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ナムジャイブログ

2022年05月30日

紙の雑誌を手に「ちょっと幸せ」

『REAL ASIA(リアル・アジア)』が復刊された。2号で休刊していたので、3号という扱いである。
https://www.zuisousha.co.jp/book6/978-4-88748-401-6.html
 僕も原稿を書かせてもらっている。「コロナ禍の旅」。タイや日本での隔離体験を綴った。
『REAL ASIA(リアル・アジア)』は紙の雑誌である。雑誌に限らず、紙媒体が売れない時代がつづいている。いや、この傾向は終わることはないだろう。
 しかしそういう時代になぜか、紙の雑誌が発行されたという話が届く。この雑誌以外にも、僕がかかわるものでは、上海で『ケチャップ。』という上海文化を紹介する雑誌も発行されている。上海は厳しい新型コロナウイルス対策がつづき、次号の発行が遅れているようだが。
 それぞれの台所事情には詳しくないが、収益という面ではなかなか難しい気がする。
 しかし発行されているのだ。
 僕の日々を考えても、ネット用の原稿を書く機会が多くなってきている。書籍以外ではほとんどがネット用といってもいい。
 送った原稿がネット上で読むことができる前に、原稿のチェックがある。そのとき、ある程度長い原稿になると、僕はプリントし、そこに赤字を入れている。
 人間の目というものは不思議なもので、誤字や脱字などは、紙で見たほうがはるかにみつかる。モニターでは見過ごしてしまうことが多いのだ。出版社や新聞社の担当者や校閲担当の方も同じことをいうから、僕だけの問題ではないようだ。人間の目の構造的なことなのだろうか。
 紙に雑誌や本には、肌ざわりというか、指の感覚がある。紙に触れ、ざらつきやめくるときの重量感のようなものが、読む内容とないまぜになって伝わってくる。モニターで読むより、多くの感覚を登場させている。
 その感覚は僕の場合、「ちょっと幸せ」といった表現がぴたりとくる。ささやかなことかもしれないが、日々の生活はそういうことで支えられている。紙の雑誌には、そんな世界が詰まっている。
 さて『REAL ASIA(リアル・アジア)』。フィリピンの大統領選、ミャンマーからのレポートなど、いまのアジアを伝えている。ごろりと横になってページをめくる。書き手の思いを、ネットのモニターよりリアルに感じるのは、たぶん、そういう時代を生きてきたためだろうが、読み終えても、雑誌は存在感を発揮する。書棚にしっかりと収められる。クリックして別の原稿に移るようなことはないわけだ。歴とした主張である。それを目にすることは、やはり「ちょっと幸せ」……。
 採算を考えれば、紙の雑誌は、これからも衰退していくだろう。しかし、「ちょっと幸せ」な空間を大切にしたい人はいる。その主張は、ネットの記事や雑誌より強く映る。

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Posted by 下川裕治 at 15:12Comments(0)

2022年05月23日

沖縄復帰50年で島豆腐が消える?

「こういうことか……」
 夕方の那覇のスーパーで呟いてしまった。沖縄のスーパーの豆腐売り場には、2種類の豆腐が並んでいる。ひとつは本土のようにパックに入った豆腐。そしてもうひとつはビニール袋に入った島豆腐。こちらは温かい。沖縄の人たちは、沖縄方言でいう「アチーコーコー」という温かい島豆腐を好む。
 しかし島豆腐が置かれているはずのコーナーにはなにもなかった。
 前夜、島豆腐が買いにくくなったと耳にした。豆腐を売るルールが変わったらしいという話だった。
 ぴんときた。
 沖縄が日本に復帰したとき、この豆腐をめぐって不協和音が響いた。復帰と同時に、本土での豆腐の売り方が適応される。本土の食品衛生法では、豆腐は冷たい水に晒して売らなくてはならない。温かい豆腐は販売できないのだ。
 温かい島豆腐は、沖縄の食文化だった。沖縄の豆腐業界は当時の厚生省に陳情を繰り返し、沖縄の特例として温かい島豆腐を売ることができるようになった。有名な話だ。
 今年は復帰50年である。あるニュースサイトの原稿を抱えていた。ぴたりとはまる。復帰50年の記事になる。
 沖縄の豆腐関係者に話を聞いてみた。昨年6月、日本は食品衛生管理手法であるHACCP(ハサップ)を導入した。それによると、豆腐の温度が55度以下の場合、3時間で以内に販売か、冷蔵保存が必要になった。島豆腐は3時間以上、店頭に置くことが難しくなったのだ。那覇のスーパーの豆腐売り場に、島豆腐がなかったのは、売り切ったか、処分したかのどちらかだった。
 しかし問題はそれだけではなかった。
「そもそも島豆腐の売りあげは落ちてきていたんです。パックの豆腐に比べると料理の前に手間がかかるので、沖縄の人も敬遠してきてました。島豆腐を知らない若い人もいるようです。そこにHACCPでしょ。売れ残ったら廃棄ですから、業者も腰が引けて」
 業界の関係者は説明してくれた。
「だったら55度以上で売れば……」
「肉まんみたいにでしょ。そうすると島豆腐は硬くなってまずくなるんです」
 拍車をかけたのは働き方改革だった。沖縄の豆腐屋は年中無休が常識だった。しかしきちんと休むように指導が入る。島豆腐は売れ残ると回収しないといけないから、仕事量は増える。結局、撤退した島豆腐業者もあるという。
 復帰50年とはそういう年月だったのか。
 島豆腐ファンとしては溜め息がでた。
「でも、この話、昨日のNHKでもやってましたよ。HACCPの話として」
 復帰50年にぴたりとはまる話。それはほかの報道関係者も気づく。早い者勝ち?
 僕は記事を書くのをやめた。
 復帰50年。再び溜め息が出た。

