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ナムジャイブログ

2024年03月11日

答えの知った問題を解く

 ときどき山手線に乗る。自宅から事務所に向かうとき、決まったルートはない。用事や気分で変わる。自宅の最寄駅からJRで高田馬場に出、そこからバスに乗ることも多い。そのとき、新宿から高田馬場までの短い区間、山手線を使うことになる。
 コロナ禍前もこの区間に乗っていた。コロナ禍が明け、最近、思うことがある。確実に乗客が減った……と。
 代々木方面からやってくる電車のドアが開く。ふっと車内を見ると、空席があるのだ。通勤ラッシュの時間ではないが、以前は空席など望めなかった。そもそも山手線に乗るとき、空席は期待しない。
 コロナ禍で広まった在宅勤務の影響だろうか。高齢化と少子化が進むなかで、東京の労働人口が減ってきているということか。
 乗客が減っていけば、やがて、JRは便数を減らすことになる。2~3分間隔でやってくる電車が5分間隔に……という世界が待っているわけだ。こうして便利な街は少しずつ、不便な街になっていく。これから日本人は退化していくサービスというものを体感していくことになる。
 4月に『シニアになって、ひとり旅』という本が発売になる。そのなかでキハに乗る旅を書いている。キハというのは、かつて日本の多くの路線を走っていたJRの気動車である。そのなかで、高度成長の時代、東京の電車はいかにひどい状態だったかという話に触れている。
 1962年当時、東京の電車はときに乗車率が300パーセントを超え、乗客の圧力で窓ガラスが割れるという事故が何回も起きている。秋葉原駅では草履やサンダルの貸し出しサービスもあった。あまりの混雑で、乗客の靴が脱げ、探すこともできない乗客の救済策だった。そこから東京を走るJRや私鉄は増便とスピードアップを図っていく。輸送力を高めることが急務だったのだ。東京の電車は時速100キロを超えるようになり、2分から3分で電車がやってくるというインフラが整っていくわけだ。
 いまの山手線は、その時代にセッティングされている。しかし日本は構造的な不況に陥り、高齢化と少子化に晒されていく。電車でいえば、高度なインフラはピークを越えたということだろうか。
 こんな話をしていると、20年ほど前の北京の地下鉄を思い出す。とくに1号線がひどかった。終点に着くと、車内にはいくつもの靴が散乱していた。上海の地下鉄も同じようなものだった。浦東空港方面に向かう新しい地下鉄路線が開通し、それに乗ると、とんでもない混み具合だった。そのときは上海在住の日本人と一緒だった。「開通初日から、この混み具合だそうです」と教えてくれた。
 その後、北京や上海の地下鉄は路線が急速に増え、おそらくスピードも早くなったはずだ。日本と中国の経済成長には20年以上の時差がある。やがて中国の地下鉄も、東京と同じ退化の道を歩んでいく気もする。
 長く生きるということは、そういう国の栄枯盛衰のようなものがわかってしまう気になるという面がある。答えを知った問題を解くようで、どこかつまらない。しかし現実はもう少し多様で、紋切型の進み方はしない。すべてを自分の人生経験に照らし合わせて答えを導けるほど単純ではない。老化とは思考の単純化ということだろうか。

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Posted by 下川裕治 at 10:33│Comments(1)
この記事へのコメント
先日、朝日新聞に記載されていた2040年8がけ社会問題。当たり前のサービスが当たり前じゃ無くなってくる時代がもうすぐ到達するという記事ですが、下川先生なら、もうこの問題には十分案じていると察します。これからの日本、世界の生活が今以上に不便で周りを見たら高齢者ばかりの時代が15年後に到来します。
Posted by 横山順一 at 2024年03月12日 17:08
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