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ナムジャイブログ

2022年10月31日

3回も席を譲られた

 バンコクにいる。12月に発売される「歩くバンコク」の最後の追い込みといった時期にさしかかっている。
 昨日、BTSという高架電車に乗ってナショナルスタジアムまで行った。電車に乗り込んで、吊革を手に立っていると、前に座っていた青年がすくッと立ちあがり、席を譲ってくれた。特別に疲れていたわけではない。少し戸惑った。
 こういうとき、「大丈夫、すぐ降りますから」と断る人もいる。女性に多いだろうか。それができない性分ということが最近わかった。申し出を受け入れることに躊躇はする。しかしなんとなく頭をさげて座ってしまう。断るほど、老いに抵抗していると思われるのも心地よくない。
 実はこの1カ月ほどの間に、2回、席を譲られている。今回が3回目。はじめの2回は東京の電車である。
 これまで席を譲られたことはほとんどなかった。1度、ベトナムのホーチミンシティの路線バスで、やはり目の前に座っていた青年が席を譲ってくれた。10年ほど前の話だ。それは老人に席を譲るというより、外国人に対しての行動だったように思う。というのも、同行していた10歳以上年下のカメラマンも席を譲られていたからだ。
 それを鮮明に覚えているということは、それから10年ほど、僕は電車のなかで席を譲られることがなかったことになる。
 それがなぜ、今月は3回目も……。日本だけでなくバンコクでも……。
 僕も毎朝、鏡ぐらいは見る。特別、風貌が変わったとは思っていない。毎日見ているから、変化がわかりずらいかもしれない。しかし1年ぶりに会ったような知人から、「老けたね」といわれてはいない。
 コロナ禍の間に10キロほど痩せた。なにをしたというわけではない。おそらく家で食事をとることが多くなったためだと思う。我が家は妻と娘という構成だから、どうしてもカロリーが低めの食事になる。
 痩せたこと……それが席を譲られる風貌の原因だろうか。たしかに痩せた人の方が周囲にい老いを伝えやすい気もする。しかしそれが決定的な理由にも思えない。
 疲れている? たしかに疲れている。コロナ禍で収入は減ったというのに、仕事量は増えるばかりだ。年を重ねても、一向に楽にならない。しかし考えてみれば、若い頃も原稿に追われていたわけで、状況は大きく変わったわけではない。
 いろいろ考えても、思いあたる節がない。それなのに、今月、僕は3回も席を譲られている。
 体が発するエネルギーの総量のようなものががくんと減ったのだろうか。人の老いというものは、こういう速度でくるものなのか。
 バンコクの夜景を眺めながら考え込んでしまう。
 不安のなかで僕は明日も電車に乗る。

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Posted by 下川裕治 at 13:21Comments(0)

2022年10月24日

新しいパスポートになる

 パスポートが新しくなった。4日後にタイに向かうが、そのときはまっさらのパスポートにスタンプを捺してもらう。
 僕のパスポートは紺色の表紙の5年用。いつも増補、つまりページを増やしてもらっている。これまでは、それでもページがスタンプで埋まってしまい、3年ほどでつくり替えることを繰り返していた。
 いつも納得がいかなかった。増補は1回しか許されず、まだ有効な期間が残っているというのに、新しいパスポートをつくらなくてはいけなかったからだ。パスポート代は安くない。
「スタンプを捺すところがない」
 イミグレーションで何回も怒られていた。だからつくらざるをえなかったのだが。
 しかし今回は有効期限が切れるための更新である。
 コロナ禍だった。一時期、海外に出向くことができなくなり、余白を残したまま新しいパスポートをつくることになった。
 新しいパスポート……。気もちは少し楽になる。これまで訪ねた国の履歴がそこからはわからないからだ。
 たとえば古いパスポートには、パキスタンのビザや出入国スタンプがあった。これがあると、入国でもめる。パキスタンはテロ指定国家にされていて、なにかとチェックが多くなる。ときに別室で再審査になる。インドやアメリカでは、その憂き目に遭っていた。とりあえず、その鬱陶しさがなくなる。それだけでもありがたい。
 パスポートというものは、捺されたスタンプが少ないほど、出入国がスムーズになる。イミグレーションの職員は、スタンプを捺す前に、パスポートをぱらぱらとめくることが多い。こうして怪しい人物ではないかをチェックしている。スタンプが少なければ、疑われる可能性は少なくなる。
 しかしパスポートが新しくなると、別の手つづきが待っている。
 4日後にバンコクに向かうが、その航空券は古いパスポート番号で発券されている。航空会社に連絡をとり、番号が変わったことを伝えなくてはならない。ワクチン接種証明書にもパソポート番号が記されている。これも更新しなくてはならない。コロナ禍の残影のような作業に映る。
 まだなにかないだろうか。古い番号で登録されているものを思い返す。
 ほかの国はどうなのかわからないが、パスポートは更新されても、番号が変わらなければ、これらの作業は軽減される。しかしそれを発展させていくと、ひとりにひとつのパスポート番号という発想に結びつき、ID番号論争に組み込まれていってしまう気がする。マイナンバーカードと同質の問題につながってしまうのだ。
 いや、時代は先に進んでいるのか。今回、海外渡航用のワクチン接種証明書をつくり直したが、電子版を更新するときはマイナンバーカードを使った。
 更新するたびに新しい番号になる……。しかし海外に出ると、IDのようにその番号は使われる。パスポート番号の話は、意外と深そうだ。

