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ナムジャイブログ

2021年05月31日

切ないオリンピック

 以前から、オリンピックには疑問をもっていた。子供の頃は違った。東京オリンピックが行われたのは、小学生のとき。視聴覚室に移動して観戦した。授業のひとコマだったのだ。どんなスポーツを観たのかは覚えていないが、視線は日本人選手を追っていた。
 オリンピックに「???」マークがつくようになったのは、海外に出る機会が多くなってからだ。オリンピックの期間、アジアの国々に滞在していたことが何回かあった。バンコクのホテルでテレビを観ても、オリンピックを伝える番組はほとんどなかった。オリンピックに出場するタイ人の選手は少ない。人々の関心は薄い。もちろん日本人アスリートの成績などタイ人は興味がない。
 僕はどちらかというと、暑い国を歩くことが多いから、冬季オリンピックとなると、この傾向はさらに強くなる。
 そこで気づいた。オリンピックは、リージョナルな大会、地域性が強いスポーツイベントだということだ。さまざまな国の選手が集まるから、競技そのものは国際的だが、観客の関心、掲げられる国旗、放送の利権……とその運営が地域性によって支えられていることが見えてくる。
 中国人やロシア人は、自国のチームがアメリカのチームに勝つと熱狂する。インドとパキスタンのチームが戦うと大変なことになってしまう。香港の民主派の活動家は、オリンピックで中国の選手の活躍につい拍手を送ってしまう自分に悩む。
 オリンピックはナショナリズムを刺激することで成立するイベントである。だから鬱陶しい。純粋なスポーツイベントなら、どれほど気分はすっきりするだろうか。
 テレビのモニターに映し出される日本人アスリートに向かって大声をあげる日本人についていけない。選手は自分のために競技に出ているはずだ。それがときに、日本を背負っているような環境に立たされる。その姿は痛々しい。国のために競技をしているわけではないことを、アスリートはいちばん知っているはずなのに。
 日本でオリンピックである。新型コロナウイルスの感染で1年延期した。日本のコロナ禍はまだ収まっていない。
 感染拡大を受け、東京にも緊急事態宣言が出され、さらに延長された。6月20日までになった。政府関係者の狙いはオリンピックだという。宣言を延長し、できるだけ感染を抑え込んでオリンピックを迎えたい……と。
 その記事を読んで切なくなってきた。オリンピックのために多くの日本人が耐えることになる。飲食店や宿泊施設は、さらに赤字を抱える。失業者も増えるだろう。
 しかしそのオリンピックに、世界では、さして関心を抱かない人々が多いと聞いたら、店を潰さないために必死に頑張る店主はどう思うのだろうか。
 東南アジアの国々の人の多くは、東京オリンピックがいつあるのかも知らないと思う。中南米やアフリカになると、今年、オリンピックがあることを知らない人が半数以上いる気がする。
 オリンピックというのはそういうイベントである。
 オリンピックの開催に反対するわけではない。このイベントに人生を懸けるアスリートもいる。彼らのための大会はあっていい。しかしそれは国とは無縁のことだ。しかしそこに国家が介入しているから、コロナ禍の犠牲が国民に押しつけられてしまう。この構図はなんとかならないものか。

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Posted by 下川裕治 at 14:51Comments(0)

2021年05月24日

欧米の力強さとアジアの繊細さ

 また悩ましい日々がはじまることになるのだろうか。
 スペイン政府が、「新型コロナウイルスのワクチンを接種した全渡航者を受け入れる」と発表した。6月7日からだという。つまりワクチンさえ打っていれば、自由にスペインに行くことができる。
 各国の観光業界、航空業界などは、新型コロナウイルスの感染が広がるなかで疲弊していった。解決策はワクチンしかない。今後、ヨーロッパの国々は、この流れに乗っていくだろう。とくに観光産業への依存度が高い国ほどワクチンになびいていく。
 このワクチン接種に、ロシア製や中国製も含まれているかはわからないが。
 日本で接種が進むのは、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカだから、ワクチンの種類としては問題はない。日本政府が海外で通用するワクチンパスポートを発行するかは明確にわかっていない。
 僕は66歳だから高齢者である。日本では優先的にワクチンを打つことができる。1回目は3日後。6月末には2回目の接種が終わるだろう。
 はたしてそこでスペインに行くことができるかどうか。
 そこで登場してくるのが、感染症危険情報と同調圧力という日本の空気である。
 感染症危険情報はこのブログでは何回か紹介している。世界に共通したものではなく、日本が独自に決めたもので、レベル1からレベル4まである。コロナ禍になる前は危険情報というものだけがあった。それはその国やエリアの治安情況などをやはりレベル1からレベル4までで表していた。
 いつも問題になるのはレベル2の「不要不急の渡航は止めてください」だった。レベル2になると、旅行会社はツアーを組めないという不文律があった。
 そのレベル1からレベル4をそっくり感染症危険情報にあてはめている。
 でスペインを見る。レベル3の「渡航は止めてください(渡航中止勧告)」である。だいたい世界の国はそのほとんどがレベル3に分類されている。
 感染症危険情報は、その国の感染状況によってレベルの変動はあるかが、そう簡単には変わらない。スペインがワクチン接種者の渡航を受け入れる6月初旬、おそらく感染症危険情報はレベル3の公算が強い。
 そこで悩むわけだ。旅というものは、どちらの国のルーツに従うべきかと。通常期なら訪ねる国に従う。ビザ、滞在日数……。しかしいまはコロナ禍なのだ。海外から日本にウイルスをもち込む可能性を否定できない。仮に日本より日々の感染者が少ない国を訪ねたとしても、日本人の感情は変わらない。
 感染症というものに対する温度差が欧米とアジアの間にはある。欧米のそれからは、多少の犠牲を払ってもがしがしと前に進もうとする力強さが伝わる。それに比べるとアジアは繊細だ。
 さて、どうしようか……。
 

