インバウンドでタイ人を集客! 事例多数で万全の用意 [PR]
ナムジャイブログ

2018年05月07日

旅の少数派のひとりごと

 旅の世界でいえば、僕は少数派である。唇をかむような思いは、これまでも幾度となく味わっている。
 たとえば今日。日本はゴールデンウイークの最終日である。ぼんやりとテレビのニュースを観ていると、成田空港は帰国ラッシュだそうだ。到着ロビーでのインタビューが映し出される。
 ゴールデンウイークの間、僕はなにをしてたのかといえば、5月の明るい日射しをときおり眺めながら、ずっと原稿を書いていた。そして明後日からタイに向かう。世間の人たちとやっていることが逆なのだ。
 こういう生活にそれほど抵抗感はない。仕事をはじめたときからそうだった。僕は大学を卒業して新聞社に勤めた。当時の新聞記者は、休みなどあってないようなものだった。たとえば元旦とか1月2日。人々は家にいるというのに、僕は毎年、箱根駅伝の取材に走りまわっていた。仕事とはそういうものだと刷り込まれた気がする。
 30歳代の半ばから、旅が生業になっていったが、経費をかけない旅、つまり貧乏旅行でデビューしてしまったものだから、航空券が高い時期は海外に出ることができなくなってしまった。連休や夏休みなどは、どこへも行かず、ただ日本で仕事をしていた。
 そんなサイクルだから、休みと仕事の境界が曖昧だ。世間ではブラック企業がしばしば話題になる。頭ではわかっていても、僕は実感をつかめてはいない。ものを書く仕事というものは、いつも休んでいるような、四六時中仕事をしているようなところがある。仕事の質が違うのだと思う。
 明後日からタイに行くが、知り合いの旅行会社に頼んでダミーの航空券を用意しなくてはならない。帰国の日程が決まっていないのだ。インドネシアの鉄道に乗らなくてはならず、いつ帰ることができるかわからない。
 タイに限らず、日本人に対してビザを免除している国は少なくない。しかしそこには、帰国の航空券をもっていることという条件がつくことが多い。普通は、帰国用の航空券をもっているから問題はないだろうが、僕のような旅行者にとって、ビザ免除はときに煩雑である。
 僕の旅はやはり少数派なのだ。だから混みあう時期に航空券を手に入れる苦労を知らない。こんな人間が旅の本を書いていいのかという疑問は昔からある。
「大丈夫ですよ。下川さんみたいな旅は誰もしませんから」
 喜んでいいのか、自戒すべきなのか……困るような励ましをときどき受ける。それならなぜ、僕の本を読んでくれるのか。
 おそらく僕の旅が少数派のそれだからだろう。インドネシアの旅は、東南アジアの全鉄道路線に乗るというものだ。たしかにそんな酔狂な旅は誰もしない。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=玄奘三蔵が辿ったシルクロードの旅。今は中国編を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。インドネシアの列車旅の連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 18:03│Comments(1)
この記事へのコメント
少数派というならば、私もそんなタイプではないかと最近感じ始めています。
ツアーコンダクターでありながら、有名観光地には殆ど興味が無いのです。
そこに辿り着くプロセスが楽しいのです。移動している時間に旅を感じてしまいます。だから、先生の旅のスタイルにはとても憧れを抱きます!
Posted by hrd nok at 2018年05月07日 18:43
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。