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Posted by 下川裕治 at 12:15Comments(0)

2022年10月17日

「コロナ禍を旅する」第2弾が発売に

「コロナ禍を旅する」の第2弾、エジプト・エチオピア編が発売になった。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B0BHY2HYYS/ref=dbs_a_def_rwt_hsch_vapi_tkin_p1_i4
「コロナ禍を旅する」第1弾のタイ編
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B9XMHCKP?ref_=pe_3052080_276849420
 では試行錯誤があったが、今回はなんとかスムーズに進み、紙に印刷するタイプの本も同時発売することができた。kindleのこの本の表示画面にあるペーパーバックのボタンが入口になる。980円という価格になってしまい心苦しいが。
 今日、どんな本になって印刷されるのかを知りたくて注文すると、翌日に配送されるという連絡が送られてきた。これはオンデマンド印刷というもので、1冊単位で注文に対応するのだが、この早さには、我ながら戸惑ってしまう。
 第1弾のタイ編は、隔離をするためにパスポートに出国スタンプが捺されるような旅だった。バンコクのホテルで2週間、帰国後に空港近くのホテルで3日間の強制隔離。そして自宅でさらに10日。合計で4週間の隔離を経験した。いまの状況からすれば、それは旅だったのか……と思えてしまうが、1年7ヵ月前、世界はまだ新型コロナウイルスの感染拡大に怯え、それでも人の行き来をなんとか戻そうともがいていた。タイのバンコク、そして日本も重苦しい空気に包まれていた。
 それでも僕は旅に出た。第1弾を読んだ人からは、旅行作家の矜持といもいわれたが、僕のなかでは意地というほうがしっくりときた。旅を描く半生を送ってきた僕は、旅に出ない日々を受け入れる勇気がなかったといったほうが正確かもしれない。
 そしてタイへの旅から5カ月後、僕は再び飛行機に乗った。行き先はエジプトのカイロだった。エチオピアのアディスアベバを経由するエチオピア航空のシートに座ることになる。
 最初に読んだ編集担当者は、「面白い」といってくれた。おそらく第1弾に比べれば、はるかに多くの旅の要素が入ってきたからだろうと思う。日本から遠く離れれば離れるほど旅ができるようになる。それがほぼ1年前の世界だったような気がする。「コロナ禍を旅する」というシリーズは、今後、世界一周からカンボジアへの旅とつづいていく。シリーズの構成からすれば、タイ編という助走を経て、旅の核心に近づいていくのが第2弾である。
 エジプトへの旅を模索するなかで、僕は40年前の旅に戻っていった。僕は当時の旅日記を携えて飛行機に乗り込んでいった。理由は単純だ。僕をいっぱしのバックパッカーに育ててくれたのはアジアではなく、エチオピアだったからだ。そして40年前、黄熱病の予防接種を受けるために奔走したカイロの街で、今回はPCR検査を受けるために歩きまわることになる。それは旅のらせん状式の進化なのか。「コロナ禍を旅する」第2弾は、そんな旅を描いたつもりだ。

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Posted by 下川裕治 at 18:57Comments(0)

2022年10月10日

ポストコロナの旅は寝袋持参?