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Posted by 下川裕治 at 13:48Comments(0)

2022年05月16日

マスクをめぐって……また日本

 日本ではマスクをめぐる話がにぎやかになってきた。コロナ禍が収束に向かうとき、必ず起きる話だとは思っていた。
 伏線は日本が入国規制を緩め、外国人観光客の入国に舵を切りはじめたことだった。欧米を中心に、マスクをする必要がない国が増えつつある。そういう国からの観光客を受け入れるということは、当然、マスクをめぐっての意識の違いが出てきてしまう。
 新型コロナウイルスは、世界の人々に多くの犠牲を強いた。亡くなった人たちだけでなく、経済的に追い詰められた人々も計り知れない。そのなかで人々は悩み、対処療法にすぎなかったかもしれないが、感染拡大を防ごうとしてきた。そのなかで僕が気になったことのひとつがマスクだった。
 欧米人はマスクを嫌うという話がよく出るが、本質は違う気がする。かつてのスペイン風邪の映像を見ても、欧米人の多くがマスクをしている。新型コロナウイルスへの対応をマスクに絞れば、欧米人はマスクが嫌いというより、それを国が強制することに反発した要素が強い気がする。それが欧米とアジアの大きな違いだった。
 欧米人はそれぞれの判断を自分でしようとする。底には個人主義が流れている。だから国家というものが、人々にマスクを強制しようとしたことに反発したわけだ。
 しかし日本を含めたアジアは違う。国が決めたことを皆が守ろうとする。その状況はさまざまだが、そこから派生した同調圧力などはとても日本的な反応でもあった。
 日本も屋外でのマスク着用を緩和しようとしているが、電車やバスの車内が最後に残ってくる気がする。
 専門家にしても、いまだ感染拡大をしっかり読み切れてはいないから、「電車のなかでもマスクをはずしても構いません」とは誰もいわない。そこで日本人は悩むことになるのだろう。
 そこで出てくるのは、国がその指針を出してほしいという意見である。国が決めることに反発する欧米人との意識の違いが浮き立ってくる。
 日本人は周囲を見ながら行動を決める民族だから、皆が電車のなかでマスクをすれば、それに倣う。心のなかでははずしたいと思っていても、なかなか行動に移せない。だから国が決めてほしいという論理に傾いていく。
 さて……である。これから電車のなかでマスクをはずした人への同調圧力がまた頭をもたげてくるような気がする。なんだかすごくいやな空気にまた包まれていく。
 コロナ禍の先が見えはじめたいま、国と社会という問題に、またしても不協和音が響きはじめ、重い空気に日本は包まれていく。
 2年半にも及んだコロナ禍の結末を、もう少しすっきりとさせたい方向になってくれればとは思うが、日本人はそうは動いてはいかない。
 いまから気が重い。

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Posted by 下川裕治 at 13:08Comments(0)

