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ナムジャイブログ

2024年12月02日

のびた麺が好き

 歯が悪い。歯科医によると、歯の形がよくないという。20歳の頃には、治療はしてはいたが、ほぼすべての歯が虫歯だった。
 最近はインプラントの広告をよく見るが、当時は上から金属で歯を覆う治療法だった。しかし歳をとると歯茎が後退する。歯を覆う金属と歯茎の間が露出してしまい、そこからまた虫歯になる。こうしてしだいに歯は浸食されてしまい、入れ歯に進んでいく。僕の歯はその王道をしっかり歩み、3年ほど前から入れ歯を着用するようになった。
 僕は入れ歯というものを甘く考えていた。それを入れれば、前と同じようにものを噛むことができると思っていた。しかしそういうものではなかった。入れ歯と土台の接合はそううまくいかず、硬いものを噛む力が弱くなってしまった。つまり、硬い食べ物を噛む食感は戻ってこなかった。自然と硬いものを遠ざけるようになってしまった。
 柔らかいもの……主食系でいえば、歯の負担が少ない麺類に傾いていってしまう。それものびた麺のほうが食べやすいという感覚に進んでしまった。
 歯が悪いからなのかもしれないが、昔からのびた麺が好きだった。店で注文するときはそうでもないのだが、カップ麺となると意図的に湯を入れてからの待ち時間が長くなっていった。
 カップ麺は、熱湯を注いでから3分とか5分といった、食べ頃待ち時間が表示されている。その時間はどうやって決めているのかはわからない。何回も試食し、誰もがおいしいと感じる麺の硬さということなのだろうが、その努力を裏切るように、僕は表示時間の倍近い時間を待つようになっていった。
 そういう食べ方をする人は少ないのかもしれないが、10分近く待ったカップ麺はなかなかいける。カップ麺によっては、スープがなくなってしまうほど麺はふやけることもあるが、それもまた食べやすい。
 しかし体にはよくないと思う。塩分が含まれたスープを麺が吸ってしまうわけだから、通常の食べ方よりは塩分が多くなる。カップ麺を完食することになるのだ。
 海外に出てもカップ麺はよく食べる。アジアでは、カップ麺に限らず、インスタント麺というものへの評価が高い。麺のひとつのカテゴリーととらえている国は多い。タイもそのひとつだ。庶民食堂に入り、パットシーイウを注文する。通常はセンヤイと呼ばれるきしめんのような麺を使うことが多い。しかしその麺が品切れのとき、
「マーマーでもいい?」
 といわれることがある。マーマーはインスタント麺の商品名なのだが、いつ頃からかインスタント麺はすべてこう呼ばれるようになった。
 そして店で料理をする女性の感覚では、センヤイとマーマーは同格である。できあがった料理の金額も変わらない。
 僕のバンコクでの宿泊先は仕事場になってきている。原稿に追われたり、なんだか気分が落ち込んでいるとき、食堂で食べる気力がないこともある。そんなときは、部屋でカップ麺を啜ることは珍しくない。日本でカップ麺を食べるときのように、表示されている待ち時間を無視し、10分近く待つ。
「??ッ」
 バンコクでいつも悩むのは、あまり麺がのびないことだ。20分も待てば違うのかもしれないが、表示時間の倍程度ではまだ麺はかなり硬い。おそらく麺の製法が違うのだろう。「もうちょっと柔らかいといいんだけどな」
 などと呟きながら麺を啜る。入れ歯に頼る男の寂しい呟きでもある。

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Posted by 下川裕治 at 13:14│Comments(1)
この記事へのコメント
本日、新刊プレゼントの歩くバンコクが届きました。ありがとうございます。
本を開き、バンコクBTS,MRTの路線拡張ぶりを改めて実感し、天使の都も随分便利になったものだなあ、と思いました。
長い間、下川さんの著書でアジアの楽しさを教えていただきました。これからもよろしくお願いします。
Posted by フラキート at 2024年12月02日 14:58
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