 バンコクから帰国した。安い航空券をとるのはかなり難しくなっている。入国規制が緩和され、移動する人は増えているのだが、飛行機の便数が戻らないのだという。コロナ禍を乗り切るために、航空会社はスタッフを減らした。利用客が戻ったからといって、すぐにスタッフは増えない。
「台湾のエバー航空なら……」
 と旅行会社からいわれた。台湾はまだ入国規制をしているため、利用客が少ないようだった。運賃も安かった。台北経由で、乗り継ぎはよくないためだという。夜の9時頃に台北に着いて、翌朝の8時すぎの東京行きに乗る。台北の空港で11時間ほどをすごさなくてはならない。
 いま運営しているYouTubeで、さまざまな都市への安い航空券のみつけ方を毎週アップしている。そこでも乗り継ぎ時間が長いほど運賃が安くなる傾向ははっきりしている。
 台北でひと晩をすごすことははじめてではない。
 世界のさまざまな空港で夜明かしをしてきた。とくにアジアの空港が多い。そんな利用客に優しい空港といったらシンガポールのチャンギ空港だろうか。体をのばして睡眠できるスペースがある。台北の桃園国際空港も、夜明かし組のことを考えている。
 空港の案内図を見ると、「休閑」という文字がみつかる。そこに行くと、照明をやや落としたエリアがあり、ビジネスクラスのような椅子が並んでいる。ボタンを押すと、フットレストがあがってくる。背は倒れないが、椅子が大きいので体を丸めるようにすれば、体をほぼ水平にすることができる。
 僕はこの場所を知っていた。今回もそこに向かい、勝手知ったる……風に体を横に。薄手のジャンパーを羽織り、フードをすっぽりとかぶる。
 これで熟睡……のはずだったが、前に寝たときと違った。寒いのだ。空港で寝るときにいつも思うのだが、夜になると、人が少なくなるのか、寒くなる。ましてやコロナ禍。この仮眠スペースも使う人も少なかったはず。冷気が澱のように溜まっているのかもしれなかった。
 寝袋があれば……。そう思った。安眠が約束される。昔、旅に出るときは、寝袋を持参していた。ひどい宿やバスターミナルでの仮眠では重宝した。いつの間にか、ザックになかに寝袋を入れない旅になっていた。
 いま、海外に出ると円安がこたえる。それがコロナ禍が収束に向かう時期に突きつけられた日本の現実である。燃油代もあがり、安い航空券を求めていくと、空港での待ち時間が長くなる。これからの僕の旅は寝袋持参?
 そんな気がした。
 それが僕にとってのポストコロナの旅?

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Posted by 下川裕治 at 11:57Comments(0)

2022年10月03日

バンコク・カオサンの新陳代謝

 バンコクに滞在している。12月に発売になる「歩くバンコク」の製作のためだ。今日は特集ページ。料金交渉なしでトゥクトゥクに乗ることができるアプリを体験した。今回はいい内容になりそうだ。3年ぶりの発行である。充実したものにしないと読者に申し訳ない。
 コロナ禍で閉鎖した店が多く、地図チェックも大変だ。僕の担当はカオサン。2日間ほどカオサンを歩いた。
 地図をチェックしながら、
「こうして街は変わっていくんだ」
 と何回も呟いていた。たしかに閉鎖したゲストハウスやレストランは少なくない。しかし街は6~7割りは復活している。しかし地図をチェックしていくからわかるのだが、かなりの店が入れ替わっている。
 クイッティオというタイ風のそばの食堂がカフェになっていたりする。ゲストハウスのなかには、名前が変わり、改装されてずいぶんきれいになったところも少なくない。おそらくオーナーが変わったのだろう。
 レストランもずいぶん変わった。店名が変わり、タイ料理中心だった店が、日本料理をメニュー加えて再出発。観光客が完全に戻ったわけではないが、これからなんとかやっていこうというエネルギーが伝わってくる。
 しかし街並みが変わったわけではない。店のスペースは同じだが、内装や出す料理、そして並ぶ品が変わっているわけで、さっと見た感じは以前のカオサンと変わらない。しかし3年前の地図と比べると、店の内容が変化している。
 これがカオサンの新陳代謝ということなのだろう。
 新型コロナウイルスの嵐が吹き荒れ、姿を見せない観光客を前に、多くの店主は天を仰ぎ、涙ながらに店を閉めた。タイは助成金や給付金の類がほとんどなかったから、客がこなければ閉鎖するしかない。しかし資金のある人が、ポストコロナに期待をかけて新しい店をつくる。こうして街が変わっていく。
 世界はウイルスに留まらず、災害などに常に晒されている。壊滅的な打撃を受けるわけだが、そのなかから復活していく。カオサンを見ていると、そこに見えざる手が作用し、街の新陳代謝が起きる。振り返ってみれば、コロナ禍をテコに街が生まれ変わる。
 転じて日本。手厚いかどうかは評価が分かれるかもしれないが、そこそこの助成金が支給され、多くの店が廃業を免れた。そしてコロナ禍が去りつつあるいま、苦しいといいながらも、コロナ禍前と同じように店を開いている。だから日本の街は変わらない。新陳代謝は起きなかったといってもいい。
 しかし外観は変わらないというのに、なかをのぞくと、コロナ禍前とは確実に変化しているカオサンからは、日本にはないエネルギーが伝わってくる。それは成熟した国と、まだ手荒さを残した国との違いなのだろうか。
 カオサンの地図チェックで、足は棒のようになったが、心は少し軽くなった。

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