブ、TikTokといった世界は絵をほしがる。通信環境や報道規制の問題で、どうしてもタイからの情報が多くなってしまう。しかし震源地のミャンマーでは大変なことが起きているはずだった。
 タイ人には申し訳ないが、災害のステージが違う。タイ人は「怖い」というが、ミャンマーでは命を救う興奮状態のなかに人々は置かれている気がした。
 震源がザガイン管区というのはあまりに切ない。軍事政権に対抗する民主派勢力との戦闘が最も激しいエリアである。国軍は通信手段を完全に遮断している。現地からの情報はいちばん得にくいエリアなのだ。
 それでもミャンマーや日本にいるミャンマー人から次々に動画が送られてくる。言葉にならない悲惨な映像が多い。僕が運営にかかわるユーチューブのチャンネルで公開していくことにした。
 僕らのチャンネルは非力だ。登録は6000人ほどしかいない。それでもミャンマーの軍事クーデター以降、毎週「ミャンマー速報」で軍事政権の弾圧を伝えてきた。
 なんとかミャンマーの現実を伝えなくてはいけない。そうしないとバンコクからの情報に埋もれてしまう。
 疲れた頭で送られてくる動画を観る。
 アジアは休ませてくれない。

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Posted by 下川裕治 at 11:40Comments(0)

2025年03月24日

オオイヌノフグリと常念岳

 3月21日の晩、母が息を引きとった。母は信州の安曇野にひとりで暮らしていた。94歳だった。夜、電話が通じないことが気にかかり、近所の人に見にいってもらうと、風呂のなかで湯に浸ったまま、ほぼ心肺停止状態になっていた。救急車で搬送されたが、心臓は再び動きはじめることはなかった。
 妹の夫の車に便乗させてもらい、深夜の中央高速を走って、午前2時半には病院に着いた。医師の説明では、入浴中に心臓発作を起こした可能性が高いということだった。看護師の手で、病院の浴衣を着せてもらい、穏やかな顔で緊急治療室のベッドに横たわっていた。
 翌日は慌ただしかった。葬儀会社のスタッフと通夜や葬儀の日程を打ち合わせ、僧侶への連絡がつづく。母親に親しかった人たちへの連絡、地元紙の「お悔み」欄担当からも電話が入る。ケアマネージャーや訪問看護師、ヘルパーさんたちといった介護関係の方への連絡も待っている。
 決めごとが多い。葬儀会社との話は、すべて費用がかかわってくる。通夜や葬儀の後の食事を決めなくてはならない。祭壇はどの程度のランクにするか。受付を葬儀会社に任せるか、身内でやるか。僧侶へのお布施はいくらぐらいが適当なのか……。
 万単位の金額が加算されていく。
 その間にも、次々に弔問の方が現れる。東京などでは、遺体を葬祭場に置くことも多いが、ここは信州。通夜までは自宅に遺体は置かれる。夕方には湯灌が行われた。お湯で清め、母親には好みの着物を着せてもらった。
 前夜はあまり眠る時間がなかった。
 なんだかすごく疲れた。
 月曜日は締め切りが多い。このブログを含めると、通常4本の原稿がある。土曜日の朝に、「休載する」という連絡をいれた。
 そして日曜日。地元紙に掲載された死亡の通知で知った人などからの連絡や弔問がつづいた。しかし午後になると、その数も少なくなってくる。
 その合間を縫って、近くを歩いてみた。あまりにいい気候だったからだ。10分ほどの短い時間だったが。
 気温20度。柔らかな日射しが暖かかった。信州の安曇野は春を迎えていた。
 実家から少し歩くと、水田が広がる田園地帯になる。そこから雪をかぶった常念岳を眺めることができた。真冬の晴れた日のようなクリアーさはない。どこかうっすらと曇ったような空気のなかの北アルプスは、春の眺めである。
 近くの土手に目をやると、そこにはオオイヌノフグリがいくつも咲いていた。フグリというのは睾丸のことで、犬の睾丸という、なんだか無粋な名前がついているが、その小さな青い花房は春と告げてくれる。
 オオイヌノフグリに常念岳……。柔らかな風が頬をなでる。
 母はこんなに穏やかな土地に暮らしていたのだと思った。
 弔問の訪れる人たちは、生前の母のいろいろなことを口にするが、その話もどこか穏やかだ。94歳まで生きたということかもしれないが、信州の春のようにぼんやりしている。
 父が他界してから30年以上になる。その年月を母はひとりで生きてきた。長い老後である。人づきあいのいい母で、安曇野や松本に住む人たちがよく訪ねてきてくれた。そんな穏やかな日々は、安曇野の春のようだった。明日から通夜、葬儀とまた儀式がつづく。きっとその時間も、穏やかに流れていく気がする。

