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ナムジャイブログ

2013年07月08日

コールセンター・トラベラー

 僕は誤解していたのかもしれない。いや、それが年齢の差ということなのだろうか。
 先日、ある知人が日本で放映された報道番組の話をしてくれた。たぶん西日本のどこかの街だったと思うが、そこにあった従業員が2000人規模の工場が閉鎖になった。レポーターが従業員たちにマイクを向ける。
「これからどうするんですか?」
 転職先がみつからない……といった返事に続いて、こう答えた若い女性の従業員がいたのだという。
「タイのコールセンターで働こうかと思っています」
 この種の報道をするとき、何人にもインタヴューをしている。そのなかで、どのコメントを使うかで、番組の意図がわかる。工場が閉鎖されたことの大変さを伝えようとしたのだ。つまり、転職先がみつからないことと、タイのコールセンターで働くことが同じ文脈のなかにあるわけだ。
 タイでのコールセンターの話は、若者だけでなく、かなりの日本人が知っていることなのだろう。月給約7万5000円。その安さも人々のなかに織り込まれている。そんな仕事しか、工場が閉鎖してしまった日本人にはみつからないのだ……と。
 タイの長く住む日本人も、それに近い反応を示す。そういう貧しい人たちは、日本人のイメージを悪くする……。そんなニュアンスが言葉の端々から伝わってくる。
 結局は僕も、その認識のなかにいたのかもしれない。そんな気がするのだ。
 コールセンターで働く若者が気になって、何人にもあった。その人たちの話は、僕の本のなかでも紹介している。
 彼らが貧しいとは思わないが、転職という目標の前で立ち竦んでいる姿が気になった。コールセンターで働く若者には、一応、シナリオがある人が多い。働きながらタイ語や英語を身につけ、タイの日系企業に就職という流れだ。しかし、そう簡単に語学は身につかない。そして学校にも通わなくなる。僕が会った若者は、そんなタイプが多かったのだ。
 ところが、最近、ある旅行会社の人からこんな話を聞いた。
「ゲストハウスでだらだらしている若者よりも、コールセンター組のほうが旅に出る人が多いんです。休みを使って」
 そうだったのか。彼らは僕のようなおじさんに伝わる言葉はもっていないが、しっかり旅をしている。そういう若者もいたのだ。
 考えてみれば僕もそうだった。汚い姿で安宿に泊まっていた僕らを、バンコクに長く住む日本人やで駐在員たちは、「困った若者」と見ていた気がする。そんな旅の因子をもった若者たちが、コールセンターというシステムを使いはじめていた。
 時代の変化とはそういうことかもしれなかった。僕はいつの間にか、訳知り顔の小うるさい大人になっていた。自戒の一瞬だった。

(お知らせ)
 朝日新聞のサイト「どらく」連載のクリックディープ旅が移転しました。「アジアの日本人町歩きの旅」。アクセスは以下。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html


Posted by 下川裕治 at 17:10│Comments(0)
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