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ナムジャイブログ

2010年07月12日

走っても、走ってもシベリアの森

 目と鼻の先に軍艦が停泊している。こんなものを、平気で見せていいのだろうか。重い冷たい雨が、霧のかかった港に降り続けている。気温は20度ほどか。それでも街の人々は、タンクトップやTシャツ姿だ。脆弱な夏だが、彼らにしたら、はしゃぎたくなるような気温なのだ。
 ウラジオストク──。
 港の脇のカフェで、この原稿を書いている。
 一昨日の夕方、ソヴィエツカヤ・カバニ駅から列車に乗った。バイカル・アムール鉄道の始発駅である。そこから約1600キロ。ウラジオストクは、ロシア正教の教会のたまねぎ型の屋根が見える港町だった。
 ソヴィエツカヤ・カバニ駅は小さな駅だった。まるで丸太小屋のような小さな駅舎が、白樺の林のなかにぽつんと建っていた。
 定刻に発車した列車は、リアス式海岸に沿ってカーブをいくつかまわりワニノ駅に着く。ここがユーラシア大陸の東端である。
 そこから列車は海岸線を離れ、アムール川の支流に沿って、シベリアの森に分け入っていく。夜の9時になっても、10時になっても空にはしぶとく明るさが残っている。
 走っても、走っても、白樺の森である。その間に、シベリアらしい木造りの家が点在している。食堂車でシベリアのサケを食べていると、停車駅から魚が積み込まれた。川で獲れたマスが数匹。これも料理になるのだろうか。シベリアを走る列車は、材料を森から調達しながら進んでいく。
 翌朝、コムソモリスクに着いた。
 ここまで走った線路には、きな臭い歴史が秘められている。この路線の建設がはじまったのは1943年である。2年後には、コムソモリスクとソヴィエツカヤ・カバニ間が開通するが、その目的は日本侵攻だった。日本の敗戦を読んだ旧ソ連は、日本に北から攻めるために、突貫工事でこの路線をつくっていく。おそらく、ソ連兵は、この線路を走る列車に揺られて、日本では樺太と呼ばれたサハリンに向かったのだ。
 白樺の森は、そんなことをなにも知らないかのように静まりかえっていた。
 その日の夕方、ハバロフスクに到着した。
 列車にはふたりの女性の車掌が乗っていた。50代のおばさん車掌は、まるで母親のように僕らの世話を焼いてくれる。朝、コムソモリスクのホームに下りると、
「あの売店のヨーグルトがおいしい」
 と自分も買った袋の中身を見せながら教えてくれる。朝には紅茶のお湯を注いでもらい、夜、食堂車にビールを買いに行こうとすると、
「私から買いなさい」
 と車掌室からビールを持ってくる。こづかい稼ぎ半分のロシアのおばちゃんである。
 列車はベッドが4つのコンパートメント。そこが僕らの我が家のような感覚である。
 ハバロフスクを出発した。駅の売店で買ったシベリアビールをなめるように飲みながら、明かりひとつない暗い森を眺め続ける。
 列車の軋みを耳にしながら、いつしか寝入ってしまった。
 目覚めると森から白樺が消えていた。
 確実に南に来た。
 ウラジオストク──。
 夕方の列車で中国のハルピンに向かう。
(ウラジオストク。2010/7/5)


Posted by 下川裕治 at 12:00│Comments(2)
この記事へのコメント
哈爾濱の街で出会ったロシア人観光客とロシア雑貨。それでも今は、黒龍江省の省都であり、交通の結節点。ずいぶん中国の北に位置するけど、大陸内部の夏は暑い。
そんな街へ向かっているのですね。
まだまだ、国境貿易も盛んになってきているようだけど、ロシアと中国では売りの中国と買いのロシア。
ロシアが中国に売れるものは少ない。せめて、ロシア人の買い物ツアーと安い物価の国中国での観光か。
しかし、経済成長に欠かせないこれからはシベリアの資源が中国に売り込まれる。そんなみなみやま的哈爾濱考察。
無事な旅を。この後のルートはどうなるのでしょうか?
Posted by みなみやま at 2010年07月15日 15:10
成田空港への新アクセス。
京成スカイライナー7/17スタート。
36分で結ぶ。片道2400円だという。200元弱。哈爾濱~瀋陽北までの和諧号540キロの運賃だ。普通列車だと哈爾濱~北京まで充分行ける金額だ。
ニュースを聞いていて気付いたこと。新幹線以外では最速の160キロで運行だという。
おや?と思った。
中国ではすでに、東北地方など在来幹線では160キロ走行をしている。いわゆる和諧号だ。北京オリンピックにあわせて急ピッチで進んだ中国の鉄道高速化。
特に、哈爾濱と長春、瀋陽、北京を結ぶ幹線ではすでに実用化が進んでいる。
Posted by みなみやま at 2010年07月19日 08:41
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