2024年03月18日
240年ぶりの夢
2月下旬にバングラデシュに行ってきた。学校を運営している関係で、滞在は南部のコックスバザールになる。いつも学校運営にかかわってくれているラカイン人の家に泊めさせてもらっている。
コックスバザールではこの街に住むラカイン人と話をすることが多い。今回、彼らと話すと、一様に、ある種の高揚感が伝わってきた。言葉が元気なのだ。
原因は隣国、ミャンマーの戦況である。
「ついにチャンスがきたかもしれない」
「ラカイン人の独立国も夢じゃない」
彼らは口々に語る。
ラカイン人はかつて、いまのミャンマーとバングラデシュにまたがる一帯にラカイン王国を築いていた。この王国はビルマ系の王朝に滅ぼされていく。ラカイン人とビルマ系の人々の確執はそこからはじまったわけだ。
ミャンマーは国名が変わったので混乱しがちだが、ミャンマーはビルマ人が主導権を握ってきた国である。しかし、いまのラカイン人が抱くビルマ人に対する反発の多くは、第2次大戦後に根ざしている。戦後、ビルマはネ・ウィンが率いる軍事政権の国に傾いていく。そのなかでラカイン人は冷遇されつづけてきた。
その後、民政化が実現し、アウンサンスーチー氏が率いる民主国家になっていくが、そこでもラカイン人は唇を噛むことになる。つまりラカイン人は軍事政権だけでなく、民主化政権も支持していなかった。その構造は、ラカイン人以外の少数民族が置かれた状況に似ている。ミャンマーにはラカイン人以外にシャン人、チン人、カチン人……などの少数民族がいる。主要な少数民族である7グループは、それぞれが軍隊をもち、ビルマ人の政権とは距離を置いてきた。
そこでクーデターが起きる。アウンサンスーチー氏は拘束され、再び軍事政権に戻っていった。多くの国民が軍事政権に反発し、その混乱はいまもつづいている。
そのなかで昨年の10月、3つの少数民族軍が連合を組み、軍事政権を主導するミャンマー国軍に反旗を翻した。少数民族軍連合軍にはラカイン人の軍隊であるアラカン軍(AA)も加わっていた。
少数民族連合軍は大方の予想に反し、国軍の拠点を次々に制圧していった。シャン州北部では国軍の撤退がつづき、いまの主戦場はラカイン人の土地であるラカイン州に移っている。
僕は運営するユーチューブチャンネルのなかで、週1回、ミャンマー速報を配信している。
https://www.youtube.com/watch?v=XT_WEkanpiQ&t=163s
これは毎週、僕がミャンマーにいる日本人やミャンマー人から聞いた話をもとにまとめているものだが、ミャンマーの少数民族エリアでの国軍の劣勢は明らかだ。
今週からそのユーチューブチャンネルのなかで、ラカイン州の戦況を地図でも伝えることにした。アラカン軍の支配エリアが、少しずつ増えているからだ。ラカイン州はすでに半分近いエリアがアラカン軍のコントロール下にある。
この状況をコックスバザールにいるラカイン人も注視している。自らの民族の軍隊が、ミャンマーのなかで支配エリアを広げつつある。この勢いでいったら、ラカイン州全体がアラカン軍エリアになるかもしれない。
そこから独立の話も湧きあがってくる。大幅な自治権獲得という話もある。ミャンマーにいるラカイン人のなかには、国軍はそれほど弱体化していないという分析もあるが。
しかしいま、ラカイン人は夢をみはじめている。240年ぶりの民族の夢だ。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
コックスバザールではこの街に住むラカイン人と話をすることが多い。今回、彼らと話すと、一様に、ある種の高揚感が伝わってきた。言葉が元気なのだ。
原因は隣国、ミャンマーの戦況である。
「ついにチャンスがきたかもしれない」
「ラカイン人の独立国も夢じゃない」
彼らは口々に語る。
ラカイン人はかつて、いまのミャンマーとバングラデシュにまたがる一帯にラカイン王国を築いていた。この王国はビルマ系の王朝に滅ぼされていく。ラカイン人とビルマ系の人々の確執はそこからはじまったわけだ。
ミャンマーは国名が変わったので混乱しがちだが、ミャンマーはビルマ人が主導権を握ってきた国である。しかし、いまのラカイン人が抱くビルマ人に対する反発の多くは、第2次大戦後に根ざしている。戦後、ビルマはネ・ウィンが率いる軍事政権の国に傾いていく。そのなかでラカイン人は冷遇されつづけてきた。
その後、民政化が実現し、アウンサンスーチー氏が率いる民主国家になっていくが、そこでもラカイン人は唇を噛むことになる。つまりラカイン人は軍事政権だけでなく、民主化政権も支持していなかった。その構造は、ラカイン人以外の少数民族が置かれた状況に似ている。ミャンマーにはラカイン人以外にシャン人、チン人、カチン人……などの少数民族がいる。主要な少数民族である7グループは、それぞれが軍隊をもち、ビルマ人の政権とは距離を置いてきた。
そこでクーデターが起きる。アウンサンスーチー氏は拘束され、再び軍事政権に戻っていった。多くの国民が軍事政権に反発し、その混乱はいまもつづいている。
そのなかで昨年の10月、3つの少数民族軍が連合を組み、軍事政権を主導するミャンマー国軍に反旗を翻した。少数民族軍連合軍にはラカイン人の軍隊であるアラカン軍(AA)も加わっていた。
少数民族連合軍は大方の予想に反し、国軍の拠点を次々に制圧していった。シャン州北部では国軍の撤退がつづき、いまの主戦場はラカイン人の土地であるラカイン州に移っている。
僕は運営するユーチューブチャンネルのなかで、週1回、ミャンマー速報を配信している。
https://www.youtube.com/watch?v=XT_WEkanpiQ&t=163s
これは毎週、僕がミャンマーにいる日本人やミャンマー人から聞いた話をもとにまとめているものだが、ミャンマーの少数民族エリアでの国軍の劣勢は明らかだ。
今週からそのユーチューブチャンネルのなかで、ラカイン州の戦況を地図でも伝えることにした。アラカン軍の支配エリアが、少しずつ増えているからだ。ラカイン州はすでに半分近いエリアがアラカン軍のコントロール下にある。
この状況をコックスバザールにいるラカイン人も注視している。自らの民族の軍隊が、ミャンマーのなかで支配エリアを広げつつある。この勢いでいったら、ラカイン州全体がアラカン軍エリアになるかもしれない。
そこから独立の話も湧きあがってくる。大幅な自治権獲得という話もある。ミャンマーにいるラカイン人のなかには、国軍はそれほど弱体化していないという分析もあるが。
しかしいま、ラカイン人は夢をみはじめている。240年ぶりの民族の夢だ。
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Posted by 下川裕治 at 10:43│Comments(0)
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