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ナムジャイブログ

2017年07月10日

湿気の国

 4日ほど前、ロサンゼルスから東京に戻った。ソウル経由の長いフライトだった。成田空港に着き、東京駅に向かうバスに乗るためにターミナルを出た。
 重い湿気に包まれた。
「うッ」
 思わず立ち止まってしまった。しかし安堵もある。水を得た魚ということだろうか。体や衣類、荷物……すべてが一気に水分を吸い込みはじめるような感覚がある。
 アメリカの西海岸は、悔しいぐらいに乾燥している。シカゴから列車に乗り、ミズーリ―州を南下し、テキサス州、アリゾナ州を横切って西海岸に出た。アリゾナの砂漠は、思った以上に蒸し暑かった。ところが列車が海に近づくにつれ、気温と湿度がさがっていった。乾いた空気と明るい太陽。ロサンゼルスの気候はやはりいい。日本人が抱くアメリアのイメージも、この西海岸で育っていった。コーラは西海岸で飲むとやけに体に染みる。
 しかし西海岸の気候は疲れも呼ぶ。もともと明るくもない人間が、無駄な明るさを強いられている感覚といったらいいだろうか。
 そこから太平洋を渡る。アジアのモンスーン気候のなかに入ってくる。湿度が急に高くなる。日本は梅雨のただなかだった。
 湿気……。西海岸生まれのアメリカ人が日本に暮らすようになり、皮膚にカビが生えてしまったという話を聞いたことがある。しかしその反対に、かさかさに乾いてしまった肌に水分を与えようと日本にやってくるロサンゼルスの人もいるという。
 週末、九州の別府に出かけた。前から決まっていた仕事だった。九州北部は豪雨に見舞われ、犠牲者が出ていた。こんな時期に……と思ったが、「こちらは大丈夫ですから」といいわれた。
 別府は鉄輪に泊まった。温泉地帯である。街のそこかしこから湯気が噴出している。道を歩くと、湯気に煽られる。加えて雨空。湿度はきっと90パーセントを超えていたかもしれない。
 湿気の国……。いまの時期の日本は、そんな表現がぴったりくる。
 かつて別府のイメージを変えるプロジェクトに協力したことがある。団体客を頼りにしていた別府は、女性客をターゲットにした湯布院に押されていた。団体客の減少も別府に危機感を生んでいた。
 韓国や中国からの観光客の増加は、別府を救ったが、最近はその数にも陰りが見えてきてもいるという。日本一の温泉には、日本の観光業を牽引する遺伝子が組み込まれているようにも思う。別府の知人たちは、湯布院スタイルの先を標榜する。
「そのキーワードは湿気?」
 湯気が勢いよく出る噴出音が聞こえる宿でそんなことを考えてもいた。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。シベリア鉄道を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅が続く。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 12:08│Comments(1)
この記事へのコメント
下川さんの本、いつも拝読しています。
鉄道の旅はミャンマーから、今度は米国ですか?原稿を楽しみにしています。
リクエストとしては、これまでの旅を総括するような、そんな一冊に期待したいです。
それにタイ、バンコクの総括も。
下川さんの人生を振り返る「アジアの弟子」とか、ああいった感じの本も、とっても好きです。
Posted by フラキート at 2017年07月10日 15:15
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