2022年05月09日

予約をすると沖縄に出合えない

 北海道から沖縄……と歩いた。北海道は家族と一緒だった。登別、札幌、小樽という気軽なコースだった。札幌の夜、小樽の昼食の店は娘たちが予約をとった。彼女たちは店のめぼしがつくと、その先に予約という流れは自然で、スマホを使ってなんの抵抗もなく予約をとっていく。
 僕らの世代といまの若者の違いだ。僕は予約というと、事前に準備をした特別な食事といったイメージに傾いてしまうが、いまの若者の予約への垣根は低い。店の混みぐあいにかかわらず、まず予約なのだ。
 沖縄では宮古島と来間島の間に架けられた来間大橋を渡った。ライブ配信もした。
https://twitcasting.tv/c:shimokawayuji/shopcart/154068
「晴れた日は沖縄の来間大橋を渡ろう」というタイトルだったが、その前日、宮古島地方は梅雨に入ってしまった。
 橋の渡り口からライブがはじまったが、そのとき、雨はまだ小康状態だった。長さが1600メートルほどの橋だったが、途中で雨が激しくなった。橋の上は風も強い。晴れれば翡翠色の海が橋から眺められるはずだが、白波が立つ荒れようで、橋の上にいる僕らは雨と風に吹かれ、ずぶぬれ。観ている人をはらはらさせるようなライブになってしまった。ほうほうの体で来間島に渡った。
 ライブが終わり、沖縄そばで体を温めたかった。
 前夜、知人から、「来間島においしいそば屋ができた」という話を聞いた。そこに行ってみることにした。入口で、「ちょっと待ってください」といわれた。5分ほど待っただろうか。まだ若い主人らしき人がノートを片手にやってきた。
「いま予約が9組入っているんです」
 見ると名前の横に携帯電話の番号が書き込まれていた。席が空いたら電話で呼ぶ。それまで雨のなか、レンタカーのなかで待っているようだった。きっとこの店はネットで検索するとすぐに出てくるレベルの店のようだった。当然、予約が中心になる。
 諦めて雨の来間島を歩く。1軒の食堂が目に入った。しかし準備中という表示。しかし宮古島周辺では、準備中という看板が出ていても、店に入れてくれることがよくあった。
 それを思い出し、戸を開けてみた。来間島に住んでいるような女性と幼い娘さんがそばを啜っていた。訊くと、「大丈夫だと思いますよ」という返事。
 店に入ると厨房からオバァが出てきた。
「できるのはカレーとそばだけだけど」
 カレーはメニューになかった。
 沖縄の離島が伝ってきた。
 僕はそばを頼んだ。食べはじめると、オバァがやってきた。用事があるから出かけるという。代金を払うと、オバァは厨房の電気を消し、どこかに行ってしまった。
 店には僕と同行するカメラマンが残されてしまった。
 食べ終わり、店を出ようとした。テレビぐらい消そうと思ったがリモコンがみつからない……。
 僕は沖縄の離島の食堂にいた。おそらく予約で埋まる店に入ったら、こうはならなかっただろう。
 僕はこれまで、こういう店に予約をせずに入り、沖縄を書いてきた。それはもはや、昔の沖縄かもしれない。しかし僕にとっての沖縄はこういう店である。その境界がいまは予約ということのようだった。
 予約をすると沖縄に出合うことができない──。それは僕にとっての沖縄なのだが。

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Posted by 下川裕治 at 11:27Comments(0)

2022年05月02日

勝手に忙しくして、落ち込んでいる

 日本はゴールデンウィークだというのに、なんだかとても忙しい。自分で勝手に忙しくしている感がある。理由はわかっている。ユーチューブやnote、ツイキャスである。
 コロナ禍で仕事が減り、一緒に仕事をしているカメラマンと、ユーチューブを立ち上げてから1年以上になる。ユーチューブの世界は、かなりの収益になる話が飛び交い、僕らもそのおこぼれにあずかる……という淡い期待があったのだが、やってみてわかったことは、かなり地道な世界ということだった。
 僕らがフィールドにするアジアを中心にさまざまな動画を配信はしているものの、やはり地味なのだろう。チャンネル登録はまだ3900にも達しない。このレベルの収益など知れたもので、さて……と悩みつつ……という「いま」がある。もっと派手なキワモノをやるべきだという知人も多いが、それはなかなか踏み切れない。
 ユーチューブだけをやっていれば、それほど翻弄されることはないのだが、ネットツールは膨張していて、「読み物中心ならnoteでしょ」「ライブはツイキャス?」「SNSでどんどん宣伝しないといけませんよ」「ツイッターを頻繁に……」などという周りの声を聞いているうちに、隘路に入り込んでいく。
 年をとるということは、時間をかけ、しっかりとした作品を書く余裕ができるという青写真は、ネットの時代に翻弄され、落ち着かない日々がつづいている。
 昨日まで北海道にいた。コロナ禍もようやく終焉の兆しのなかで、北海道にはロシアという逆風が吹いてしまい、小樽の街のロシア語案内も宙に浮きはじめていた。
 明日から沖縄に行く。2回のライブが待っている。で、根が貧乏性だから、つい宣伝をしてしまう。
 5月3日は「晴れた日は沖縄の渡嘉敷島に渡ろう 」https://twitcasting.tv/c:shimokawayuji/shopcart/151859
 5月5日は「晴れた日は沖縄の来間大橋を渡ろう」 https://twitcasting.tv/c:shimokawayuji/shopcart/151860
 そしてその申し込みの数に一喜一憂することになる。
 そろそろ大手を振って旅ができるようになりつつあるが、この2年の間に、出版社もネットへの道をどんどん進んでしまった。
 取次店の大手のトーハンもユーチューブをはじめて、出演依頼を受けた。
 https://youtu.be/_MXPRQJzOFg
 自由に旅話をさせてもらったが、もうそういう時代なのだ。
 僕のなかには、面白い原稿は、媒体など関係がないという思いがある。間違ってはいないはずだ。しかし目の前に降りかかるネットの嵐にどうして体をもっていかれる。
 コロナ禍が消えつつあるいま、どうしたらネット社会を俯瞰できるか。夏を前にそんなことを考えている。


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Posted by 下川裕治 at 11:21Comments(0)