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Posted by 下川裕治 at 12:12Comments(3)

2025年03月17日

自信のないトークイベント

 3月18日の19時半から、西荻窪の「旅の本屋のまど」でトークイベントがある。
http://www.nomad-books.co.jp/event/event.htm
 3月13日に発売になった僕の新刊『70歳のバックパッカー』(産業編集センター刊)にからめたトークイベントだ。
「旅の本屋のまど」には、2週間に1回、お世話になっている。僕が運営にかかわるユーチューブのライブを、その店から発信しているのだ。しかし18日は、有料のトークイベント。今回から、会場でこの本のプレゼント企画もスタートする。どういうことになるかわからないが、会場にきてくれた方のなかから抽選で3名の方に『70歳のバックパッカー』を提供する。はたしてうまくいくだろうか。
「タイトルがかっこいい」
 すでに読んだ人から、そんな声が届いている。これまで100冊を超える本を書いてきたが、「タイトルがかっこいい」といわれたのははじめてだ。70歳でなにがかっこいいのかとも思うが、そんな印象で受け止められているようだ。
 しかし本書の内容は、かっこよくない。40年以上、バックパッカー風の旅をつづけてきたが、そのおかげで、僕がいま陥っている隘路のような話をまとめているからだ。
 僕の毎日はいまだ忙しく動いているが、なぜ、こんなことになってしまったかと遡っていくと、僕の旅にぶつかってしまうのだ。
 たとえばいま、『歩くパリ』の編集に追われているが、このガイドブックを発案したのは僕だった。若い頃、人気のガイドブックといえば『地球の歩き方』だった。しかしあのガイドブックは厚いから重い。そこで僕は、地図のページだけを切り離し、旅にもっていくことにした。そんなバックパッカー風のスタイルが原点である。薄くて、地図がしっかりしているガイドブック……そこから『歩くバンコク』が生まれ、それがほかの都市に波及していった。制作は現地に住む人たちにお願いした。
 この構造が崩れたのがコロナ禍だった。現地でガイドブックづくりに協力してくれた人たちが、ぞろぞろと日本に帰ってしまったのだ。僕ひとり残され、さて、どうやってつくっていく? 僕にかかる負担は一気に増えてしまった。
 年をとれば楽な人生が待っている? とんでもない。ますます大変になってきている。その原因を辿っていくと、バックパッカー旅に辿り着いてしまう。僕のいまは、バックパッカー旅の代償を払っているようなところがある。こうなってはいけません……反面教師のような話が次々にこの本には登場する。
 バングラデシュの学校、アジア人とのつながり、マイレージの苦しさ……。
 はたしてこんな内容でトークイベントになるのだろうか。本来なら、人生を豊かにするような旅をいざなう話がいいのだろうが、どうもそんな話ができそうもない。
「トークイベントの話を受けるんじゃなかった」などと唇を噛んでしまうのだが、なんとか踏みとどまって、やはり「旅に出よう」とイベントにきてくれた方が思ってくれるか、どうか……。
 自信はない。まったくない。
 それでも僕は旅をつづけている。その感覚をわかってもらえるだろうか。
 自信はない。まったくない

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Posted by 下川裕治 at 14:19Comments(0)

2025年03月11日

【イベント告知】新刊『70歳のバックパッカー』(産業編集センター)発売記念

下川裕治の新刊『70歳のバックパッカー』発売を記念して、トークイベントを開催いたします。

詳細は以下です。ぜひ、ご参加ください!

