インバウンドでタイ人を集客! 事例多数で万全の用意 [PR]
ナムジャイブログ

2020年06月01日

鉱物が体のなかで生物になる

 原稿を書きにくい状況に置かれていると思う。この2ヵ月ほど、新型コロナウイルスに振りまわされてきた。
 感染がはじまった頃、中国の事情や、アジアの状況についての原稿依頼が次々に舞い込んだ。さて、どう書こうか……と、うろうろしているうちに、状況がめまぐるしく変わっていってしまう。
「書きづらいですね」
 原稿を依頼した担当者と苦笑続きだった。
 感染が世界に広まっていく頃になると、ますます書きにくくなってきた。
 周囲の人々と同じ行動をとることが嫌いな人がいる。感染がまだ深刻ではなかった頃、皆がつけはじめたマスクを嫌う知人がいた。
「なにか右に倣えって感じで嫌なんだ」
 多くの人がそんな意識をもっている気がする。人と自分は違うという意識が文化を生んできた。たとえばファッション。人と違うものを着たいという指向がなければ成り立たない。それは個性の表現といい換えてもいいかもしれない。
 しかし感染が広がり、ウイルスが脅威に映るようになる。自粛に従い、マスクをつけ、外出を控えるしか、普通に戻ることはできない……。皆が個性を封印していく。
 原稿というものは個性でなりたっている。同じことを書いても誰も読まない。しかし皆が同じ行動をとるようになると働きはじめる同調圧力は、ときに原稿の世界ではマイナスのベクトルを生む。
 不自由な環境のなかで、人間とウイルスの関係の本ばかり読んでいる。
 人間は移動する生き物である。移動することで進化の海を泳ぎ切ってきた。ある生物学者は、「よりよい環境を探索する能力のあった生物が、そうでない生物ではたどり着けなかった資源を手に入れてきた」と進化というものを解説する。
 しかしウイルスは生物ではない。いや、生物か。ウイルスは代謝をしない。栄養をとることもしない。ある条件でウイルスを集めると結晶をつくるのだという。どこか鉱物に似ている。生きてはいないのだ。
 しかしウイルスは増えることができる。新型コロナウイルスは、体のなかに入ると、人の細胞にウイルスのDNAを送る。体はそれに反応し、コピーをどんどんつくってしまう。つまり、ウイルスを増やしているのは、私たちの体。ウイルスを自分の細胞のように認識する。鉱物は人間の体に入って生物になるわけだ。そう眺めると、ウイルスは人の体そのもののようにも映る。しかしそのウイルスが体に悪さをする。
 この関係がどうしても腑に落ちない。ウイルスは体にとって悪なのか、善なのか。
 生物学者は善だという。進化を進めるからだ。しかしここでいう進化は、人は移動することで生きのびた進化とは時空が違うようにも思える。つながりそうで、つながらないもどかしさ……。想像だけは膨らむのだが。
違う。

■“旅情報ノート”クラブの内容は、以下のサイトで?http://www.arukubkk.com/
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=沖縄の離島のバス旅がはじまります。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=沖縄の離島のバス旅シリーズがはじまります。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji



Posted by 下川裕治 at 23:26│Comments(1)
この記事へのコメント
ふとここ数日、欧米系の若者が街を歩いている姿をちらほら見かける。旅行者なのだろうか?であれば彼らこそ2月の記事(空港から消えた中国人)に出てきた鈍感な欧米人だ。そして今回の記事のように、人と同じことをしたくない人種の先遣隊と言える。複雑な気分だが応援したくなってしまった。
Posted by なかも at 2020年06月07日 22:11
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。