2023年10月23日
豊かになるほどウイルスに晒される
バングラデシュでデング熱の大流行が起きた。9月末の時点で感染者は13万人を超えていた。900人を超える人が死亡した。それから1週間後に訊くと、感染者は20万人を超えていた。しかし回復して退院する人もかなりいて、医療機関の混乱は9月末ほどではなくなってきたという話だった。
デング熱はネッタイシマカとヒトスジシマカという蚊が媒介する。蚊が媒介する感染症ではマラリアが知られているが、マラリアはマラリア原虫。デング熱はウイルスだ。
デング熱はバングラデシュが東パキスタンといわれた時代に確認された。ダッカ熱と呼ばれていたときもあった。
ひとりのバングラデシュ人がこんな話をしてくれた。
「デング熱は富裕層の病気だといわれていたんです。ネッタイシマカとヒトスジシマカはある程度きれいな水に卵を生み落とす。貧しい人たちが暮らす一帯は、あまりに水が汚れていて、蚊も卵を生まないんですよ」
感染が拡大した理由は大雨だった。今年の4月から6月、バングラデシュは大雨に見舞われた。その雨で汚れた水が流され、貧しい人が暮らす一帯やスラムの水がきれいになってしまった。そこに蚊が卵を生んだのだという。貧困層が暮らすエリアは人口が密集しているから、感染が一気に広まった。貧困層は熱が出てもすぐには治療を受けない。死亡者が多くなった一因は発生エリアが関係しているらしい。
ではなぜ、今年は大雨になったのか。専門家は温暖化と結びつける。雨が降る時期が温暖化でずれ、感染拡大につながったと指摘する。
地球上には夥しい数のウイルスがある。気候が安定していると、あるバランスが保たれるようになり、ウイルスもおとなしくしている。ワクチンなどの対応もある。日本のインフルエンザにしても、冬になる前にワクチンを打つ人が多い。しかし温暖化などでその時期がずれると、ワクチンが効いている時期が合わなくなってしまう。
感染拡大のもうひとつの要因は人口集中だった。ダッカの人口は2000万人を超えているといわれる。経済成長期に入ったバングラデシュは、工場が多い都市に人口が集まる。この20年でダッカの人口は2倍に増えた。人々が密集して暮らす環境は感染拡大を招きやすい。
新型コロナウイルスで、世界は大変な目に遭った。パンデミックの要因を突き詰めていけば、そのひとつに都市化や人口の集中が挙がってくる。気候変動が新型コロナウイルスの感染に影響を与えたという説はあまり耳に入ってこないが、蚊が媒介するようなデング熱のようなウイルスになると、話は変わってくる。
しかし人口集中と気候変動を解消させていく方法論はあまりに脆弱だ。それは生活していくための方法論と深くかかわっているからだ。生活が豊かになればなるほど、人類はウイルスの脅威に晒されていくという論理も成りたってしまう。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
デング熱はネッタイシマカとヒトスジシマカという蚊が媒介する。蚊が媒介する感染症ではマラリアが知られているが、マラリアはマラリア原虫。デング熱はウイルスだ。
デング熱はバングラデシュが東パキスタンといわれた時代に確認された。ダッカ熱と呼ばれていたときもあった。
ひとりのバングラデシュ人がこんな話をしてくれた。
「デング熱は富裕層の病気だといわれていたんです。ネッタイシマカとヒトスジシマカはある程度きれいな水に卵を生み落とす。貧しい人たちが暮らす一帯は、あまりに水が汚れていて、蚊も卵を生まないんですよ」
感染が拡大した理由は大雨だった。今年の4月から6月、バングラデシュは大雨に見舞われた。その雨で汚れた水が流され、貧しい人が暮らす一帯やスラムの水がきれいになってしまった。そこに蚊が卵を生んだのだという。貧困層が暮らすエリアは人口が密集しているから、感染が一気に広まった。貧困層は熱が出てもすぐには治療を受けない。死亡者が多くなった一因は発生エリアが関係しているらしい。
ではなぜ、今年は大雨になったのか。専門家は温暖化と結びつける。雨が降る時期が温暖化でずれ、感染拡大につながったと指摘する。
地球上には夥しい数のウイルスがある。気候が安定していると、あるバランスが保たれるようになり、ウイルスもおとなしくしている。ワクチンなどの対応もある。日本のインフルエンザにしても、冬になる前にワクチンを打つ人が多い。しかし温暖化などでその時期がずれると、ワクチンが効いている時期が合わなくなってしまう。
感染拡大のもうひとつの要因は人口集中だった。ダッカの人口は2000万人を超えているといわれる。経済成長期に入ったバングラデシュは、工場が多い都市に人口が集まる。この20年でダッカの人口は2倍に増えた。人々が密集して暮らす環境は感染拡大を招きやすい。
新型コロナウイルスで、世界は大変な目に遭った。パンデミックの要因を突き詰めていけば、そのひとつに都市化や人口の集中が挙がってくる。気候変動が新型コロナウイルスの感染に影響を与えたという説はあまり耳に入ってこないが、蚊が媒介するようなデング熱のようなウイルスになると、話は変わってくる。
しかし人口集中と気候変動を解消させていく方法論はあまりに脆弱だ。それは生活していくための方法論と深くかかわっているからだ。生活が豊かになればなるほど、人類はウイルスの脅威に晒されていくという論理も成りたってしまう。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」。
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Posted by 下川裕治 at 13:32│Comments(1)
この記事へのコメント
前回の記事、秋の夜長の妄想、で下川先生が仰っていたイザベラバード著者の日本紀行史、購入しました。丁度、この本を購入した時、自分の住む地方紙で、イザベラ氏著者、この本を読み上げて、日本の生活文化を有名な歴史学者が述べている記事を読み、これも何かの縁と感じています。下川先生のコラムを読んでいると、日常では余り使わない漢字、それとも自分が勉強しないからか、読み方を調べて読んでいる始末です。アジア社会、日本の社会も一緒に照らし合わせて、記事にするコラムは、自分の教科書になっています。
Posted by Yokoyama Jnichi at 2023年10月24日 15:53
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