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ナムジャイブログ

2024年02月26日

高齢化と少子化が進む天体

 あれは単なる強がりだったのだろうか。日本の経済力が衰退傾向に入った昭和の終わりから平成にかけ、日本ではしきりと幸せの形の話が交わされていた。つまり、がむしゃらに働き、経済成長を求めていく生き方への警鐘である。こういう発想には若い人ほど敏感で、東京を引き払って里山の暮らしを選ぶ人も増え、テレビでは、収入は少ないが、その暮らしがいかに人間らしく、豊かなものか、声高に語っていたはずだ。そのとき、その国の豊かさを、名目のGDPである国民総生産で測ることの無意味さという話も広がっていたように思う。
 ところが最近、国民総生産がドイツに抜かれて4位に転落したという報道に、日本人は妙に浮足立ち、「どうしたら日本経済は復活するのか」といった話がしきりと耳に届くようになった。不況のなかで日本人は豊かさへの道筋をつくっていったかのように見えたが、あれは衰退を認めたくない方便だったのか。
 僕は経済の専門家ではない。しかしよく海外への旅に出る。その感覚でいえば、日本の国民総生産がこれまで3位だったことが意外ですらあった。
 いま、バングラデシュにいるが、その経済成長の勢いは息を飲むほどだ。かつて世界の最貧国のひとつに数えられ、海外からの多くの援助がこの国を支えていた。北海道の倍ほどの広さの国土に1億7000万人もの人が住んでいる。歴史的な経緯もあって、狭い土地に人々が押し込められたようなところがあるが、とにかく大変な国である。
 世界の最貧国ということは、賃金も低いわけで、それを求めて世界のアパレル企業がバングラデシュに目をつけることになる。それが10年ほど前だろうか。それからは破竹の勢いである。貿易会社に勤めるバングラデシュ人の知人の給料はぐんぐんあがり、ダッカの下町だが、3LDKのマンションまで買ってしまう。ダッカではメトロが走りはじめ、路上で飲むミルクティーの値段はここ10年で3倍以上になった。旅行者はこうして世界経済の平準化を実感していくわけだ。
 僕は南部のコックスバザールという街で30年以上、学校運営にかかわっている。援助する立場である。だから衰退する日本と、勢いに乗ったバングラデシュの差を痛感してきた。
 さまざまな国を歩いてわかることは、その国の経済力は人の人生に似ているということだ。高度成長は必ず終わっていくということでもある。しばらく中国の経済力が世界を席巻したが、これから10年、静かに衰退していく。それを日本人は若干の余裕をもって眺められるのは、かつて同じように下降線を辿った記憶と重なるからだ。
 ざっくりと長い目で地球を眺めれば、高齢化と少子化が進んでいく天体である。それぞれの国に進み方の時差があるから、それが経済成長を生んでいく。人の一生はその時差に左右されて終わっていく。国民総生産の盛衰も同じような時間感覚かもしれない。しかし100年単位で見れば、やがて国民総生産が尺度になる時代は終わっていく。豊かさは経済力とは別の時空に構築されているはずだ。
 経済が衰退していくなかで、日本人はそれを探る入り口に立っていた気がしていた。しかしそういうことではなかったらしい。少し拍子抜けしてしまっている。

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Posted by 下川裕治 at 14:39│Comments(0)
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