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ナムジャイブログ

2013年04月22日

グレーゾーンの心地よさ

 先週、台湾に行っていた。これから1冊、台湾の本を書くことになっている。来月はべったりと台湾にいることになりそうだが、その下見を兼ねていた。いまさら……とは思うが、しっかり台湾という島を見てみたい思いがあった。
 大学の頃、華僑史の講座を受けていた。経済学部の学生だったが、ほかの学部の講座もも単位に入れてくれた。華僑史は文学部の講座だった。
 はじめての海外はタイだったが、2回目は香港と台湾をまわった。大学3年のときだった。華僑史の講座が面白く、龍山寺に毎日のように通っていた。授業に登場したものが次々に現れた。半月の形をした占いの道具。渦巻き形の線香。寺では纏足の老婆をはじめて見た。幼い子供のようにしか歩くことができない老人の足は、甲の部分がぷっくりと膨らんでいた。
 それから、数え切れないぐらい台湾に向かった。訪ねた回数からいえば、タイがいちばん多いが、その次が台湾である。
 台北の桃園にある空港に着き、そこからバスに乗る。車窓の風景を眺めながら、「やっぱり台湾は楽だよな」といつも呟く。僕は中国語を話すことができない。コミュニケーションということでいえば、決して楽ではないのだが、台湾には肩の力がすっと抜けるほどの安堵が漂っている。
 それは、曖昧な部分を飲み込む台湾の許容力が作用している気もする。
 そもそも台湾というエリアを国といってもいいかという時点からグレーゾーンがはじまっている。それを突き詰めていくと、出口のない隘路に入り込むことがわかっている。だからそのままにしておく発想である。
 かつて台湾では台湾省という表記が幅を効かせていた。大陸中国に対してひとつの省という発想である。この話になると長い話になってしまうが、台湾はこのいい方を「凍結」させた。廃止でも存続でもないのだ。しかし台湾を走る車のナンバーは台湾省が多い。この問題を荒だてようとはしない。
 夜市を歩いていると、カレー屋台が目に入った。鍋をのぞいてみる。懐かしいカレーだった。日本語でいうと「ライスカレー」という世界だ。カレー味は薄く、片栗粉を入れたようなとろみがある。いまの日本ではすっかり姿を消してしまった。日本時代に台湾に上陸したライスカレーが、そのまま台湾の味として残っている。
 この島では、日本も大陸の中国も、グレーゾーンのなかに入り込んでしまう。
 さまざま国を歩く。ナショナリズムが前面に出る国ほど気を遣う。足どりがぎこちなくなってしまう。だが、台湾にはそれがない。
 この島の心地よさとは、そういうことのような気がするのだ。

(お知らせ)
 朝日新聞のサイト「どらく」連載のクリックディープ旅が移転しました。「アジアの日本人町歩きの旅」。1回目は韓国にもあった日本人町(前編) です。アクセスは以下。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html


Posted by 下川裕治 at 23:12│Comments(1)
この記事へのコメント
はじめまして下川さんの物の十年来のファンでしてたそがれ色のオデッセを毎回楽しみに読ませていただいております。下川さんの台湾の本とは非常に楽しみです。台南も取材予定ですか?ぜひ台南の朝ごはんのMilkfish(新興路他)取材していってください。台南に関してでしたらいつでもお答えしいたします。厚かましいことをコメントして失礼いたしました。
Posted by ケンジ at 2013年05月02日 11:50
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