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ナムジャイブログ

2016年09月26日

小声で語るアジア

 90歳になったという老人と、話をした。「もう少し、大きな声で話してくれませんか」と何回かいわれた。老人は耳が遠かった。
 病院や介護施設に行くと、そこで働くスタッフの声は大きいことに気づく。耳が遠くなる老人と接しているからだ。
 子どもの頃から、声が小さいとよくいわれた。小学校や中学でもよく注意された。
「下川、もそもそと話すな。話すことに自信がないのか」
 教師の言葉は、僕のなかでコンプレックスとして育っていった。
 いまでも声は小さいと思う。そんな人間がしばしば講演を依頼される。なんとかこなせるようにはなってきたが、終わった後は、もう死にたいぐらいに疲れる。自分の声は聞きとりにくいというコンピレックスがくすぶっている。
 タイという国が気に入った一因はそこにもあるような気がしている。タイ人の声は小さい。囁くように、というほどではないが、がんがんと大声で喋る雰囲気はない。はじめてタイのバンコクを歩いたとき、小声で話す人々の社会が、僕のなかにすっと入ってきたように思う。
 タイ語学校に通い、ある程度のタイ語を理解できるようになった。小声で彼らは、かなりひどいことを口にしているという怖さも知ったが、どんな内容であれ、そっと話すような雰囲気が僕には合っていた。
 中国人を歩くときとはかなり違う。タイという小国が培った美意識が、僕にはありがたかった。
 昔、いまは東京海洋大学になった東京水産大学の教授を訪ねたことがあった。秋篠宮様が結婚することになり、その周辺取材が目的だった。秋篠宮様は、タイでナマズの研究をしていて、その指導役の教授だった。
 研究室にはタイ人の留学生がいた。タイのナマズの話になり、その留学生とタイ語で言葉を交わした。
 そのとき、教授からこういわれた。
「下川さんはタイに長かったんです? こそっと囁くように話すところは、タイ人そっくりですよ」
 そんなつもりはなかったが、僕の話しぶりはタイ人のそれに似ているようだった。もともと声が小さいのだ。タイという国に僕を導いてくれたのは、そんなことだったのかもしれない、と思ったものだった。
 しかし、こういう人間は肩身が狭い。自分の主張をはっきりと大きな声でいうことは国際社会の王道のようなところがある。僕にも主張はある。しかし声が小さいと、さまざまな民族が交わる社会では、自己主張の少ない人間に映ってしまうのだ。
 それは日本の高齢化社会も同じらしい。介護の世界に飛び交う大きな声。僕も将来そんなスタッフの世話になるのだろうか。そう考えると、少し気が重い。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=台湾のディープ旅がはじまります。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。マレーシアの鉄道の完乗し、ベトナムへ。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 12:35│Comments(2)
この記事へのコメント
私は医療機関に勤めていて、大半が年配の患者さんなので意識して大きい声で話すことが多く、よく声が裏返ってしまいますが、それでも時々なかなか伝わらないこともあります。
声の大きさに関係なく聞き取りやすい声、聞き取りにくい声ってありますね。
下川さんのトークショーではいつもとても聞き取りやすく、耳からするする入ってくる魅力的なお話にワクワクさせられます。
次回も楽しみにしています。
Posted by たぬきまるようこ at 2016年09月28日 13:57
以外でした!
下川さんは話すのが苦手だなんて、、、
話し上手な人だと思っていました。

話す内容がしっかりしていて
あやふやな所なんてなく聞きやすい
と思います‼

死ぬほど疲れちゃうかも知れませんが
トークショー楽しみにしています。
沢山お話を聞かせてください!
Posted by たぬきまるだいすけ at 2016年10月18日 20:09
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