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Posted by 下川裕治 at 12:41Comments(0)

2021年05月17日

スマホも鎖国時代になった

 スマホを買い換えた。アイフォンからアンドロイドに移った。新型コロナウイルスの感染拡大がなかったら、アイフォンのままだったかもしれない。
 僕はアイフォン5Sというかなり古い機種を使っていた。メールの送受信やネットでの検索に使う程度だから、機種が古くても不便を感じていなかった。
 コロナ禍で仕事が減り、知人らとYouTubeをはじめた。すべてではないが、動画をスマホで撮るようになった。
「下川さん、アンドロイドのスマホのカメラはいいらしいですよ。色とか、手振れ補正とか」
 一緒にYouTubeをやっているカメラマンからいわれた。僕が撮った動画はひどい……と暗にいっているようなものだ。
 2月から3月にかけ、タイに出かけた。帰国すると強制隔離が待っている。新型コロナウイルスの水際対策だ。成田空港近くの隔離ホテルに3泊4日。出るときに接触確認アプリであるCOCOAをインストールしなくてはならない。
 隔離ホテルをチェックアウトするとき、COCOAがインストールされているかのチェックを受ける。しかし僕の機種は古く、それが入らないことを知っていた。厚生労働省の職員にそう伝えた。
 若い職員は僕の言葉を信じないのか、インストールをはじめ、首を傾げる。
「入りませんね。相当古い機種なんですね」
 大きなお世話だ。
 自分自身、そろそろ買い替えの時期かとは思っていたが。買ったのは3年ほど前だ。
 スマホは代々、タイのバンコクで買っていた。最初はバンコク在住の日本人から安く譲ってもらった。知人は新しい機種に買い替えたため、古い機械がいらなくなったのだ。それがアイフォン。以来、アイフォン派になった。2回ほど買い換えているが、いつもバンコクで買っていた。バンコクで買うと完全にシムフリーになっていたからだ。
 しかしコロナ禍は、海外でスマホを買うことに不便さを加えてしまった。バンコクで買う場合、最初に使うのはバンコクだから、設定がバンコクになる。たとえばセキュリティ上のコード番号は、タイ携帯電話に送られてくる。しかし、いまは簡単にタイに行くことができない。日本でそういう場面になると、タイの携帯電話に送られるコードを見ることができないのだ。
 日本で買うしかなかったのだ。シムロックは解除してもらったが、本当に海外へ出向いて、その国のシムが機能するのか調べることもできない。カメラマンの忠告に沿ってアンドロイドにしたが、アイフォンに慣れた指にはストレスがかかる。コロナ禍は各国間の人の往来を止めて閉まったが、スマホも鎖国化を強いられてしまった。
 しばらく試行錯誤が続く。

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Posted by 下川裕治 at 18:17Comments(0)