◆下川裕治さん  トークイベント◆
70歳になったバックパッカーの答え合わせ
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新刊『70歳のバックパッカー』(産業編集センター)の発売を記念して、旅行作家の下川裕治さんをお招きして、40年以上続けてきたバックパッカー旅への思いについてスライドを眺めながらたっぷりと語っていただきます。

前作『日本ときどきアジア古道歩き』では、熊野古道、沖縄古道、鳥嶺古道・朝鮮人街道や台湾の馬胎古道、カンボジアのアンコール古道など、日本やアジアの歴史的な古道を歩き、いにしえの人々に思索を巡らせながら古道歩きの魅力について綴っていた下川さん。

新刊では、30代半ばに旅行作家としてデビューして30年以上にわたってバックパッカースタイルの旅を続けてきた下川さんが、70歳になったのを機に、転機となった旅や出来事を振り返りながら自らの旅人生を振り返った1冊になっています。

バングラデシュで小学校を開校したり、『歩くバンコク』を創刊するなど、長年旅に関わる活動をしてきた下川さんだけに、自身の旅遍歴の過去、現在、未来についての貴重なお話が聞けるはずです。

下川ファンの方はもちろん、バックパッカーの旅が好きな方やこの40年間の旅の変遷に興味のある方はぜひご参加ください!

なお、参加者の中から抽選で3名の方に、新刊『70歳のバックパッカー』(定価1650円をプレゼントします!(当日、会場にて抽選をします)

※トーク終了後、ご希望の方には著作へのサインも行います。



下川裕治 (著)
70歳のバックパッカー

産業編集センター刊


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●下川裕治(しもかわゆうじ)

1954年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。新聞社勤務を経てフリーに。アジアを中心に海外を歩き、『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)でデビュー。

以降、おもにアジア、沖縄をフィールドに、バックパッカースタイルでの旅を書き続けている。『「生き場」を探す日本人』『シニアひとり旅バックパッカーのすすめ アジア編』(ともに平凡社新書)、『ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅』(中経の文庫)、『日本の外からコロナを語る』(メディアパル)など著書多数。  

◆下川裕治さんブログ「たそがれ色のオデッセイ」
http://odyssey.namjai.cc/

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【開催日時】 
3月18日(火) 19:30~(開場19:00)  

【参加費】  
1100円(会場参加)  
 ※当日、会場にてお支払い下さい
1100円(オンライン配信) 
 ※下記のサイトからお支払い下さい
 https://twitcasting.tv/nomad_books/shopcart/

【会場】  
旅の本屋のまど店内  
 
【申込み方法】 
お電話、e-mail、または直接ご来店の上、お申し込みください。
TEL&FAX:03-5310-2627
e-mail :info@nomad-books.co.jp
(お名前、お電話番号、参加人数を明記してください)
 
※定員になり次第締め切らせていただきます。

【お問い合わせ先】
旅の本屋のまど 
TEL:03-5310-2627 (定休日:水曜日)
東京都杉並区西荻北3-12-10 司ビル1F
http://www.nomad-books.co.jp

主催:旅の本屋のまど 
協力:産業編集センター
  

Posted by 下川裕治 at 15:53Comments(0)

2025年03月11日

【新刊プレゼント】70歳のバックパッカー

下川裕治の新刊発売に伴うプレゼントのお知らせです。

【新刊】
70歳のバックパッカー





下川裕治 著
70歳のバックパッカー

産業編集センター刊


◎ 本書の内容

バックパッカーのレジェンドとして知られる著者が、70歳になったのを機に自らの旅人生を振り返った一冊。

30代半ばに旅行作家としてデビューした著者は、30年以上にわたってバックパッカースタイルの旅を続けてきた。果たしてその選択は正しかったのか。

転機となった旅や出来事を振り返りながら、その答え合わせを試みる──70歳になったカリスマ・バックパッカーの現在地を照射するとともに、バックパッカー旅への思いと覚悟を綴った自伝的エッセイ集。

【目次】
●第一章
二十七歳、僕はバックパッカーになった。
●第二章
バングラデシュで小学校を開校する。
●第三章
『歩くバンコク』を創刊する。
●第四章
アジア人の人生に翻弄されていく。
●第五章
安い航空券の先に待っていた悪魔のマイレージ。
●第六章
七十歳、バックパッカーの旅は続く。


【プレゼント】

新刊本『70歳のバックパッカー』 を、

抽選で"3名さま"にプレゼントします!

特に応募条件はございません。
タイ在住+日本在住の方も対象ですので、どうぞ奮ってご応募ください。


応募は以下の内容をご記入の上、下記のお問合せフォームよりご連絡ください。応募受付期間は2025年3月21日まで。当選発表は発送をもってかえさせていただきます。

えんぴつお問合せフォーム
http://www.namjai.cc/inquiry.php


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Posted by 下川裕治 at 15:45Comments(0)