2024年04月01日
林住期旅の初心者
4月5日に発売になる『シニアになって、ひとり旅』の見本誌が届いた。
https://qr.paps.jp/qT7y9
格別にうれしい。これまで100冊を超える本を書いてきたが、今回はその意味が違う。
新型コロナウイルスの嵐が去り、はじめての書きおろした一冊である。コロナ禍だからといって、本が発行されなかったわけではない。分野によってはよく売れた本もあるという。しかし旅の本は違った。旅は不要不急とされ、封印されていった。その環境下では、旅の本を発刊できるわけがなかった。
新型コロナウイルスの収束時期に明確なものはない。知人のひとりは今年の1月に感染し、2週間近く入院していた。日本では5類に移行した昨年の3月を区切りとする向きが多い。しかし一度途切れた旅が復活してくるのには時間がかかる。僕の旅もそこからリスタートし、ようやく1冊の本にまとまった。
恐る恐ると復活していった旅である。ザックのなかにはまだマスクが入っていた。歩いたエリアも海外ではなく、日本である。
2019年の末に中国の重慶から広まりはじめた感染は3年半ほどで収束し、そこから約1年。4年以上も、書きおろしの本を発刊することができなかったのだ。
その間に僕の旅も変わった。コロナ禍前はカメラマンが同行することが多かったが、それが難しくなった。経費の調達ができなくなってしまったのだ。書籍の売りあげが低迷するなかでのコロナ禍だった。それまではネットに旅の記事を書き、その原稿料を経費にあてていたのだが、コロナ禍の間に、旅関係のサイトは次々になくなっていった。ひとりで旅に出るしかなくなってしまったのだ。本のタイトルは、『シニアになって、ひとり旅』だが、「コロナ禍を経て、ひとり旅」と訳せなくもない。
昨年の夏、千葉の小湊鐵道のキハに乗ることから旅ははじまった。キハというのは、僕が子供の頃、まるで国民列車のように全国を走っていたJR(当時は国鉄)のディーゼル気動車である。そこから北海道に渡った。苫小牧発仙台行きフェリーに乗った。吉田拓郎の『落陽』という歌で描かれたフェリーだ。そして東北の花巻。市内に残ったデパート大食堂へ……。
旅の最後は小豆島だった。「咳をしても一人」という句で知られる尾崎放哉が息を引きとった島だった。小豆島を訪ねたときは、寒風に晒され、宿では暖房が必要な時期になっていた。
当然だが、すべてひとり旅だった。
この本の「はじめに」に書かせてもらったが、僕の旅をヒンドゥー教に重ね合わせている。ヒンドゥーの教えでは、人生を四つのステージに分けている。勉学に励む学生期、家庭生活を営む家住期、仕事や家族と離れ、林のなかで自分に向き合う林住期、そして放浪を置き死を迎える遊行期である。僕の旅は林住期に入ったとも思っている。旅をしながら自分と向き合うほど大げさなものではないのだが。
はたしていつまで旅をつづけることができるのかもわからない不安のなかで、旅をリスタートさせた。林住期の初心者の旅……。
書ききれたかどうか……。不安のなかの発刊でもある。
■YouTube「下川裕治のアジアチャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg
面白そうだったらチャンネル登録を。
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji
https://qr.paps.jp/qT7y9
格別にうれしい。これまで100冊を超える本を書いてきたが、今回はその意味が違う。
新型コロナウイルスの嵐が去り、はじめての書きおろした一冊である。コロナ禍だからといって、本が発行されなかったわけではない。分野によってはよく売れた本もあるという。しかし旅の本は違った。旅は不要不急とされ、封印されていった。その環境下では、旅の本を発刊できるわけがなかった。
新型コロナウイルスの収束時期に明確なものはない。知人のひとりは今年の1月に感染し、2週間近く入院していた。日本では5類に移行した昨年の3月を区切りとする向きが多い。しかし一度途切れた旅が復活してくるのには時間がかかる。僕の旅もそこからリスタートし、ようやく1冊の本にまとまった。
恐る恐ると復活していった旅である。ザックのなかにはまだマスクが入っていた。歩いたエリアも海外ではなく、日本である。
2019年の末に中国の重慶から広まりはじめた感染は3年半ほどで収束し、そこから約1年。4年以上も、書きおろしの本を発刊することができなかったのだ。
その間に僕の旅も変わった。コロナ禍前はカメラマンが同行することが多かったが、それが難しくなった。経費の調達ができなくなってしまったのだ。書籍の売りあげが低迷するなかでのコロナ禍だった。それまではネットに旅の記事を書き、その原稿料を経費にあてていたのだが、コロナ禍の間に、旅関係のサイトは次々になくなっていった。ひとりで旅に出るしかなくなってしまったのだ。本のタイトルは、『シニアになって、ひとり旅』だが、「コロナ禍を経て、ひとり旅」と訳せなくもない。
昨年の夏、千葉の小湊鐵道のキハに乗ることから旅ははじまった。キハというのは、僕が子供の頃、まるで国民列車のように全国を走っていたJR(当時は国鉄)のディーゼル気動車である。そこから北海道に渡った。苫小牧発仙台行きフェリーに乗った。吉田拓郎の『落陽』という歌で描かれたフェリーだ。そして東北の花巻。市内に残ったデパート大食堂へ……。
旅の最後は小豆島だった。「咳をしても一人」という句で知られる尾崎放哉が息を引きとった島だった。小豆島を訪ねたときは、寒風に晒され、宿では暖房が必要な時期になっていた。
当然だが、すべてひとり旅だった。
この本の「はじめに」に書かせてもらったが、僕の旅をヒンドゥー教に重ね合わせている。ヒンドゥーの教えでは、人生を四つのステージに分けている。勉学に励む学生期、家庭生活を営む家住期、仕事や家族と離れ、林のなかで自分に向き合う林住期、そして放浪を置き死を迎える遊行期である。僕の旅は林住期に入ったとも思っている。旅をしながら自分と向き合うほど大げさなものではないのだが。
はたしていつまで旅をつづけることができるのかもわからない不安のなかで、旅をリスタートさせた。林住期の初心者の旅……。
書ききれたかどうか……。不安のなかの発刊でもある。
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Posted by 下川裕治 at 11:29│Comments(0)
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