2021年05月10日

ワクチンクーポンの平等論

 新型コロナウイルス対策は、地球規模で失敗を重ねてきた。「なんとか抑え込んだ」という国もあるが、それは比較論にすぎない。もともと備えていた権威主義を発揮し、「私たちは新型コロナウイルス抑え込んだ」と声高に語られても、世界の人々がうそ寒さを抱くだけだ。
 中国にしても、「私たちも同じように苦しんでいる」と発信すれば、共感する人もいると思うのだが、そこに権威主義が歯止めをかけてしまうから、中国嫌いばかり増殖させてしまう。
 そういった政治的な話も含めたウイルス対策というフィルターをかければ、すべての国が失敗したと思う。
 その失敗はさまざまな世界に波及する。僕は原稿を書くことを生業にしているから、言葉が汚れていくことが気にかかる。行政はさまざまな言葉を発してきたが、それがさしたる効果も生まないから、人々はその単語を耳にしただけでうんざりする。
 たとえば「三密」。感染拡大を気にするひとは、「三密」を避けているというのに、何回も大きなピークに襲われ、それは変異株のためだと説明を受けても、「去年、あれだけ神経を遣ったのに……」という反発が生まれてくる。「三密」という言葉は、これからは遣いにくいだろう。
 ウイルス感染拡大を防ぐ緊張感は色褪せ、政治家の演説のような空虚な響きを抱えもってしまう。
 そんななか、唯一、裏切らなかったのはワクチンだ。当初は開発に3年はかかるといわれていたが、ほぼ1年で接種がはじまった。専門家はこれまでの新薬開発を参考に3年といったのだろうが、各国が対策の手詰まり感に陥っていくなかで、ワクチンへの期待値は高まり、やや乱暴な進み方をとり、接種に辿りついた。そして着実な成果をあげはじめ、世界はワクチンになびいている。
 しかしその接種方法で不協和音が響く。平等という理念との葛藤だ。ワクチン接種を望む人の数に対してワクチンが少なすぎる。さて、どうやって接種するかという話だ。
 阪神・淡路大震災を思い出す。僕は取材のため、1ヵ月近く、震災対策の現場を見続けていた。全国から膨大な支援物資が届いた。そのなかに畳があった。寒い時期だった。避難所に畳を敷けばずいぶん助かる。しかし避難所に敷き詰めるほどの畳は届いていない。
 そこで行政は悩む。避難所に敷き詰めることができるまで待つ? それでは今晩、温かくしてほしいという送り主の善意が霧散してしまう。
 同じ構図がワクチンにもある。平等を待つか、感染者が多いエリアからはじめるか。平等論は自己責任の問題も絡み、答えが出るものではない。「運の平等論」、「関係性の平等論」など哲学的考察は興味深いが、ワクチンの前では……。
 僕のもとにもワクチンクーポンが届いた。ネットを通して予約したが、接種は1ヵ月以上先。そこに平等はどれほど作用しているのだろうか。

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2021年05月03日

退院して「ケチャップ。」に出合う

 月曜日に入院し、5月2日退院した。予定では前日の退院だったが、麻酔の抜けぐあいが悪く、検査が半日遅れ、日曜日になってしまった。
 東京は緊急事態宣言のただなかだった。毎日、ベッド脇にあるテレビから流れるニュースでは、新型コロナウイルスの変異株に動揺する日本各地の様子が映し出されていた。それをただぼんやり観ていた。
 入院したのは総合病院で、新型コロナウイルスの感染者も受け入れていた。棟は違ったが。入院時には、院内クラスターを出さないことへの対策がいくつかあった。それらをクリアーし、入院した病棟は、湖の底のように静かだった。そこにあったのは、日本の高齢化社会の現実だった。
 外科手術をうけた老人が多かった。まあ、僕も人のことはいえない年齢だが、車椅子やストレッチャーで運ばれる患者に比べれば、まだまだ元気だった。
 ときおり、電話で話す声が聞こえてくる。コロナ禍で談話室や電話コーナーが閉鎖。面会もできない。廊下での電話だけが許されていた。
 癌の患者が多かった。腫瘍摘出手術を受けた人が多かった。これから抗がん剤の治療がはじまるのかもしれない。
 そのつらさを知っているのか、声に張りがない。逆に元気を装って電話をかける老人もいる。不自然に明るい声が切なさを募らせてしまう。新型コロナウイルスとは無縁の病気だったが、どちらもつらい。新型コロナウイルス患者への治療は、どこか最前線の緊張感が漂っているが、通常病棟には、淡々と対峙しなくてはならない治療や死が横たわっていた。
 そのなかで僕はなにをしていた?
 管やコードと格闘していました。前号でお伝えしたヘパリン置換は点滴で行われる。手術後は、抗生物質や栄養剤の点滴が増え、心電図や酸素濃度を測るコードもつながっている。尿道にも管が入っている。テレビやスマホの音はイヤホンで聞かなくてはならない。そこにマスク……。全部で7本。体の周りは管やコードだらけだった。
 それが1本、そして1本ととれて退院になる。
 家に戻ると、上海から届いた封筒が机の上に置かれていた。「ケチャップ。」という雑誌だった。上海に暮らす萩原晶子さんが編集にかかわった雑誌だ。昔からの知り合いである。雑誌をつくることは知っていた。
 その話を聞いたとき、「どうしていま?」と思ったものだった。アジア各地でフリーペーパーが次々に休刊や廃刊に追い込まれていた。コロナ禍は、そんな文化を直撃していたからだ。
「ケチャップ。」をめくりながら、指に力が入っていく感覚を思い出していた。雑誌としての完成度が高いわけではない。そういう技術的なことを超えたもの……。
 コロナ禍は人々の言葉を薄くした。「頑張ろう」、「元気」、「パワー」……そんな歯が浮いた言葉とは違うさりげない事実。それを拾いあげていく姿勢。1冊の雑誌の底にはそんな救済が流れていた。

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